第84話 一致団結との衝突
バカな要求をしてくる男達を無視してそのまま踵を返すアカとヒイロ。
「おい待てよ!」
男達が吠える。待つわけねぇだろ。だがアカとヒイロの進路を塞ぐように男達は回り込んだ。
「お前達、うちのクラン……「一致団結」の所属じゃないな。「才色兼備」か?」
「さあね。どいてくれる?」
肯定も否定も必要無い。この時点ではまだ穏便に済ませるつもりはある。
「この時期に赤鉄カブトムシのから採集を受けるクランはうちと才色兼備だけだからな。お前らがしらばっくれても無駄だ」
「だったらなんだっていうのよ」
「それを置いていくならこの場は見逃してやるが、そうで無いならそちらのクランリーダーに抗議させて貰う」
「どんな脅しだよ。そもそも何の権限があってそんな上から目線なのかしら」
「知らないのか? このあたりは
「依頼には採取する場所の指定は無かったけれど」
「クラン間の取り決めだ」
「そんなもの知らないわね」
大体まだ才色兼備に所属していると肯定はしていないのだけど。
「……あくまで言うことを聞く気はないという事だな?」
「くどい」
いずれにせよ、せっかく集めた殻を渡すつもりは無い。ヒイロも同じ気持ちのようで、アカの隣でさり気無くメイスに手をかけているし重心を落としていつでも動けるようにこっそり構えているのが分かる。
実力行使をしてくるなら容赦はしないという心構えだが、予想に反して男達はスッと後ろに下がり道を開けた。
「あら、いいのね」
「警告はした。街に戻ったら宣言通り正式に講義させてもらうからな」
フンッと鼻を鳴らして背中を向けるリーダー格の男を一瞥してアカとヒイロはその場を去った。
「向こうから手を出してくれればなー」
「ヒイロ。一応穏便に済んだんだから滅多な事言わないの」
「そうだけどさ。それでアカ、どうするの?」
「別にどうもしないわよ。そもそも私達はクラン間の取り決めなんて知らないからあの人たちの俺ルールかも知れないし、仮に取り決めがあったとしてもあの人たちが「一致団結」の所属パーティだっていう証拠もないわけだし」
「それもそうか。大体名乗りすらしなかったもんね。うーん、帰ってもトラブルの予感」
ヒイロの予感……というか、向こうがクランを通して抗議すると言っているのだからそりゃあ何か起こるんだろうな。
「はぁ、組織に属するとこういう面倒臭さがあるのね」
「何か言われてもしらばっくれるっていうのは?」
「ヒイロ、流石にそれは……有りだね」
「お、悪いアカさんが出てきたね」
「そっちこそ」
ウシシと笑う二人。冗談はさておき、実際に問い詰められたら正直に話すしかないんだろうなあ。
……。
…………。
………………。
自分達だけ先に帰ってもいいかと聞いたが「もうちょっとで流れ星ちゃん達も帰ってくるし皆んなで帰ろうよ〜」と言われてしまい、仕方なく適当な岩に腰掛けて待つことになる。
なんでこんなに時間かけてるんだろうと思って見ていると、アカ達が殻を採集した小川の向こう側の方よりも明らかに殻の数が少ない。決してヲリエッタ達がダラダラと仕事をしているわけでは無さそうだ。
「ここでチマチマ探すより私達が行った場所まで行った方が絶対早いけど……」
「さっきの奴らにまた会ったらイヤだしね。黙って待ってようか」
一応パーティ毎で分業してるので――頼まれれば別だけど――助力するのもな、と思ったアカとヒイロはそのまま待ち続けることにした。
待つことおよそ2時間。ようやく雪月花のズタ袋がいっぱいになって来たところで、向こうから流れ星も戻ってくる。
「タイミングぴったりだったねぇ。双焔ちゃん、お待たせ。じゃあ戻ろうか〜」
再びヲリエッタが先導して山を降りていく一行。街に着く頃には夕暮れ時であった。大体16時半ぐらいだろうか、なんとか受付が報告待ちで混雑する前に戻ってくる事が出来た。
さて、受付に報告しようかと思った一行であったが、いつものテーブルにいたルシアに声を掛けられる。ちなみに彼女は別に一日中ここにいるわけではない。彼女は彼女で依頼を受けたり受けなかったり……受けない日はさっさとギルドから立ち去っている。つまり、今はあえてギルドに戻って来ているというわけだ。
「お疲れ。報告の前にちょっと来てもらっていいかい?」
リーダー3人が集められる。
「なぁに? 疲れたからさっさと報告しちゃいたいんだけど〜」
「「一致団結」から苦情が来た。アンタたち、彼らの縄張りで採集をしなかったかい?」
ルシアの言葉に、ヲリエッタとステラがアカを見る。アカは首を振った。
「アンタじゃないのかい?」
「分からないわ。そもそもその「縄張り」を教えてもらってないもの」
「……ヲリエッタ」
「あれぇ? 言わなかったっけ? 山の上の方は他のクラン、つまり「一致団結」が勝手に縄張りを主張しているエリアだからトラブルになりたくないなら気をつけた方がいいよ〜」
「上の方、ね。了解」
しれっと今更伝えるヲリエッタ。とはいえ「山の上の方」がNGならアカ達が採集していたエリアは大丈夫だろう。別にたいして上じゃ無かったし、うん。
「ヲリエッタ、そんな曖昧な指示があるかってんだ。そもそも仕事を始める前に話すべきだろう?」
「あはは、ごめんねぇ」
「構わないわ。次の採集の時には予め教えてもらえると助かるかな」
「うん、気をつけるよぉ」
「という事で、行っていいかしら?」
「まだだ。彼らは現地で注意したと言っているんだが、本当に一致団結所属のパーティに会っていないのかい?」
ルシアはアカに念を押す。
「そういえば私達の集めた素材を横取りしようとする不届者が居たかしら。当然、断ったけど」
アカがしれっと答えると、ルシアは頭を抱えた。
「そいつらが一致団結の者達だよ」
「あら、そうだったのね」
「本人達はそう名乗ったと主張しているらしいけど」
「そんな事を言っていた気もするけど、根拠が何も無かったもの。極端な話、会ったことのない才色兼備のパーティが男装してるだけって言われたところで私達には確かめる術がなかったわけで」
「それは一理あるけどねぇ……」
アカの理屈にルシアはむぅ……と考え込む。そんな彼女達の元に一人の冒険者が近寄ってくる。
「ルシア。裏は取れたのか?」
「フーマか。ああ、どうやらあんたらのパーティが出会ったのはうちの新入りで間違いなさそうだ」
「そうか。それで、話はついたんだな?」
「それはこれからだよ。……アカ、一致団結側はアンタ達がこいつらの縄張りで採った素材を渡すように要求して来ている」
「へえ」
アカは驚いた様子もなく相槌を打った。先ほど寄ってきたフーマと呼ばれた男は、不躾にアカに手を差し出した。おそらくさっさと素材を寄越せという事だろう。
だが、アカはそんなフーマを無視してルシアに問いかける。
「それで、話は終わりかしら? そろそろ依頼の報告に行きたいんだけど」
「はぁ!?」
「おい、聞いていたのかい? こいつらはアンタ達に責任を取れって言ってるんだよ!」
呆気に取られて変な声を上げたフーマと、改めてアカを諭すルシア。アカは髪を軽く掻き上げると、出来る限り尊大な態度で答える。
「揃いも揃ってバカじゃないの? せっかく私達が集めた素材を渡すわけないでしょうに」
「な、何を言っている!」
「……ほう」
あくまで強気な姿勢を崩さないアカに、ルシアは焦った様子をみせる。しかしフーマは面白いものを見るようにニヤリと笑った。
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