第83話 クランでの日々
クラン「才色兼備」に参加してから二十日ほど経った。
アカとヒイロはさっさとある程度のお金を貯めたら隣国、ツートン王国へ向けて旅立ちたいので基本的に毎日ギルドへ赴いている。
しかしクランのパーティはそれなりに来たり来なかったりをしており、傾向としてはまとまった金を稼いだ後は二、三日休んでまた出てくるといったイメージだ。
またこの世界には十日に一度安息日がありその日は工房などは休みとなるのだが、その日はクランメンバーの全員がギルドに来なくてアカ達は待ちぼうけを食らったりもした。
さて、ある程度メンバーが集まった日はルシアが適当に仕事を割り振ってくれるのだが、人数の関係で依頼を受けられない日もちょくちょくある。14〜15人ほど集まった時などはどうしても全員で行くわけに行かず――参加人数やパーティ数で報酬を頭割りするため、10人が適性の依頼はやはり10人で行きたいと皆思うためだ――そういった場合は参加率の低いものが優先されるので結局アカ達はあぶれる事になったりするためだ。
それでも毎日ギルドで素性も何も知らない相手を即席のパーティメンバーとして募るよりは段違いでやり易いので、クランに所属している恩恵は十分に受けていたし、そこまで大きな不満は無かった。……同じくらいの参加率で古参パーティが優先されるのは致し方ない事だろうと納得もできる。
そういった事情もあってこの二十日ほどで一応「これぐらい貯まったらこの街を出て次の国に向かおうか」と定めた目標金額のおよそ半分まで到達する事ができた。
ひとつ気掛かりがあるとすれば、十回弱の依頼を受けてきた中で未だにクラン内で組んだことのないパーティが何組かあるということぐらいか。彼女達は初日にミーナがいった「実力を示せなかったため、稼げる依頼を割り振って貰えない組」ということだろうか。まあ仕事の組み合わせの中でそのうち話すこともあるだろう。そうでなくともこのペースならあと二十日も稼げばこの街とはおさらばなわけで、無理に全員と仲良くする必要も無いだろう。
――あとから考えると、この時点で組んだことのない者も含めてもっと他のメンバーと親密に……とまでは行かなくてもせめてもう少し話をしてアカとヒイロの人柄を知っておいて貰えば、逃げるようにこの街を出る事にはならなかったのかもしれない。
◇ ◇ ◇
「今日は……うーん、メンバー的にこの依頼だな」
この日ルシアが選んだのは赤鉄カブトムシの殻集めだった。
今日ギルドに来ていたのはアカ達を含めて9人。こういう時はルシアが入って10人として狩猟依頼を受ける事もあるのだが、生憎他のメンバーは実力不足組であった。そうなると無理やり狩猟依頼を受けるよりは9人で素材収集をしたほうが良いと判断したルシアによって8名以上が条件とされるこの依頼が選ばれたというわけである。
ちなみに報酬は銀貨3枚。採集依頼のわりに高めではあるが、それは採集依頼のわりに大変だという意味でもある。
赤鉄カブトムシとは、全身がその名の通り真っ赤に燃えた鉄のような色をしている。夏の始まりから終わりにかけて、山で活動する昆虫なのだがこの虫、夏の終わりに殻を脱ぎ捨てて土に潜る。すると地面には脱ぎ捨てた殻が残るのであるが、この殻が工業製品の素材となるらしい。例えば粉々に砕いて火で熱すると溶けて鉄製品のメッキとなったり、薬剤で溶かして赤い塗料にしたりなどだ。
「ヲリエッタ、ステラ、アカ。頼んだよ」
それぞれルシアからはい、とズタ袋を渡された。大きさは45リットルのゴミ袋くらいだろうか。これが一杯になるくらいが必要量の目安らしい。
「あ、双焔ちゃん。お初だね。よろしくねぇ〜」
「……よろしく」
ほんわかした雰囲気、やや間延びした喋り方で挨拶をしてきたのが「雪月花」のリーダーのヲリエッタ。もの凄く小声でボソッと挨拶してきたのが「流れ星」のステラである。
……。
…………。
………………。
「さて、袋は三つあるしパーティ毎でひとつの袋を満タンにするでいいかなぁ?」
山の中腹までやってきた一行。このメンバーでは雪月花が一番先輩なので、ヲリエッタが先導してここまで来た。そのまま彼女がチーム分担を決める。
「報酬はどう分けます?」
「パーティ毎に銀貨1枚ずつでいいっしょ〜。
「……はい」
ヲリエッタの提案にステラは小さく同意する。人数比だと割り切れないのでパーティ毎で割ってくれるのはありがたい。その分二人でこの袋一杯に殻を集めないといけないわけだけど。
「じゃあ私達はこの辺りで殻を探すよ〜。あなた達はあっちの方でお願いね〜。あ、さっそくひとつ見っけ。双焔ちゃん、集めるのはこれだからねぇ」
間延びした喋り方とは裏腹に、さっさ行動に移ったヲリエッタは拾った殻をアカ達に見せてくれる。なるほど、確かに真っ赤な殻だ。それにしても大きい。アカの顔ぐらいのサイズがある。殻というだけあってとても軽そうだけど、これ中身がいたら拾うの躊躇するサイズの虫だよなあ。あたりは紅葉が落ち葉となって積もっており、それがこの殻と似た色をしているのできちん集中して地面を見ないと見落としてしまうだろう。またそこら中に落ちているというわけでも無いので、ヲリエッタの指示通りある程度離れて探したほうが効果的だろうなと考えて指定された方向に歩き始めた。
そのまま五分ほど進むとステラが「私達はこの辺りを探す」と呟いて立ち止まる。必然的にアカとヒイロはさらにもう五分先まで進むこととなった。
「あ、一個見つけた」
「これ、ほんと分かりづらいね」
落ち葉が枯れてから拾いにくれば見つけやすいのにと思うが、放置すると他の虫に食べられてしまうらしいのでやはり取りに来るにはこの時期しかないらしい。
殻を探して歩いていると小川にぶつかる。しばらくその付近を探したけれど、最初の数個から全く数が増えない。
「水場の付近にはあんまり居ないのかな」
「じゃあ向こう側を探してみる?」
「そうね。この袋をいっぱいにするには何百個も集めないといけなさそうだし」
幅数メートルの小川なので、ぴょんと飛び越えて向こう岸に渡る。そのまま少し奥に進むと、殻を見つける事でした。
「やっぱり水辺から離れたほうが良さそうね
「うん。この辺りだと結構落ちてる感じだね」
調子良く殻を拾っては袋に入れていく二人。2時間ほどかけて袋をいっぱいにした。
「ふぅ、戦いとは別の意味で疲れた」
「ずっと下を向いてたから首が痛いね」
首の周りをトントンと叩くヒイロ。袋の口を縛ってヲリエッタ達のところに戻ろうかとした二人の前に、5人組が現れる。
男3人、女2人のパーティだ。男が混じっているので当然、「才色兼備」に所属しているパーティではない。
まあ他パーティと鉢合わせたと言って何か問題があるわけでもないので軽く会釈をしてそのまますれ違おうとする。しかしそんなアカとヒイロを男達が呼び止める。
「まて。あんた達ここで何をしていた?」
「何って、素材を集めていただけだけど」
「その袋だな? 中身は何だ?」
高圧的で嫌な連中だなと思った。まあこちらは女の子二人なので他の冒険者には基本的に舐められるのだけど。
「聞かなくても分かるでしょ、あなた達だって同じ袋を持っているんだから」
「赤鉄カブトムシの殻だな?」
アカは肩をすくめる。ほら分かっているんじゃない、と言外に示しつつ相手を挑発するジェスチャーだ。意図が伝わったのかは分からないが、男は一歩前に出て高圧的に命令した。
「それは俺たちのものだ。ここに置いていけ」
「バカじゃないの?」
当然、否定する。
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