第79話 冒険者クランとは
新人冒険者を狙う者達がいると言うのは得難い情報であった。だが逆にその情報がアカとヒイロを縛ったとも言える。こんな話をされてホイホイパーティの勧誘について行けるほどアカ達は図太くない。かといって二人きりでは碌な依頼を受けられない。
「私達に声を掛けてくるパーティが良い人かどうかってどうやって見極めればいいんですかね?」
いっそこの街を出る可能性すら頭の片隅に置きつつ、アカはルシアに訊ねる。
「あ、それ思った。失礼を承知で言うけど、ルシアさんだってこうやって忠告するふりをして……って可能性もゼロじゃないってことになりますよね」
ヒイロの本当に失礼な発言に、ルシアは怒ること無くむしろ納得するように頷いた。
「その疑いは正しいさ。何故なら悪行を働くようなパーティも同じ忠告をするからね。その上で自分のパーティに勧誘するんだ。そして世間知らずの新人冒険者は「親切に危険なパーティが居るという情報をくれた人間がまさかその当人だった」なんて世間知らずの考えず、むしろ相手を信頼してしまうんだ」
「こわっ」
「そんな話をされたら余計についていけないんですけど……」
ルシアはフッと笑うとテーブルの上で手を組んだ。
「だが、そんな奴らと我々の違いはここからだよ。あたしは君達を
「パーティには……?」
「あ、さっき「クラン」って言ってたけど、それですか?」
うむ、とルシアは頷く。
「ここまで色々と話して来たけど悪意のない冒険者達が手をこまねいて居たわけじゃない。この街のルールを受け入れつつも食い物にされる冒険者を減らすために何が出来るか、色々と考えて来たんだ」
彼らは考えた。パーティが最低5人以上でないと碌に依頼を組む事ができないから歪みが大きくなるのではないか。しかし現実問題、パーティが4人以下だとまともに依頼が受注できない。
そこで思いついたのが、いくつかのパーティが集まった組織を作り、そこから依頼毎のの要求人数に応じてメンバーを募るシステムだ。
「クランっていうのはいくつかのパーティが集まった
……。
例えば一つのクランに以下のようなパーティが所属しているとする。
パーティA:5名
パーティB:5名
パーティC:4名
パーティD:3名
パーティE:2名
パーティF:1名(ソロだが便宜的に1パーティとする)
このクランで、10人以上制限のクエストを受けようと思った場合、例えばA+B、A+C+F、A+D+E、C+D+E+F …… といった組み合わせを組む事ができる。依頼の難度や報酬次第では11人、12人と人数を増やすこともできるし、簡単な依頼が二つであれば10人ずつに振り分けをすることも可能だ。
「なるほど。パーティを無理に5、6人にしようとすると抜けたくても抜けられない状況が生まれるから少人数でも依頼を受けやすくなる仕組みを作って、より健全なパーティの編成ができる風土を作ったというわけですね」
「クランの規模がある程度大きければ依頼毎にかなり細かく調整が効くし、冒険者側にとってはありがたいシステムだね」
クランのシステムに感心するアカとヒイロ。
「自分で言うのもなんだけど、アンタたち説明を聞いただけでよくそこまで分かったね。最近入ってきた子なんかは仕組みが理解できないけどクランに所属しておけばやりたい時に仕事を回してもらえるからそれでいいやなんて感じなのに」
こちらはこちらでよく分からないポイントに感心するルシア。
ああ、確かにこの考え方って簡単な論理パズルみたいな部分があるからこの世界の平民、つまり一般的な冒険者層の教育水準だと理解しづらいのかもしれないなとアカは思った。アカとヒイロは数学1Aとか2Bなんかはそこまで得意でないもののこのぐらいの考え方なら感覚的に理解できる。これは小学校の頃はクラス内でグループ分けをして学習する機会があったり、中学高校では部活内で班を分けて練習メニューを組んだりと「組織の中で小さな班を分けて適当な仕事を割り振る」という経験を重ねてきたからかもしれない。
そんな分析をしつつもクランについて気になる点を聞いてみることにする。
「例えば3つのパーティで依頼を受けた場合は、報酬はどうなりますか?」
「そこは三等分ではなく、人数全体で割ることになっているね。10人で銀貨10枚の依頼を受けたなら一人あたりの報酬は銀貨1枚だ」
「端数は?」
「銅貨で割り切れない場合の端数はクランの運営資金として余分に預かるが、10人ならそうそう割り切れないこともないな」
「運営資金?」
「ああ。どのパーティがどの依頼を受けるかといった調整をする者はどうしても依頼に出る機会が減るから、そういった者へのお礼代わりの報酬や、クランとして受けた依頼が達成できなかった場合のペナルティ用にある程度まとまった金をプールしてあるんだよ」
「なるほど」
それはそれで横領などのリスクもありそうだけど、まあ必要性は理解できる。
「あと気になるのは……パーティ毎に実力差がある場合はどうしてるか、とかですかね」
「ある程度は仕方ないって感じだね。ひとつの依頼に新人が二組以上入らないように気を付けているぐらいかな。あと、ここからがこのシステムの肝とも言える部分なんだけど……」
コホン、と前置きをしてルシアは腕を組みつつ続ける。
「あたしがリーダーを務めるクラン「才色兼備」は女だけしか居ないクランなんだ」
◇ ◇ ◇
ルシアによると、同じパーティならまだしも別のパーティ同士で即席のパーティを組んだ場合、女性だけのパーティはまず間違いなくトラブルの元になるらしい。理由は語るまでもない。
「クランという仕組みを作る時に悩んだのがやはり女性冒険者をどう守るかという部分だった。どうしたって腕力で敵わない男性冒険者に対して弱い立場になりがちだからね」
「それでいっそのことクラン全員を女性で固めようというわけですか。力技だけど確かにいい案ですね」
「分かってくれるかい! こうして声を掛けて説明しても中々理解できない子も多くてね」
「ああ……まあ男性から性的な目で見られた事が無かったり、女だからって理不尽を受けた事がないとピンと来ないかもしれませんね」
「そういう子には、むしろ強くて頼りになる戦力を除外するクランだって思われちゃうのかもしれないね。女の子だけで固まってるとそこは明確なデメリットになるわけだし」
「そうなんだよ。だから女だけのパーティに声を掛けても半分くらいは勧誘を断られちまうのさ。この街にはもうひとつ大きなクラン「一致団結」は男女構わず来るもの拒まずな事もあるし、そっちに流れていく子が多いね。まあ「一致団結」でうまくやっている子もいるし、それはそれで仕方ないと思う。ただ「
ルシアは改めてアカとヒイロを正面から見据える。
「そんなわけでどうだい、うちのクランに入る気はないかい?」
「お誘いはありがたいですけど……私達、この街にそんなに長居するつもりがなくて」
「うん。銀貨20〜30枚くらい稼いだらツートン王国に向けて旅立つ予定なんです。それでも大丈夫ですかね?」
「ああ、構わないさ。いまはちょっと人が減ってる事もあって、期間限定でも居てくれるだけでありがたいからね」
「そう言ってもらえるなら……じゃあ、お世話になります」
「ちなみにクランとしての決まり事ってあったりします?」
「うーん、まあせいぜい他のクランと掛け持ち禁止ってぐらいかね。あとは仲間と争わないとか、そんなもんさ」
「それなら守れるかな」
「ああ、よろしく頼むよ!」
ルシアが手を差し出したので、アカとヒイロは交代でがっしりと握手をした。
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