第80話 才色兼備
「ではこのままクラン名簿に書いてしまおう」
ルシアは一枚の紙を取り出した。勧誘からの流れるような手際の良さはさすがと感心に値する。
「そこに「才色兼備」に所属しているメンバーが書いてあるんですか?」
「ああ。正確にはパーティ名と人数、それにリーダーの名前だけだがな」
ほら、と見せてくれる。
○クラン 才色兼備
リーダー ルシア
調整担当 オルガ ・ ドンナ ・ リリン
所属パーティ(人数)・リーダー
絆の力(3)・ラブリ
切れた刃(3)・ナナイフ
南の女傑(4)・サウシア ※脱退
大剣の契り(5)・テレサ
重き愛(1)・ジェラスイ
魔法隊(5)・ミーナ
肉体言語(3)・マッソゥ
酒の力(2)・ルモット
雪月花(3)・ヲリエッタ
柔き光(4)・シャイナ
夢心地(3)・リンシア ※脱退
緑の輝き(2)・グリネ ※脱退
流れ星(4)・ステラ
頑張り屋(3)・イタマ ※脱退
「これ、上の方のパーティが古参の人たちって事ですか?」
「ああ。上から5つ……「重き愛」までがクラン結成当初のパーティさ。この街で活動している中であたしの考えに賛同してくれた子たちだ」
「この「※脱退」っていうのはそのままの意味ですよね?」
「そうだな。サウシア達「南の女傑」は四人中二人が結婚して冒険者を引退したんだ。そのままパーティも解散してこの街を出ていくことになったんだよ」
「下の方の三つのパーティは?」
結成当初のパーティがひとつ、メンバー引退による解散は理解できるが、比較的新しく加入したパーティが相次いで脱退しているのはなんとなく不自然さを覚える。
「それなんだがな……あたしもよく分からないんだ。みんなここ一年以内に入ってくれた子達なんだけど、気付いたら
「この「夢心地」「緑の輝き」「チームガッツ」の三つのパーティがですよね。それって同じタイミングですか?」
「いや、それぞれ加入時期も抜けた時期も違うな。……それどころか、加入期間に被りもないからそれぞれ面識も無いはずだ」
「新人イジメでもあるんですかね?」
「そんな事はない、と言いたいけれどな……」
顔を曇らせるルシア。確かに全員の動向を把握するのは難しいだろう。イジメは無くとも既に出来上がっているクランというコミュニティに馴染めずに辞めたという可能性もあるし、この場で議論しても結論は出なさそうだ。
「わかりました。じゃあもしも私達が誰かからイジメを受けたら、辞める前にルシアさんに報告しますね」
「そうだな……そうしてくれるとありがたい」
「それで、この名簿に名前を書けばいいんですか?」
「ああ、だけどこっちで書くよ。他人の書いた字は読めない事もあるからね」
ルシアはいつのまにかギルドの受付から借りてきていた羽ペンを取り出すと、名簿に手をかける。
「まずはパーティ名だな」
「パーティ名か。そういえば決めてなかったね」
「そういうの決めるの苦手なのよね。そこは私たちの名前ではダメなんですか?」
「冒険者をやるならパーティ名はあった方が便利だぞ? 少なくともパーティ名が無いと指名依頼も入らない」
「そうなんですか?」
「指名依頼の依頼票にはパーティ名を書くところしかないからね。それ以外にも個人の名前で活動していると、他で騙られたりする事も多い」
「騙りについてはパーティ名を語るのも一緒じゃないですか」
「一応ギルドの規則で他のパーティのふりをする事は明確に禁止されているんだ。偶然パーティ名が被ってしまうことはあるが、その場合はあとからその名前をつけた方が変えなければならないしな」
そうなのか……そういえばイグニス国で活動していた時もたまに「パーティ名は?」と聞かれる事があったなと思い出す。あの時は「特に決めてないです」と返していたし、なんなら「この世界の人たちは色々と面白い名前を考えるな」とすら思っていたけれど、それをつけるのが一般的だったということか。どおりで珍しいものを見るような顔をされていたわけだと納得しつつ、アカは隣のヒイロに訊ねる。
「ですって。どうする?」
「あった方が便利っていうなら今考えちゃおうか」
「さっきも言ったでしょ、そういうの苦手なのよね」
あまり格好良い名前をつけると自分で名乗るのも恥ずかしいし、かといって変な名前もつけたくない。
「じゃあ私が決めちゃってもいい?」
「あまり変なのだったら却下するけど……」
「「双焔」ってのはどう?」
「……前に傭兵やったとき(※)に言われたあれ?」
(※第1部 第4章 第54話)
そう、とヒイロは頷いた。
「なんかカッコいいなって思ってたんだよね」
「そうかな? ……まあでもうん、そんなに変な感じじゃないし、それならいいかも」
「やった、じゃあ決まりだね! ルシアさん、私たちのパーティ名は「双焔」でお願いします。人数は二人で、リーダーの名前はアカになります」
「了解」
ヒイロに言われてさらさらと名簿に書き込むルシア。
「え、リーダー私?」
「え、違うの?」
しれっとリーダーにされた事に意を唱えたアカだが、逆にヒイロが驚いたように振り返る。
「旅に出た時からずっとそのつもりでいたけれど」
「私は、ヒイロと対等のつもりだったよ!?」
「別にどっちが上とかじゃなくて、ギルドでやり取りする時とか初対面の人と話す時とか、基本的にアカが対応してくれるから……」
そう言われればそうだけど、リーダーかと言われるとなんとなく遠慮したくなる。しかしそんなアカにルシアがやや申し訳なさそうに声を掛けた。
「もう名簿に書いてしまったし、アカがリーダーということで良いんじゃないかな? リーダーと言っても基本的にギルド側が話をする時に誰に声を掛けるかというだけのものだ……中には報酬の分配を多めに要求する輩もいるけれど、アンタ達はそうじゃないんだろう?」
「当たり前です。……そういうことならまぁ、仕方ないか。ヒイロ、ひとつ貸しだからね!」
はーいと返事をしつつもヒイロは知っている。アカは「この前私を勝手にリーダーに任命したのを許してあげるから」なんてこの件を持ち出してヒイロに何かさせようとする事は絶対に無いという事を。こういうお人好しなところも、ヒイロがアカの大好きなところだった。
◇ ◇ ◇
「じゃあ明日の朝またギルドに来てくれればクランのメンバーに二人を紹介するよ。仕事の割り振りもその時にしよう」
「
「そうだね。そのぐらいになんとなくこのテーブル付近に集まるのが決まりになっている」
「分かりました、よろしくお願いします」
今から依頼を受けるには中途半端な時間になってしまったので、今日は一度宿に戻り荷物を置いてから街を散策する事にした。大きな街なので雑貨屋や鍛冶屋などが複数ある。
ルシアにそれぞれお勧めの店を聞いたので、そこを中心に一応他の店も見ておこうかという話になった。
「それにしても活気のある街ね」
「うん。前に訪れたこの国の首都に負けず劣らずだね」
首都は首都で人――市民、商人、旅人問わず――が多く、日本の大都会ほどでは無いにしても活気と喧騒を感じた。この街は人の多さもさることながら、特に街の住人達が活き活きとしている気がする。この辺りは生活の余裕の差がなのかしら。首都は確かに人は多かったが
それはやはり多くの人が仕事を持ち、それが正当な報酬に繋がっている事に起因しいてるのかも知れないなとアカは思った。
その経済の骨子となる素材収集を冒険者が支えているというのがやや歪な構造な気もするが、うまく行っているうちはそれでいいのだろう。差し当たって自分たちもしばらくの間はその歯車の一部となるわけだ。
朝九時前にギルドに行って、その日の
「なんか会社みたいだね」
「私も同じ事思ってた。まあ、これで一日あたり銀貨1〜2枚を稼げるってなるのなら助かる……かな?」
「そうだね。明日から頑張ろう!」
クランか。ルシアは話した感じ、好感の持てるタイプだったけれど、他のパーティはどんな人達だろう。新人イジメ……無いと良いんだけどなぁ。
第80話 了
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作者より
パーティ名、クラン名に四字熟語を使っていたりしますが、「異世界にも日本の四字熟語があるのかよ!」と思わずにこの辺りもアカとヒイロがいい感じに意訳していると思っていただければ幸いです。
web小説という媒体なので、役目の少ない(精々1〜2シーンしか出ないような)キャラは出来るだけ固有ネームを出さないように心がけているのですが、今回一気に増えてしまった……この中には今後出てこない人物も居ますし、アカ達にガッツリ絡む人物も居ます。他パーティが作中に登場する時はきちんと初登場キャラとして出て来ますので、この話のパーティリストは雰囲気で楽しんでいただければと思います。
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