第53話 戦いの後の廃村(※)

 ヒイロの怪我は翌朝にはすっかり治っていた。改めて魔法って凄いと感心するアカとヒイロ。


 そこから数日間は、昨日団長が言った通り捕虜を死なせないために奔走することになった。


 基本的には餓死させないようにご飯を食べさせるのだけど、捕虜は全員、大なり小なり怪我をしていた。まあご飯が食べられる程度の怪我のものは良いのだが、中には重傷者もいてそういった者は看病も必要だった。


「敵だから見殺して良いとはならないんですね」

「見殺してもお咎めは無いが、出来るだけ捕虜を生かそうとした努力が見えた方が王国軍への心象もいいからな」


 極めて現実的な理由である。


 幸い廃村にはある程度の薬を保管してある倉庫があったので――もちろん駐留していた帝国軍が持ち込んだものだ――そこから勝手に拝借させて貰った。


 特に重傷だったのはアカが小屋ごと燃やした魔法使いたちで、彼らは全身の火傷に苦しんでいた。自分達の水魔法で冷やせば痛みは多少和らぐようだが根本的な解決にはならないし、なにより魔法使いは触媒ひとつあればいつでも報復攻撃が出来てしまうため、いつでも魔法を相殺できるアカとヒイロがいる前でのみ、痛みを和らげるための水魔法を使う事を許された。あとは火傷に効くと言われる薬草を塗ったら個々の治癒力に賭けるだけだ。


 拝借した薬の質が良かったのか、傭兵団の怪我も数日で良くなり重傷者も峠を越えた滞在五日目、ヘイゼル達がニッケから戻ってきた。


「あと三日で騎士団がこの村に来てくれるそうだ」

「思ったより早いな。確か大規模なゴブリンの集落の殲滅のために派遣されたって聞いたんだが……」

「なんでもそっちはそっちで別の「勇者様」が対応してくれる事になったらしくて、手の空いた騎士様達がこっちに来てくれるそうだ」

「勇者様? ……なんか胡散臭いな」

「どうも軍の秘密兵器っぽくてな、一説には聖騎士より強いとか」

「それこそ信じられん。聖騎士なんて騎士の中で最強とされる連中に与えられる称号じゃねぇか!」

「まあ俺らとしてはあと三日で捕虜達の面倒を見なくて良くなるってるのが有難いって話だ」

「違いないな」

 


 その夜、傭兵団にも情報が共有された。


「あ、そういえば例の騎士も「勇者について知らないか」って言ってました」

「なんだと?」

「私は聞いたこともなかったので知らないって言ったんですけどね」


 ヒイロの発言に、団長はむぅと唸る。


「敵の方から聞いてくるとは、逆に信憑性が出てきたな。聖騎士より強くてゴブリンの集落を殲滅するっで噂は本当かもしれん」

「聖騎士って?」

「お前らホントに物知らずだな。まあいいか、教えてやろう」


 団長によると、軍隊には兵士と騎士がいるらしい。何が違うと言えば主にその強さで、兵士の中でも選りすぐりの一部の強者が騎士と呼ばれて王都・帝都といった国の中枢を守る役目を担う。


「騎士と言われたらその強さはそこらの兵士の十倍はある。それはどの国でも一緒だな。ヒイロも実際に戦ってそれは知ってるだろう?」

「まあ物凄く強かったですね」


 イグニス国はさらにそんな騎士の中でも最強の十名程度に「聖騎士」という称号を与え国王や主要な施設の守護をさせているという事だ。


「つまり国で最強の十人が聖騎士ってことですかね」

「まあそうなるな。だがここ最近、どこからか現れた勇者ってやつが聖騎士より上に立ったって話だ。どこまで本当か分からねえし、ぶっちゃけよくある話でもあるから眉唾物だとは思っていたんだが……」


 今回港町ニッケに派遣されただの、帝国側の騎士が情報を集めていただのといった事実が重なると真実味を帯びてくるというわけだ。


「とはいえここにくるのは騎士サマ方だからな。下手なことを聞いて口封じされるよりは黙って貰うもの貰うのが傭兵として正しい姿勢ってやつだ。アカもヒイロも余計なことを言うんじゃねぇぞ」

「了解です!」


◇ ◇ ◇


 割り当てられた寝室でアカとヒイロは一日の疲れを癒すためにストレッチを行いつつ、会話の中心は先ほどの団長の話についてだった。


「勇者だって。ファンタジーになってきたね」

「ヒイロはヘイゼルさんから聞くまですっかり忘れてたじゃない」

「私もあの時は生き残るのに必死だったからね、どうでも良い話を覚えておく余裕は無かったんだよ」

「確かに生きるか死ぬかの瀬戸際で勇者ファンタジーな話はどうでも良いわね」

「どんな人だろう。カッコいいのかな?」

「勇者って男なの?」

「知らない。あ、女の人の可能性もあるのか……それはそれで」


 うんうんと頷くヒイロをアカは呆れたように眺める。


「どうせ会うことも無いんだからどっちでもいいじゃない」

「そう? 国で最強の聖騎士、その上なんてちょっと興味無いかな?」

「万が一悪い方に目をつけられたら命運が尽きるってことぐらいね」

「それはその通りだねっ」


 ヒイロがクスクスと笑う。アカからすれば縁起でも無い想定なんだけど、ついヒイロに釣られて笑ってしまった。


「うん。だから目立たないように大人しくしておこうね」

「了解です!」


 ピシッと敬礼するヒイロ。それにしても勇者ねぇ。アカはあまりゲームとかしないからピンとこない。最強の騎士である「聖騎士」より強いかあ……ムキムキマッチョな感じなのかしら。


「アカ、寝ないの?」

「んー、寝る。明日も捕虜の人のお世話とかあるし」


 軽傷の捕虜達は食事の時以外は縛り付けられているため、食事の時は拘束を解いてあげる必要がある。反抗を防ぐために、アカとヒイロのペアで捕虜は一人ずつ食事させていくというローテーションになっているので、十人ほどに食事を与えるだけで数時間の作業である。


「あと数日のお仕事だね」

「まあ頑張りましょうか」


 狭いベッドでくっついて横になる。アカが目を閉じると、ヒイロがアカの上に跨り唇を重ねてくる。


「ちょっと、ヒイロ……」

「アカ……いい?」

「ここは壁が薄くて隣に声が聞こえちゃうからダメだって……」


 一応二人には個室が割り当てられているが、隣には他の傭兵が寝室にしている部屋がある。廃村だけあって壁はそこまでしっかりとしていないので、大きな声を出したら声が漏れてしまうだろう。


「それはわかってるけど……」

「街に戻るまで我慢しなさ……あんっ、だから、だめだっ……て……」


 ヒイロはキスをしながら、その手をアカの敏感な部分に這わせる。アカは身体に走る快感に声が漏れないよう、手で塞いだ。


「アカ、かわいい」

「だから、だめ……あ、あ、……声でちゃう、から……あんっ……」


 調子に乗ったヒイロがアカのシャツを捲り上げた。月明かりにほんのり照らされた桃色にそっと舌を這わせる。


「んんっ……ああっ!」


 抑え切れない嬌声が漏れる。尚も舌でアカを蹂躙しようするヒイロを、ぐいと強引に突き放した。


「はぅ……」

「ダメって、言ってるでしょ」

「だって……私もう我慢できないもん……」


 そういうとヒイロはアカに腰を擦り付ける。ん、ん、と気持ちよさそうに小さく喘ぐヒイロ。


「こら、ヒイロ、」

「もう無理ぃ……」


 必死にヒイロを宥めつつアカの我慢も限界ではあった。仕方ない、最後の手段だ。


「ヒイロ、ここだと声、聞かれちゃうから、ね?」


 ヒイロの身体を起こして立ち上がる。


「村の外れにいけば大丈夫だと思うから」


 そう言うと手を繋いで部屋を出た。


 ……。


 …………。


 ………………。


 見張りの傭兵に見つからないように村を出て、少し離れたところに村から死角になる岩場を見つけた二人はそこで腰を下ろした。


「はぁ、はぁ……アカぁ……」

「お待たせ。……服、脱いで」


 ヒイロはこくんと頷くと生まれたままの姿になる。アカも同じように服を脱ぎ捨てるとそのままぐいとヒイロを抱き寄せた。唇を重ね、舌を絡め合う。


 タガが外れた二人は、そのまま激しくお互いを求め合った。


◇ ◇ ◇


「……魔力を交換すると、性欲が抑えきれなくなると思うんだよね」


 事が済んで、服を着た二人。岩に並んで座ってなんとなく月を眺めていると、ヒイロが呟いた。


「え? あー、言われてみると確かにそうかも」

「特に今回はお腹の傷の治療ためにアカからたくさん魔力、貰ったから。私、あれからずっとアカと、したかった……」


 言いながら顔を赤くして膝に埋めるヒイロ。その様子がなんだか可愛くてアカは頭をなでなでしてあげた。


「私もそうだったけど、ヒイロから襲われるまではまだ自制出来るぐらいだったから、魔力を受け渡された方が、その、そういう気持ちになりやすいのかしら」

「遠征先ではやらない方がいいのかもね」

「そうは言っても今回みたいにやむを得ないケースもあるからなあ」


 どうしようもなくセックスがしたくなる以外には副作用が無いなら、むしろ上手く付き合っていく技術な気もする。


「検証する? どれくらい魔力交換したらえっちしたくなるか」

「それもありだと思うんだけど……」


 そもそも魔力交換をせずとも唇を重ねた時点でその続きをしたくなるので検証できるのかしら? アカが言うとヒイロはじゃあいつでも出来る環境で検証が必要だね! と笑った。お前ヤリたいだけじゃねーか。

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