第5話 街の声 ~ 最近の投稿から
朝早く寝室から母が何度も私の名を呼ぶので、私はびっくりして駆けつけ、目を丸くして、「どうしたの、お母さん。何があったの?」と尋ねました。「夢を見たのよ。」と、お母さん。「夢の中で、お父さんの仏壇に線香をあげてたら、倒れたろうそくの火が壁に燃え移って、ばあって天井まで燃え上がったの。悲鳴を上げていたら、どこからか黒い服を着た大きい人が現れて、火を消してくれたのよ。火が消えてからも怖くてブルブル震えていたら、その人がぎゅっと抱きしめてくれて、優しい声で、大丈夫だよ、私がついているから、一人じゃないんだからと慰めてくれたの。」と言います。仏壇を見ると、確かに壁に焼け焦げた跡があります。夢なのか、本当の話なのか分かりません。でも、そんなことはどうでもいいんです。それよりも驚いたのは、お母さんのことです。お母さんは認知症で、昨夜寝る前まで、実の私に向かっても「あなたは誰?」と言っていたのです。夢の話であろうがなかろうが、私のことがちゃんとわかっているふうに、こんなにリアルに話をするのは久しぶりです。私は、うれしくて、思わずお母さんを抱きしめました。お母さんは、よしよしと頭をなでながら、「大丈夫だよ、私がついてるから。一人じゃないんだから。」と言いました。お父さんが早くに亡くなって、お母さんまでおかしくなってしまい、まだ中学生だった頃から、ずっと私一人でお母さんの世話をしてきました。なぜ私だけがこんな大変な思いをしなければならないのと感じ、お母さんに冷たく当たって、ひどい言葉を投げかけたり、穏やかに寝ているのに、その様子にイラついて「いつまで寝てるの、早く目を覚まして。」と布団をはぎ取ったり、意地悪なことをいっぱいしてきました。
先ほどのお母さんの言葉は、お父さんが亡くなった時に、泣いている私を抱きしめてかけてくれた言葉なのです。今でも優しいお母さんの気持ちが伝わってきました。私は、お母さんだってずっと寂しい思いをしてきたんだろう、なぜもっと優しくしてあげなかったのだろうと思いました。
夢の中に現れたのは、きっとカルトラモン・もっこすさんね。目を覚ますべきだったのが私の方だったことを気付かせてくれたことに、お礼を言いたいです。 (24歳、無職)
飼っていたセキセイインコが鳥かごから逃げ出して、窓から外に飛んで行ったの。わたしは悲しくてしくしくと泣いていたの。お父さんが、部屋で飼っていた小鳥は、自分から戻ってくることはないし、猫やカラスに襲われてしまうから、もう死んでしまっているかもしれないなどというので、ますます悲しくなったわ。ところが、カルトラモン・もっこすがやってきて、「いなくなったのはこの子かな。」と言いながら、柔らかく合わせた両手の中から、わたしのインコを出してくれたの。そして、「ちゃんとかごに入れて、大事にかわいがってね。もう逃げ出したりしないように注意するんだよ。あとぜき。」と優しく言って笑ったの。わたしは、うれしくなって一緒に笑ったわ。小鳥も、ピーピーとうれしそう。 (4歳、保育園児)
先日のこと。目の前の交差点を信号無視して走り去る無謀運転の車に怒りを感じ、車を止めて運転手に注意したい衝動にかられ、車を追跡しました。どこまで行っても相変わらずの無謀運転で、加速して危険極まりありません。追いかけるのに必死で、一般道なのに、私の車も時速100キロを超えていました。山道で、歩行者や対向車がいなかったのが幸運でした。案の定、運転操作を誤り、車は横滑りして道路脇の沢に転落しそうになりました。その時、カルトラモン・もっこすが現れて、車を止めて助けてくれたのです。
実は、私の妻と幼い息子は、数年前、あおり行為をする無謀運転の車に、交差点ではねられて死亡したのです。だから、無謀な運転をするのが許せない気持ちになるのです。もっこすは、そのことを知っているようで、「あなたのつらい思いはよく分かるし、やめさせたいという気持ちも理解できる。でもね、高速で追い回すのはよくないよ。事故を起こして人や物に被害を生じさせる危険がある。また、あなたがあおり運転をしているなどと、いわれのない批判を受ける可能性もある。あなたの家族の幸福を奪った加害者と何ら変わらないことになってしまう。そんなこと、あなた自身も、奥さんやお子さんも望んではいないのではないかな。」と、優しく諭すように言いました。もっこすの言葉に私は我に返り、自分こそが正義だと思い込んでいたこと、復讐心のようなものに突き動かされて周りが見えなくなっていたことに気付かされました。私は反省し、二度と自分自身が無謀運転をしないことを心に誓いました。もっこすは立ち去り際、振り返って、「ああ、さっきの車の運転手はその先で警察に無謀運転で現行逮捕されていたよ。誰かがちゃんと見ていて、通報してくれたんだねえ。」と言いました。私は、「あなたが、通報してくれたんですね。」とお礼を述べました。
今、私は、交通被害者の支援団体でボランティア活動をしています。 (35歳、会社員)
昨夜遅く、猟銃のようなものを持って、男がコンビニエンスストアに押し入り、従業員を人質に立てこもりましたが、警察隊が駆けつける前にカルトラモン・もっこすが現れて、瞬く間に男を取り押さえ、誰一人けがなどすることなく、事件は解決しました。銃はモデルガンでした。警察は、男の身元や詳しい動機を調べています。 (インターネットニュース)
金曜日の午後、7歳の娘を公園に遊びに連れていきました。ふと気が付くと、ベンチに腰掛けて、真っ黒い衣装に身を包んだカルトラモン・もっこすと話をしていました。最初はびっくりしたけれど、娘は怖がるふうでもなく、何だか楽しそうに話をしているので、聞き耳を立てて様子を見守っていました。
葉っぱを手にして「これは?」「みどりー」。石ころを見せて、「これは?」「ちゃいろー。」。空を指さして「あれは?」「あおー」。「あかー」、「むらさきー」、「きいろー」など、色当てゲームか何かしている様子です。
「おじちゃんは、なぜまっ黒なの?」と尋ねる娘に、もっこすは優しい声で「君に色をプレゼントしたからだよ。」と答えました。
娘は色覚異常補正めがねなしで、色が見えるようになっていたのです。奇跡です。 (28歳、主婦)
正体ば明かしてもらえんですか? 取材させてハイヨ。 (54歳、タレント) Re:だめです。
友達が、自分の山さ自由に入って、山菜何でん採ってよかよと言ってくれたので、週末ツワブキ採りに行ってきたとさ。私は、90キロを超す体格ばってん、山歩きが好きで、ちょくちょく一人で山登りをしとります。そん日も朝思い立って、誰にも言わずに一人で山登って山菜取りに行きました。結構高か、山深かとこまで分け入って採り方に夢中になっておったら、道ん脇の草むらの向こうが崖になっちょるとに気付かず、あっという間に土手を10メートルばっか転げ落ちとったと。気が付いたら、足が血だらけで、つま先もあらん方ば向いとるし、ひどく痛かし、ああ、骨折しとるばいなーって思いました。携帯電話も落ちた拍子に壊れたらしく、手の届かん向こうの方に、ばらばらになって散らばっとりました。身動きできんし、助けてーて叫んでも、鳥の声がするばっかいでした。こんな山ん中で、誰にも知られず、一人で死ぬんやなーと、諦めて泣いとりましたら、どこからともなく、カルトラモン・もっこすが現れて、私をひょいと抱え上げ、山に麓まで抱きかかえたまま運んでくれたとです。もっこすが呼んでくれたとか、麓には救急車が待機しとって、すぐに病院に連れて行ってくれました。病院で、友達にそん話ばしたら、「気の毒っか、気の毒っか。」と言ってくれるので、有難くて涙が出ました。とこいが、「お前んごたる巨漢ば抱えて、山を下らなんかったもっこすさんが気の毒っか。」て。
それはひどい。 (59歳、自営業)
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