どうか、お願い。
パーティー会場内の人たちは戸惑っていた。おろおろとしている人たちが多く、わたくしたちのようにバリアを張る人たちは少ない。
「魔術師学科! 実戦と思いバリアを張れ!」
先生が必死の形相で叫ぶ。パーティー会場は広い。その広い場所にかなりの人数がいるので、個々にバリアを張っていては追いつけないほど。
試験終わりを祝うためのパーティーなんだけどね。長期休暇前のパーティーだから、たくさんの人が参加しているのよね。
「騎士学科! 優先度を間違えるなよ!」
「傭兵学科! 守れる人を守れ!」
「召使学科! それぞれのサポートをしろ!」
各学科の先生たちが、学生たちに指示を出す。――緊急事態だというのに、思わず笑みがこぼれた。わたくしたち、緊急事態だと力を合わせることができるのね、と。
そのあいだにも、エセル王妃の騎士たちがグラエル陛下を捕らえようとして、吹き飛ばされていた。
グラエル陛下の実力を、わたくしは知らない。ただ、こうして騎士の方々が吹き飛ばされているのを見ると、かなりの実力者のようだ。バリアを張りながらわたくしは前進する。
「カミラ!?」
「マティス殿下、学生たちの指揮は任せました。わたくしは、レグルスさまのもとへ参ります」
「なにを危険なことを!」
「あら、心配してくださいますの? ……冗談ですわ。そんな顔をなさらないで。わたくしは……レグルスさまとともに生きることを、選びました。止めないでくださいませ。マーセル、ブレンさま、お願いしますね」
「……カミラさま、お気をつけて」
「これ、どうぞ」
ブレンさまがそっとなにかを取り出した。以前見せてくれたお札のようだ。
わたくしが顔を上げて彼を見ると、ブレンさまはにっこりと笑ってうなずいた。差し出されたお札をしっかりとうなずいて、「ありがとうございます」と頭を下げてからレグルスさまのもとに向かう。
パーティー会場内は混乱の
グラエル陛下は魔法も使っているみたいで、騎士たちが一丸となって陛下を捕らえようとしているけれど、すべて跳ねのけてしまうみたい。
屈強な肉体を持つ騎士たちが、次々と吹き飛ばされている。そんな中、彼らよりも一回り細いレグルスさまが陛下の魔法を耐えてしっかりとした足取りで近付いている。彼の背中しか見えないけれど、彼の魔力が揺らめているように
――魔力がこんなふうに視えるのは、初めてだわ。
レグルスさまの魔力は、オレンジ色でとても優しい感じがした。
「悪いが、カミラ嬢は俺がリンブルグに連れていく」
「させぬ!」
キィィン、と剣と剣がぶつかり合う金属音が耳に届く。
「――残念ながら、あなたに止める権利はないっ!」
グラエル陛下とレグルスさまでは、レグルスさまのほうが押し負けそうになっていた。マティス殿下と一騎打ちをしたあとだもの、きっとレグルスさまは疲れているわ。
ぎゅっと、ブレンさまから渡されたお札を握りしめて、心の底から祈る。
――どうか、お願い。レグルスさまに、力を――……!
わたくしの祈りが届いたのか、弾かれたようにこちらを見るレグルスさま。その瞳には驚愕が浮かび、それからすぐに白い歯を見せた。
「よそ見とは、余裕だな!」
「勝利の女神のおかげでね!」
押し負けそうになっていたレグルスさまが、押し返してきたことにグラエル陛下は忌々しそうに眉間に皺を刻む。
ぐぐぐ、とグラエル陛下が押し負けはじめ、騎士たちはそれを見て一気に勢いよく突撃していった。
「レグルスさま!」
あのまま、そこにいたら巻き込まれてしまうんじゃないかと声を上げると、彼はタイミングを見計らったようにグラエル陛下から離れた。その反動でぐらりと陛下の身体がよろめく。
「――っ!」
グラエル陛下の魔力が膨らんでいるような気がして、彼の魔力を覆うようにバリアの魔法を使う。わたくしとグラエル陛下では、おそらくわたくしのほうが負けてしまう。
――それでも、この騒動を終わらせなければいけない。そう、強く思った。
「手伝うよ」
いつの間にかわたくしの隣にきていたレグルスさまが、そっと肩に手を置いた。じんわりと彼の体温と――魔力を感じる。
こくりとうなずいて、騎士の方々に声をかけた。
「わたくしたちが陛下の魔力を抑えます! そのあいだに……!」
「協力、感謝する!」
騎士の一人が言葉を返してくれた。レグルスさまと一緒に、グラエル陛下の魔力を抑え込むバリアを張り続ける。
レグルスさまの魔力と、わたくしの魔力が溶け合い、とても強いバリアになったようだ。チッと舌打ちするグラエル陛下。バリアが破れなくて、イライラしているように見えた。
「その調子。……もう少しで、終わるよ」
「……え?」
弾かれたようにレグルスさまを見上げると、彼はにこりと微笑みを浮かべて、パチンと指を鳴らした。すると――まるでリボンのようなもので、グラエル陛下が拘束された。一瞬の出来事に目を見開くと、動けなくなったグラエル陛下を騎士たちが抑え込み、「申し訳ありません」とつぶやいてから彼の意識を奪う。
「……終わった、の?」
「陛下にとっては多勢に無勢って感じだったなぁ」
グラエル陛下の魔力が消え、騎士がひょいとグラエル陛下を持ち上げると、パンパン、と手を叩く耳に届いた。
音のほうへ振り返ると、エセル王妃が厳しい表情から笑顔を浮かべ、パーティー会場にいる全員に聞こえるように凛とした声で告げる。
「楽しいパーティーを壊して、申し訳ありません。ですが――この学園の学生たちの
エセル王妃の言葉に、先生たちがパチパチと拍手を送った。わたくしはレグルスさまと顔を見合わせて、それから先生たちと同じように拍手を送る。気付けば、パーティー会場にいる人たちは拍手をしていた。
「――カースティン男爵、ベネット公爵。あとでわたくしの宮にきなさい。あなた方の事情は、わたくしがしっかりと聞き
「……かしこまりました」
……これで、ようやく……終わった、のね……?
安心したら、なんだか、身体が……重いわ……
「カミラ嬢!」
薄れていく意識の中、レグルスさまの心配そうな顔が印象に残った。
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