パーティー当日。

 ――そして、それからパーティーまでのあいだはとても忙しく過ごした。


 わたくしはマーセルに様々なことを教え込んだ。彼女は素直にそれを吸収し、身につけていった。よくがんばったと思うわ。


 召使学科で学んだことを彼女に話すと、不安そうに「私にできるでしょうか」と弱音を吐いたこともあったけれど、彼女は目標のためにがんばれる人だった。


 わたくしも魔術師学科の先生にあるお願いをして、了承していただいた。召使学科にいたことで遅れてしまった授業に、少し不安を抱えていたけれど……基礎ができれば応用ができる、とはよく言ったものね。


 基礎を叩きこんでくれた家庭教師に感謝する日がくるとは……


 授業の遅れはすぐに取り戻せそうで安心したわ。


 バタバタと慌ただしく過ごしていたけれど、パーティーまでのあいだにやるべきことはすべて終えたわ。あとは――レグルスさまとマティス殿下の一騎打ちが、どうなるか――……


「カミラさま、大丈夫ですか?」

「わたくしは平気よ。貴女あなたこそ、大丈夫なの?」

「平気です。……それにしても、私たちが一緒にいても、もう誰も関心がないようですね」


 あの日、マーセルと一緒に馬車から降りたときから、ずっとわたくしたちの仲がどうなったのかを好奇の目で見られていた。


 それは別に構わないの。残りの休日を使い、マーセルと二人きりで彼女に教え込み、魔術師学科のテストも無事にクリアした。ちなみにマーセルをいじめていた人たちは、彼女の後ろにわたくしがいると気付くと、なにもしなくなったみたい。


 マティス殿下ではなく、わたくしがいることでいじめがなくなるなんて、変な話よね。


 とはいえ、召使学科にいるのは伯爵家までの令嬢や令息だから、さすがに王族と公爵家の令嬢を相手にするのは不利だと思ったのかもしれないわ。


「さて、それでは……行きましょうか、マーセル」

「はい、カミラさま」


 これから学園のパーティーが始まる。


 わたくしとマーセルはこれから、ともにパーティー会場にいく。きっといろんな人たちの目を引くことになるでしょう。


 マーセルのドレスの色はクリームイエロー。彼女の髪色にぴったりだと思う。


 一騎打ちがあるけれど、おそらくマティス殿下もお揃いの色で登場するはず。これは、事前にマーセルに頼んでいたこと。


 婚約者であるわたくしではなく、マーセルとお揃いの色の服を着て、彼女の隣に並ぶでしょう。


 きっと、とても絵になる光景だわ。


 わたくしのドレスは髪色と正反対のラピスラズリの色。アクセサリーもラピスラズリのネックレスとイヤリングを身につけている。


 ラピスラズリの石言葉は、真実、健康、幸運、愛和。


 今日のパーティーにぴったりな石言葉だと思うわ。


 マーセルと一緒に会場に入ると、周囲の視線が一気に集まった。そして、ざわざわと騒がしくなる。予想通りの反応ね。


「久しぶりに見られていますね」

「ええ。視線にはもう慣れたかしら?」

「そうですね、結構慣れたと思います」


 わたくしとマーセルが和やかに話しているからか、みんな不躾にこちらの様子をうかがっている。大体の学生と保護者たちがパーティー会場に集まり、最後に今日のメインであろう、レグルスさまとマティス殿下が姿を現した。


 ゆっくりと歩いてくる姿を眺めていると、レグルスさまがわたくしに気付いて、パチンとウインクをしたので、にこりと微笑んでみせる。


 学園長がパーティーの宣言をし、ダンスタイムに入る前に、パーティーの余興としてレグルスさまとマティス殿下の一騎打ちをすることを伝えると、みんなわぁっと盛り上がった。


「すごい熱気ね」

「どちらかが勝つのか、保護者同士でも賭けているらしいですよ」


 ひそひそと会話をわすわたくしたち。辺りを見渡すと、みんなの瞳がギラギラとしていて、思わず両肩を上げる。……学生たちだけではなく、保護者たちまで賭けをするなんて、少し驚いてしまったわ。


「……ねぇ、マーセル。あなたはどちらが勝つと思う?」

「私の気持ちとしては、マティス殿下に勝ってほしいです。……ただ、レグルスさまの実力を知らないので、なんとも言えませんね……」


 パーティー会場の真ん中に、レグルスさまとマティス殿下が並ぶ。


 彼らを囲うように円状になるわたくしたち。


 広いスペースで向かい合う二人。


「留学生と我が息子の一騎打ちか。それは面白そうだ」


 上のほうから声が聞こえた。見上げると、この国の王であるグラエル陛下がにんまりとした表情を浮かべているのが見えた。


 視線に気付いたのか、わたくしに視線を向けているような気がする。


「カミラさま?」

「……いえ、なんでもありませんわ」


 グラエル陛下から視線を外し、レグルスさまを見つめる。心配そうなマーセルには、緩やかに首を横に振った。


「クロエがこの場にいないことが、残念ね」

「貴族だけってケチですよねー」

「ブレンさま! 今までどちらに?」

「美味しそうな料理が並んでいたので、食べていましたー」


 満足そうにお腹をさするブレンさまに、わたくしとマーセルは顔を見合わせてしまった。今から一騎打ちが始まるのに、ブレンさまは普段通りね。

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