明かされた事実。
「ねえ、あなた、これはどういうことなの? なにか言ってよ……ッ!」
涙声のオリヴィエさまに、ノランさまはぐっと唇を噛み締めて、目を伏せた。
「……陛下から、頼まれたんだ」
「……え?」
「きみと、ベネット公爵夫人の妊娠はほぼ同時だったろう。生まれた子を取り替えよう、と陛下に頼まれて……公爵家の令嬢だからと多額の金貨をくださった。陛下は、どうしてもきみの子どもがほしいと言っていた。自分の養子に迎えるわけにはいかないから、生まれたばかりのマティス殿下と婚約をさせると……そうすることで、きみの家系の血を王家に入れることができる、と……」
明かされた真実に、オリヴィエさまはふっと身体から力を抜いて、その場に座り込んだ。
「お母さま!」
マーセルが慌てて彼女に駆け寄り、その手を取ろうとして――オリヴィエさまがパシンと彼女の手を拒絶した。そのことに驚いたのか、ノランさまが「オリヴィエ!」と声を荒げる。
「マーセルは知らなかったことなんだ。お前のことを本当の母だと
「そして、それを言えないようにした陛下ですねー」
「しかしまぁ……回りくどいやり方だなぁ……」
レグルスさまがぽつりと言葉をこぼす。
わたくしも、そう思うわ。
……でも、確かにこの国の在り方なら、殿下の婚約者に男爵令嬢は選ばないでしょうね。
陛下はそれをわかっていたから、そんなことを提案したの……?
聞いてみないとわからないことだけど……
「わたくしもマーセルも、あなた方に振り回された……ということは確定ですわね」
自分が思っている以上の、冷たい声。
陛下がオリヴィエさまの血筋を王家に入れたい――または、神聖力を持つ者を王家に入れたいという理由で、トレードされたということなの?
そんな理由で、わたくしはあの血がにじむような努力を強いられていたということなの?
そんな、そんなのって……!
ぐっと拳を握りしめて震わせていると、レグルスさまがぽんぽんと優しく肩を叩いてくれた。
まるで、「落ち着け」と伝えるように……
数回深呼吸を繰り返し、わたくしはレグルスさまを見上げた。彼の表情はとても柔らかく、その笑みを見るだけでなぜか心が安堵した。
――わたくし、きっと、彼に惹かれているんだわ――……
マティス殿下には感じなかった感情。この感情をきっと『恋』というのだろう。
「ブレンさま。わたくしとマーセルのトレードは、これで終わりでしょうか?」
「はい。鎖は完璧に
「中身が、入れ替わる……?」
オリヴィエさまの声が震えていた。そして、情報過多になったのか、ふっと気を失ってしまったようだ。ノランさまとマーセルが「オリヴィエ!」や「お母さま!」と声を上げる。
「……オリヴィエさまには、申し訳ないことをしましたわね」
わたくしの口から、『お母さま』と呼ぶことはないでしょう。今までずっと、マーセルを実の娘だと信じて育ててきたオリヴィエさま。
「……どうして、知ったのですか?」
「マティス殿下に聞きましたの。……本来ならば、マーセルが公爵令嬢だということを」
嘘ではない。あのときのわたくしは『マーセル』だったけれど、ね。
「これで失礼しますわ。――さようなら、カースティン男爵」
「まっ……!」
引き止めようとするノランさまをじっと見つめる。彼は、諦めたように目を伏せた。
マーセルを残して、わたくしたちはその場をあとにし、ここまで来るまでに乗っていた馬車に乗り込み、今度はわたくしの――いえ、ベネット公爵邸に向かった。レグルスさまも、ブレンさまも、クロエも一緒に。
こうして『カミラ』として公爵邸に行くのは、とても久しぶりのような気がする。
客人を連れて帰ってきたわたくしに、公爵邸のメイドや執事たちは驚きを隠せないようだった。
「お父さまたちはどこへ?」
「あ、えっと、執務室にいらっしゃいます」
「わかったわ、ありがとう」
お父さまたちがどこにいるのかを尋ね、返ってきた言葉にお礼を伝えてからずんずんと執務室に足を運ぶ。
執務室の前に立ち、ノックもせずに扉を勢いよく開いた。
「ごきげんよう、お父さま。――お母さまとお兄さまも、こちらにいらっしゃったのですね」
「カミラ! なんてはしたない真似を!」
お母さまが睨みつけてきた。わたくしは目元を細めてお母さまをじっと見つめる。その眼光の鋭さに、怯んだように息を呑むのを見て、ツカツカと足音を立ててお父さまに近付き、口を開く。
「わたくしとマティス殿下の婚約を白紙にし、わたくしをベネット家から解放してください」
「い、いきなりなにを言っているんだ、カミラ!」
「わたくし、もう全部知っておりますの。あなた方がわたくしの本当の家族ではないことも、本当は男爵家に生まれていたことも、陛下がどうしてわたくしをマティス殿下の婚約者であることを望んだのかも!」
しん、と静まり返った執務室の中で、レグルスさまがわたくしに近付き、お父さまたちに視線を巡らせる。
「証人が必要なら、俺とブレン、それからクロエも証人になるぜ?」
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