マーセルの家へ。
そして、休日。
マーセルのご両親と会う日がきた。
……なんだか緊張してきたわ。とりあえず、寮には外泊許可も取っているから、遅くなっても大丈夫。
ゆっくりと深呼吸を数回繰り返して、マーセルの部屋から出た。
しっかりと鍵をかけて、待ち合わせ場所に足を進める。
「おはよう、マーセル嬢」
「おはようございますー」
「おはようございます、レグルスさま、ブレンさま」
スカートの裾を
レグルスさま、ブレンさま、クロエ、マーセル、それからわたくし。
五人が乗る馬車だから、大きなものを用意してくださったみたい。
数分後に、『カミラ』を連れたクロエがきた。……どうやってお母さまたちを説得したのかしら、彼女。感心していると、その視線に気付いたクロエがにこりと微笑む。
「おはようございます、みなさま。遅れてしまいましたか?」
「いいえ、五分前ですよー。では、行きましょうか、お嬢さま方」
ブレンさまがにこにこと人懐っこそうに笑いながら、馬車の扉を開けた。『カミラ』から馬車に入り、最後にレグルスさまが入り「出してくれ」と御者に合図を送った。
馬車が動き出し、……しんと静まり返った馬車の中、『カミラ』がそわそわしたように視線をあちこちに飛ばしている。
「……ふむ」
小さくブレンさまがつぶやく。その声にビクッと肩を震わせる『カミラ』を見て、首をかしげた。
「――面白いですね」
「面白い?」
「マーセル嬢とカミラ嬢は、魂の双子のようです」
……魂の、双子?
「あなたたちの魂は、とてもよく似ているんですねー。だからこそ、中身が入れ替わったのかもしれません」
ブレンさまは目元を細めた。
言っている意味は、良くわからなかったけれど……わたくしとマーセルの魂が似ているから、このトレードが起きたということ?
「似ている魂は、引き寄せられるとも言うしなぁ」
レグルスさまが感心したようにブレンさまに視線を移す。ブレンさまは興味深そうにわたくしたちを眺め、それから視線を窓の外に向けた。
「あ、手土産を買っていきましょう! マーセル嬢、ご両親はどんなものがお好きですか?」
「え? ええと、……なんでも食べますね。しょっぱいのも甘いのも好きです」
「わー、気が合いそうです。じゃあ、適当に
ブレンさまの表情、とてもワクワクしているように見えるわ。
中央広場で一度馬車を
手土産を買う時間も考えて、早めに集合したのだけど……ブレンさまの中では買うものが決まっていたのかすぐに戻ってきた。
……大量の荷物を抱えて。
「……あの、いったいなにをそんなに……?」
ぽかんと口を開けてその大量の荷物を眺めて、マーセルが首をかしげた。
そうね、マーセルは知らないものね。
「美味しそうなものを集めてきましたー」
その大量の荷物のほとんどが、おそらくブレンさまの胃に入ることになることを。
「それじゃあ、マーセル嬢のおうちまでお願いしますー」
ブレンさまが御者に声をかけると、馬車が再び走り出す。
マーセルの家には、それから三十分もしないうちについた。
……とても広い屋敷で驚いたわ。
明るいクリーム色の外壁に、夕日色の屋根。
ここで、マーセルは育ったのね。ちらりと彼女を見ると、切なそうに目元を細めて見つめていた。
玄関前まで馬車で送ってもらい、馬車を降りると勢いよく扉が開く。
「マーセル!」
出てきたのは、ストロベリーブロンドの女性。マーセルの名を呼び、抱きついてきた。
「寮に入ってからめっきり会えなくなって、寂しかったのよ。元気に暮らしているのよね? あら、ちょっとやつれたんじゃない? 大丈夫?」
心配そうに眉を下げて、ぺたぺたと頬を触る。――この人がマーセルの母……いえ、『わたくし』の母なのね。
「こらこら、オリヴィエ。お客さまたちが驚いているよ」
「……あらっ、ごめんなさい。久しぶりに娘に会えたから、嬉しくて。初めまして、マーセルの母のオリヴィエ・カースティンと申します」
わたくしから離れ、すっとカーテシーをしてから顔を上げ、柔らかく微笑んだ。
「初めまして、マーセルの父のノラン・カースティンです。マーセル、いつの間にこんなに友達を作ったんだい?」
同じように柔らかく微笑む男性。プラチナブロンドの持ち主。……この人たちに愛されて、マーセルは育ったのね。
「あなた、とりあえず中に入ってもらいましょう」
「あ、これお土産ですー」
「まぁ、こんなにたくさん! お気遣いいただいてありがとうございます」
ブレンさまとオリヴィエさまが、にこにこと笑いながら会話をしている。
その様子を、マーセルがじっと眺めていた。
「マーセルがうちに帰ってくるって手紙が届いたから、私たちも張り切ったのよ。さぁ、今日はたくさんお話ししましょうね」
オリヴィエさまは声を弾ませて、わたくしたちを中に招き入れる。
「……冷静?」
「……はい。大丈夫です」
こそりとマーセルに問いかけると、彼女は思ったよりもしっかりと返事をした。
カースティン邸に足を踏み入れて、オリヴィエさまとノランさまのあとをついていく。
「それじゃあ、学園のことをお話ししてくれる?」
ついたのは、食堂のようだった。
それぞれ椅子に座り、オリヴィエさまがにこにことしながら両手を合わせ、わたくしたちの顔を見渡す。
――さて、なにから話すべきかしらね?
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