決意の固さ。
「とはいえ、一騎打ちは正々堂々とやるべき、だろう?」
「もちろん。そこはきっちりと、な。一度本気のマティス殿下と戦ってみたかったんだ」
「ほう」
挑戦的に口角を上げるレグルスさまに、マティス殿下は同じように笑みを浮かべる。
バチバチと二人のあいだに火花が散っているような気がする。……どうしてそこまで好戦的なのかしら?
わたくしは置いてけぼりのような気がして、ゆっくりと息を吐いた。
「一騎打ちの日時は?」
「――近々パーティーがあるだろう? そのときに。互いに盛り上げようじゃないか」
「父上が許可すると思うか?」
「ベネット公爵が掛け合っている」
「……そうか。ならば、詳細は後ほど連絡するとしよう」
マティス殿下はこちらをちらりと見てから、屋上から出ていく。
――とても鋭い眼光だった。
屋上の扉が閉じるのを見て、わたくしとレグルスさまは顔を見合わせて、微笑み合った。
「……カミラ嬢、本気にするよ?」
「えっ?」
「『それも悪くないと思っております』って言葉」
パチンとウインクするレグルスさまに、思わず目を
自信満々に言っていたのに、ちょっと不安がっているようで……そんなところが、なぜか愛しく思えた。
「ええ、リンブルグに興味がありますもの」
「リンブルグにだけ?」
「……それは、レグルスさま次第、と言ったところでしょうか」
口元を隠して微笑む。冗談めかしたことを言えるようになったのは、彼のおかげね。
……でも、正直、わたくしにはまだわからない。
考えないといけないことが山のようにあるから。
それでも――……彼とならきっと、未知の土地でもうまくやっていけるような……そんな予感がするの。
「ところで、勝算はあるのでしょうか? マティス殿下は本気を出すと思いますわよ」
「勝算もなにも、負けたら負けたで別の方法を考えるよ」
両肩を上げてみせるレグルスさまに、わたくしは「ええ?」と目を丸くした。
「公爵は『陛下に伝える』と言った。確約はしていないってこと。陛下に伝えても、『婚約を白紙にするわけないだろう』って言われたら、カミラ嬢とマティス殿下の婚約はそのままだろう? まぁ、負けるつもりはないけれど」
……そうだ。確かにお父さまは『陛下にそう伝えよう』と口にしただけだわ。
マティス殿下が婚約を白紙にすることを望めば、と考えていたけれど……これは王族の婚約。
そう簡単にマティス殿下やお父さまの判断だけで婚約を白紙にできるわけではない。
ならばどうすれば良いのか――……考えることが増えたわね。
「結構厄介そうだね、この国の陛下って」
「……そうですわね……。わたくしたちが入れ替わった理由が知りたいですわ」
「そこら辺も、マーティー前に調べよう。きみとマーセル嬢の入れ替えの呪いは、ブレンに任せておいて平気だと思う。あいつ、こういう難しいことをになると、燃える性格だから」
それは少し意外だわ。
ブレンさまって大きな見た目に対してほのぼのとしていたし、言葉遣いものんびりとした感じだから。
「ある意味、あいつは傭兵学科で合っているのかもしれないなぁ」
「え?」
「騎士学科より実戦形式多そうだし、暴れ放題!」
「レグルスさま、あんまり人聞きの悪いことを言わないでくださいよー」
「ぶ、ブレンさま!? いつの間に!?」
ひょこっと現れたブレンさまに驚いていると、マーセルとクロエも一緒に来ていたみたいで、わたくしたちの会話が終わるまで待っていたみたい。
自分のことを口にされたから、聞こえてますよって現れた……のかしら、きっと。
「まぁ、全力で
「任せた」
「レグルスさまもがんばってくださいねー」
「もちろん」
この二人の会話って、聞いているとなんだか面白いのよね。
そんなことを考えていたら、マーセルがわたくしの前に立った。
すっと頭を下げる。
どうして今、頭を下げるのかがわからなくて、首をかしげた。
「自分のしたことを反省したようです」
「本当に申し訳ありませんでした。マティス殿下が好きという気持ちだけで、なにも考えていませんでした……」
わたくしがふっと息を吐くと、マーセルはびくりと肩を震わせる。
彼女の肩に手を置いて、言葉をかけた。
「……貴女は本当に、マティス殿下のことが好きなのね」
マーセルの気持ちに、感心してしまう。
わたくしとマティス殿下の関係とは、まったく違う関係を築いていったのね。
それも、この学園に入ってからだ。
わたくしが好かれていなかった、というだけでもあるけれど。
マティス殿下に会う時間よりも、勉強のほうが忙しかったし……互いに愛し愛される努力をしてこなかったのだから、ある意味当然の結果なのかもしれない。
もちろん、そう簡単に許されることではないけれど。
「……強くなりなさい、マーセル。マティス殿下の傍にいたいと、思うのなら」
その言葉が意外だったのか、弾かれるようにマーセルは顔を上げた。
そして、その瞬間――くらりと
目を開けると『
ブレンさまの言った通り、少しの時間だったけれど……自分の身体に戻れたことで、これからのことも、そこに至るまでのことも改めて考えさせられた。
「――わたくしは
「……カミラさま……。私、私……がんばって、彼の隣にいられるように……」
ふるりと身体を震わせて、マーセルは首を横に振った。ただ、固い決意を宿した瞳で、わたくしを見る。
「――私は、私のやり方で、彼を支えたい」
「……支えるのは良いけれど、間違ったほうへ行かせないようにね?」
どうやって支えるつもりなのかわからないけれど、彼女の決意は固そうだ。
いつまで経っても馬車にこない『カミラ』を探しにきた護衛が、彼女を連れていく。
残されたわたくしたちは寮の自室に戻り、それぞれの時間を過ごした。
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