クロエの部屋にて。
その日は寮の門限前に帰り、そのまま明日の準備をする。
クロエは、明日の放課後呼びにいくので教室で待っていてほしいと伝えて、わたくしの肩をぽんと叩いた。
そして翌日――つまり、今日、これから――マーセルと会う。
その前に、マティス殿下に昨日のお土産を渡した。
中身を見てすごく複雑そうな表情を浮かべていたので、少しだけ胸がすっとしたわ。
それでも大事そうに抱えて持っていったから、マーセルのことが本気で好きなのだとしみじみ感じた。
思っただけで、他の感情が動かない。
貴族の結婚って、大体が政略結婚で、恋愛はあとからついてくるものだと思っていたけれど……マティス殿下とマーセルのように想いあっている場合はどうなるのかしらね?
「さて、と……」
今日も地味な嫌がらせはあったけれど、あまりにも地味すぎてまったくダメージにもならなかった。
元々貴族が通う学園だから、そんなに目立った嫌がらせはないのかしら?
……いえ、マーセルが変わった、と思ったからこそ?
「か……マーセルさま、お待たせしました」
放課後、すぐにクロエがわたくしを迎えにきた。早い。
鞄を持って、彼女に近付く。
クロエの部屋に向かう途中で、ブレンさまに会った。そして、そのまま彼も一緒に彼女の部屋に足を進める。
「男性がクロエの部屋に入っても、大丈夫?」
「大丈夫ですよ、教員の寮ですしね」
それなりに人の出入りはあるみたいね。
授業でわからないところがあれば、聞きに行く人もいるのかしら?
そんな会話を
クロエが開き、中に入るようにうながしたので、わたくしたちは中に足を踏み入れた。
そこにはすでにカミラ……の姿をしたマーセルがいて、こちらに気付くとばっと頭を下げる。
「ごきげんよう、カミラさま」
「ごきげんよう、マーセル」
わたくしに挨拶をしたマーセルは、後ろに控えていたブレンさまを見て、首をかしげた。
ブレンさまはじっとマーセルを見て、それから「これは……」とつぶやく。
「……なにかわかりまして?」
「
のほほんとした口調で言われて、わたくしとはマーセルと顔を見合わせて、ブレンさまを凝視する。ブレンさまはじーっとわたくしたちを見て、肩をすくめた。
「うん、やっぱり禁術の一つです。特に……マーセル嬢? の魂にかけられた鎖が強そうです。魔法が使えないのは、そのせいかも」
「! で、では、鎖が
「それが、ですねぇ……。あまりにも雁字搦めに絡まっているので、
ブレンさまの言葉に、大きく目を見開いた。だって、それは……時間をかければマーセルの鎖を
「……私、また魔法が使えるようになるんですか……?」
「ええ。もともと使えていた魔法は使えると思います。マーセル嬢の魔法の属性は四大属性みたいですね。まぁ、他の人も大体はそうなんでしょうけれど。そうなってくると、やはりカミラさまに隠された属性がきになりますねぇ」
わたくしたちを交互に見ながら、考えるように腕を組み「うーん」と悩み始めるブレンさま。
――マーセルの魂にかけられた魔法を
ほっと息を吐くと、クロエがいつの間にかお茶を
「カミラさまの隠された属性とは……?」
マーセルが気になったのか、声をかけてきた。わたくしはお茶を一口いただいてから、その質問に答える。
「わたくしにも、よくわからないのよ」
だって今まで、四大属性しか使ったことがないのだもの。
わたくしにあって、マーセルにない属性の正体がつかめれば、わたくしたちがなぜ交換されたのかも、わかるかもしれないわね……
「そういえば、
マーセルに
やはり、あの部屋に閉じ込められていたのね。
「授業はどう? ついていけそう?」
「……さっぱりです……」
泣きそうな表情を浮かべて、うつむいてしまった。
わたくしとしてはそれで良いのだけど。
召使学科で習うのは、わたくしがすでに学習していたところが多いから、『マーセル』の成績はそれなりに上がるでしょう。
「……そのままで良いわ」
「え?」
「テストも、白紙で出しなさい。カミラの成績を底に落として構わないわ」
わたくしの言葉に、三人が息を
ビスケットに手を伸ばして、口の中に入れて咀嚼して、飲み込んでからお茶を含んだ。
口の中の水分を奪うビスケットだからこそ、次に飲むお茶が美味しく感じるのよね。
「あまり得策には思えませんけれど……?」
「追試はわたくしが受けるわ。だから、その前に身体を戻したいの。ブレンさま、ご協力をお願いします」
すっと頭を下げると、マーセルも頭を下げた。わたくしにつられて、という感じだった。
「はぁ、まぁ、僕にできることでしたら……」
「では、まず半月でマーセルの魔法を使えるようにしていただきたいのですが」
「えっ!? わ、わりと性急ですね!?」
「ええ。パーティー前にはわたくしたちの身体、戻したいので。マーセル、貴女はどうして魔法が使えなくなったのか、心当たりはありまして?」
ふるふると首を横に振るマーセルに、クロエが昨日話していたことを伝える。
すると、彼女は「……あ」と、なにかを思い出したようにつぶやいた。
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