お土産屋。
レグルスさまとブレンさまの優しいまなざしに気付いて、顔を上げる。
「お土産屋に寄って、寮に帰ろうか」
「ええ、そうしましょう」
クラスメイトたちはきっとまだ水族館にいるだろうし、先に帰ってしまいましょう。
確か、お土産屋は入り口付近にあったはず。
みんなで移動していると、やっぱり視線を感じる。
わたくしたちが一緒に歩いていると、すれ違う人たちの注目を集めるみたい。
お土産屋に入り、ぬいぐるみのコーナーに足を進めた。
いろんなぬいぐるみが置いてあるのね。
真剣にぬいぐるみを選ぶ。マティス殿下に渡すには、大きなぬいぐるみがいいかしら。
きっとどんな大きさでも受け取るでしょうね。大きなぬいぐるみを持って歩くマティス殿下を想像し、ふっと笑みを浮かべる。
まぁ、このくらいのことは許されるわよね……?
面白い顔のぬいぐるみを探してみましょう。じっとぬいぐるみを見つめていると、レグルスさまが声をかけた。
「そんなに真剣に悩んで……」
「マティス殿下に渡すものですから。可愛いのではなく、面白いものが良いのです」
「……敬語、やめない? 同じ学園に通っているんだしさ」
わたくしは思わず目をぱちくりと瞬かせた。女性にそんなことを提案する男性は初めてだ。リンブルグでは、そうなのかしらね?
「カミラに戻ったら、そうしますわ」
「そうして。俺、あんまり敬語って好きじゃないんだよね。遠い気がして」
「レグルスさまに敬語を使わない方なんて、いらっしゃいますの?」
「いたよー。ブレンも人目があるから敬語なだけで、リンブルグじゃ普通に話してる」
それはちょっと意外。
あのほのぼのとフィッシュバーガーを食べている姿を思い出して、ふふっと笑ってしまった。
「ブレンさまはお腹が丈夫なのですね」
「ヤツの胃はどうなってんだかね……」
付き合いの長いレグルスさまさえわからないのなら、わたくしにわかるわけがないわね。それでも、彼らの会話を聞くのも楽しくて……
「レグルスさまたちと一緒に過ごしていると、あっという間に時間が過ぎていきますね」
楽しい時間はあっという間に終わると、本に書いてあったわ。
今、それを実感している。
……あ、このサメのぬいぐるみ、面白い顔をしているから、このぬいぐるみにしようかな。
これを
「……」
「レグルスさま?」
「……いや、きみは……」
レグルスさまは言いかけた言葉を切り、緩やかに首を振る。
わたくしが首をかしげると、「買っておいで」と購入をうながした。
こくりとうなずいて、選んだぬいぐるみを持ち、会計に向かう。
サメのぬいぐるみを、プレゼントっぽくラッピングをしてもらった。
明日、これを見たときのマティス殿下の反応がどんなものなか……少し楽しみね。
ラッピングされたぬいぐるみを袋に入れてもらった。そして、レグルスさまたちのところに戻ると、彼らは三人顔を見合わせて、なにかを悩んでいるように難しい表情を浮かべていた。
なにを考えているのかしら……?
「どうしましたの?」
「あ……いえ。今回はあまり見て回れなかったので、また今度来たいねって話を……」
クロエがそう教えてくれた。
そのわりには、クロエの頬が赤くなっているような……?
あ、もしかして、ブレンさまに二人で行こうと誘われたのかもしれない。
ちらりとブレンさまを見ると、にこにこと笑っていた。楽しそうね、彼。
「……あの、まだ時間はありまして?」
「え? ああ、もちろん。門限まであるからね」
「……でしたら、お願いしたいことがあるのですが……」
三人の顔を見渡して、真剣な表情でぬいぐるみの入った袋を抱きしめる。
そして、周りの人に聞こえないように、小さな声でお願いをした――……
◆◆◆
「マジですか」
「マジですわ」
人気のない――演習場。
周囲には魔法のバリアが張ってあるから、周りに被害が出ることはない。
「本気で言っているんだよな……?」
「医者のクロエもいますし、今のわたくしがどの程度の魔法が使えるのか……見守ってくれませんか?」
クロエが心配そうにわたくしを見ている。
マーセルの身体でも、魔法が使えるのはわかるのだけど……、どの程度まで使えるのかは、まだ試していないの。
わたくしは、レグルスさまたちに立ち会ってもらうことを希望した。
この演習場はあまり人がこないことで有名な場所だから……
幽霊が出るとか、おどろおどろしい音が聞こえるとか、そんな噂のある場所。
まぁ、おそらくその幽霊の正体、わたくしなのよね。
放課後、帰る前に授業の復習するために寄っていたの。
「魔力が切れそうになったら、すぐにやめること」
「はい。――では、いきます!」
わたくしは普段と同じように、攻撃魔法を演習場の的に
火の魔法、水の魔法、風の魔法、土の魔法を試していく。
属性魔法はもとから使えていた。
攻撃魔法を的に当てていく。動かない的だから、狙いやすい。
……マーセルはなぜ、魔法を使えなくなったのだろう?
「カミラさまの魔法の属性は、それだけですか?」
「え? ええ……」
四属性は、わりと誰でも使える属性だ。
ブレンさまが探るようにわたくしをじっと見つめて、「おかしいなぁ」とつぶやく。
レグルスさまがそれに気付いて、わたくしたちを交互に見た。
「なにがおかしいんだ?」
「僕から
じーっと見つめられて、わたくしも見つめ返す。
レグルスさまがなにかを考えるように、顎に指をかけてゆるりと息を吐く。
「……もしかして、それがきみの公爵令嬢になった理由だった……?」
レグルスさまがそう仮説を立てて、わたくしたちは言葉を
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