水族館。
「それにしても、海も近くない王都で、よく水族館を建設しましたね」
「海が近くないからこそ、海の生物を民に見せたいという陛下のお心遣いです」
「その心は?」
「……我が国の魔法の技術は素晴らしいんだぞ、という見栄ですね」
チケットを受付に見せて、手の甲にぽんとスタンプを押される。
このスタンプは魔道具でできていて、一日フリーパスの証になり、閉館と同時に効力を失い消えるものだ――と、ブレンさまのパンフレットに書いてあった。
入場するために並んで、ひそひそと言葉を交わす。
王都は陸の中心にあるから、水族感を建設するのにはかなり時間がかかったそうだ。
それでも、陛下が建設を押し切ったのは――魔法の技術を、見せたかったから。
たまに、陛下は魔法の技術を見せつけるために、無茶なことを指示するときがある。
海に住んでいる魚たちを活かしたまま移動できる技術があるということを、他国に見せるためのもの。
パフォーマンスの一種だろう。
そして、水の中で息ができない人間たちはこうも考える。
――もしも、その魔法を人に使ったら?
「パフォーマーだなぁ」
「……戦争になるよりはマシですけどね。リンブルグはどうでしょうか?」
「あー、今の王都ってどっちだ?」
「海側ですねー」
……ん?
わたくしとクロエは首を
その言い方では、王都がころころ変わっているように聞こえるんだけど……
「たぶん、考えていることが正解だよ」
レグルスさまがわたしたちにウインクをした。ブレンさまも首を縦に振っている。
「王都が……ころころ変わったら、大変では……?」
「山が好きな人も、平地が好きな人も、海が好きな人もいますからねぇー……」
待って、王都が三ヶ所もあるということなの? それとも国王陛下が住む場所をころころ変えるからなのっ?
どんな国の在り方なのか、さっぱりわからなくなってきたわ……
「リンブルグは最初、小さい国だったんだけど……いつの間に大きくなって……」
「というか、大きくなった原因ってやっぱりあれですよね。周辺の国がリンブルグに攻撃を仕掛けてきたからですよね」
「ちょうどいい場所にあるからなぁ。まぁ、リンブルグは魔法が発達している国だから、返り討ちにしていたみたいだけど」
自国のことだけど、あまり関心はないのかしら。
淡々と話しているのを聞きながら、リンブルグの在り方を想像してみたけれど……全然想像できなかったわ。
想像力がないのね、わたくし、きっと。残念だわ。
「ああ……ちょうど中央にありますものね」
「そ。中継地点にベストな場所にあるんだよね、困ったことに。さすがに国が大きくなってからは、攻撃仕掛けられることも減ったけど」
「……なんというか、すごいですね……」
としか言えない……!
あとで地図を見て確認してみましょう。リンブルグの広さを。
「あ、やっと俺らの番だ」
「わー、魚ー」
わたくしたちの番がきて、入場すると……そこはまるで海の中――……ごめんなさい、考えてみればわたくし、海の中に入ったことがないわ。
それでも、きっと海の中に入るとこんな感じなのだろうなと思った。
「ぷくぷく太っていて美味しそうですねぇ」
「そこなの!?」
ブレンさまの言葉に、クロエが反応を示す。
餌を与えられているからか、確かにぷくぷくと太っていたけれど……まさかここで美味しそうという言葉が出てくるとは思わなかったわ。
「アジ……アジフライ……、焼くのも良いですね。あ、なめろうも捨てがたいです……骨せんべいも良いなぁ……」
「すまんな、こいつマジで食い意地張ってるから」
むしろ、アジを見てそれだけの想像ができるブレンさまがすごい。
彼にとってはこの場所、美味しい魚宣帝署になるのでは……?
いえ、もちろん、水族館の魚は食べないだろうけど!
「いわしの群れのショーや、イルカのショーもあるみたいですよー」
「……さすがに、イルカは美味しそうとは言いませんわよね?」
「……うふ」
ブレンさま、その笑い方はちょっと怖いわ!
クロエも同じことを思ったのか、ブレンさまを見て肩をすくめていた。
わたくしたちは一通り館内を見て回り、そのたびにブレンさまが魚料理のことを口にするから、最終的に面白くなってしまい、ぷっと
だってあれだけキラキラした目で「いわし……煮て骨まで……」とか「サーモン……刺身……あ、漬けもいいなぁ」とか、「
というか、小さめとはいえ、よくマグロをここまで運んだものだと感心してしまった。
サメは見ていたけれど、サメについてはなにも言わなかった。ただぽつりと、
「……周りの魚、食べているのかなぁ……」
そうつぶやいていた。羨ましそうに。
ブレンさまの考えていることは、すべて食に関することなのでは? と考えていると、クロエはサメを見ながら「怖いのか可愛いのか、よくわからない顔をしていますね」とじっくり眺めていた。
「あ、イルカのショーがそろそろ始まるみたいだ。見にいくかい?」
「はい、行きましょう」
イルカのショーの場所に向かうと、人気があるらしくびっしりと人がいた。最前列の人にはレインコートを渡している。
わたくしたちは来るのが遅かったみたいで、遠くから見ることになった。
それでも、飼育員のいうことを聞いて演技するイルカの姿は愛らしかった。きゅいきゅい鳴いて、水中からジャンプ!
その水しぶきを、最前列の人たちが「キャー!」と楽しそうに受けていた。
「遠目ですけど、可愛いですね」
「そうですわね。……イルカってこんなにも賢いのね……」
感心したようにつぶやけば、レグルスさまが「飼育員の努力の
イルカもすごいけれど、それを教え込んだ飼育員の努力もすごいわ。
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