休日で良かったわ。
あのあと、わたくしはレグルスさまに先に屋上から戻ってもらった。混乱した頭を整理するためにも……
自分が公爵家の血筋ではないことを知って、愛されなかった理由を理解してしまった。
それはとても悲しくて、寂しいことだったけれど……知って良かったと、思っているの。
マーセルとマティス殿下が婚約すれば、本来の形に戻るのね。確かに彼女と同じプラチナブロンドだわ。金髪は珍しくないから、気付かなかった。『カミラ』の髪色はストリベリーブロンドで、公爵家の人間としては浮いていたものね。
――身体が冷えてきたから、もう寮に帰りましょう……
寮に帰り、自室に引きこもり枕を抱きしめて顔を押し付ける。声を抑えて――身体の中の水分を全部涙にかえたんじゃないかってくらい、涙を流した。
泣き疲れてしまい、そのまま眠ってしまったようで、気が付いたら朝になっていて驚いたわ。
……今日が休日で本当に良かったわ。たくさん泣いてしまって、目が腫れぼったくなってしまったから、がんばって冷やさないと。魔法を使い冷やしていると、誰かが来たみたい。
控えめなノックの音を聞いて、わたくしは魔法を止めて「どちらさま?」と声をかけた。
「……私です」
その声を聞いて、急いで扉を開けた。たった数日。……数日しか経っていないのに、やつれた顔をした『わたくし』がそこに立っている。
どうやってあの部屋から抜け出してきたのかしら。ぼさぼさの髪にところどころほつれたドレスを身にまとった彼女は、部屋の中に入るなりずるずると座り込んでしまった。
「マーセル、よく無事だったわね……」
「カミラさま……あの家族はなんなんですか! 人を物のように扱って! アレでも家族なんですか!?」
……ああ、やっぱりそういう扱いを受けていたのね。そして、ぎゅっとわたくしの手を握る。
「ずっと、ずっと……あんな家族のもとで、暮らしてきたんですか……?」
同情なのか、それとも……なにか思うことがあったのかしら? マーセルはわたくしのことをどう判断したのか、少し気になるところではあるけれど……わたくしはとりあえず彼女を立たせて、ベッドに座らせた。
あまりにもボロボロの姿だったから、見ていられなくて。
「公爵家は相変わらずなのね」
自分で自分の髪を整えるのって、複雑な気分だわ。
「……私、カミラさまは完璧な公爵令嬢だと思っていました。お金持ちで頭もよくて魔法も使えて……こんな人になれたらなぁって。カミラさまと婚約しているマティスさまにも、最初は興味本位で近付きました……」
ぽつぽつと言葉を落とすマーセルに、わたくしはただ手を動かしていた。髪を
「……
こくりとうなずいたマーセル。どうやら彼女は家族に愛されて育ったようね。それが少し、いえ、かなり羨ましく感じた。
「両親は私を大切に育ててくれました。私の家はお金があるわけではありませんが、優しい両親に使用人たちがいて、いつも楽しかったです」
「……そう」
「私……ずっと、家族とはそういうものだと思っていました……」
ぽつぽつと話すマーセルに、わたくしは内心ため息を吐いた。
幸せな家庭で育った彼女が羨ましく、昨日のマティスの話を思い出してやるせない気持ちになる。
もしも、わたくしとマーセルが交換されなかったら、両親に愛されていたのかしら……?
そして、彼女が公爵家で育ったのなら、どんな令嬢になるのかと。
「……貴女は幸せな家庭で育ったのね」
こくり、とマーセルがうなずいた。
わたくしの顔で神妙な表情を浮かべているマーセル。……こういう顔もできるのね、わたくしって。そんな変なことを考えながらも、ふと気になっていたことを口にする。
「どうして、マティス殿下に近付いたの?」
「……最初は、カミラさまの婚約者がどんな方なのか、気になったんです。完璧な公爵令嬢の婚約者ですから、彼も完璧な王子なのか気になって……ですが、彼を知っていくうちに、私は……マティスさまを好きになってしまったのです」
つらそうに話すマーセルに、わたくしの心は動かなかった。自分でも驚くくらいに。
興味本位で近付いて、好きになったから身体の関係を許したということなの?
「……マーセル。貴女、マティスと付き合っているの?」
小さくうなずいたのを見て、大きなため息を吐いた。
それを聞いてびくりと身体を震わせる。わたくしがいじめているみたいじゃないの。
「婚約破棄を、公爵さまにお願いしました。ですが、『そんなことは許さない』って。私が歩いていると、公爵夫人が『変な歩き方をしないでちょうだい』って……。ずっと見張られていて、魔法が使えないことに気付くと公爵夫人が……」
自分を抱きしめるように二の腕を掴み、ぶるぶると身体を震わせる。どうやら、激しく
お母さま、そういうところがあるから。
むしろ、わたくしを使ってストレス発散でもしていたんじゃないか、と考えるくらいに。
「……ねぇ、マーセル。わたくしがどうして泣いていたのか、教えてあげるわ」
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