第15話
「お父様、
ちょうど良いところにいらっしゃいました。
私、ただいま、
こちらの四條七海さんと、
結婚を前提としたお付き合いをさせて頂いてます。」
……
は?
あ、あの、
目の前の、仕立てのよさそうなスーツ着た人って、
紗耶香さんの、お父、様
っていうか、
け、
けっこ、ん??
うわっ。
めちゃすっごい睨まれた。
ギンって、音が立ったよ。
「……。」
っていうか、
この人、結構、強い?
こないだの爽やかな学生さんと全然違って、胸筋が
う、うわぁ。
風圧は収まったけど、上から下まで舐め廻すように見られてる。
よ、よかった、あのチェックのへたった服、捨てといて。
断捨離万歳。
「……
君、名前は。」
「あ、はい。
ご挨拶が遅れました。
四條七海と申します。」
「……ふむ。
年齢は。」
「19歳です。」
「志望就職先は。」
ん?
*
「志望就職先は。」
げ。
なんてこと聞いてるんだよ父っ!
そんなもん、
「具体的な企業名はまだ固めておりませんが、
現在のところ、日本国内の商社かメーカーを志望しています。」
え。
えっ。
「理由は。」
「残念ながら、これから日本の人口は減少していきますから、
日本以外の市場を開拓している企業群が望ましいかと。」
「外国語は。」
「英語と、第二外国語でドイツ語を。」
「中国語は。」
「習得者は多いですし、今後のカントリーリスクを考えて外しています。
できれば、
そ、そんなこと考えてたんだ。
「……ふむ。」
そ、ソツがなさすぎる。
いい加減にいきあたりばったりに生きていた私とえらい違い。
「娘との交際歴は。」
「……恥ずかしながら、三か月程度です。」
え。
実質、半月もいかないのに。
ななみくん、ヤバい時の状況対応力、めっちゃ高い。
「そのタイミングで婚前交渉は、
聊か節度を失したものと思うが?」
う、あっ。
「お、お父様、それ
「恥ずかしながら、紗耶香さんに助けられまして。」
!
「ほぅ。」
「本当はもう少し後を想定していたのですが、
借りていたアパートが改築のために立ち退きになって、
相談したところ、このようなご提案を。」
「君は非常識を娘のせいにするのかね?」
ぶちっ。
*
「君は非常識を娘のせいにするのかね?」
っ。
しまった。そう聞こえる内容だ。
会話選択肢、間違えた。うわぁ、ロードしたい。
って、
え゛
「お父様。」
な、なんか、
紗耶香さん、ちょっと、見たことない顔になってる。
なんていうか、眼が、据わって
「!
な、なんだ。」
「いい歳をしてお父様のほうがよほど非常識ではありませんか。
初対面の私の彼氏にこのような詰問をなさりたいなら、
せめて予め日時を指定してお会いする機会を設けるのが
互いに敬意を示す大人のとり進め方というものでしょう。」
「し、しかし、だな。」
「私が、いいって、言ってるんです。
それに、ここは私の稼ぎで借りてます。」
え゛
カサブランカじゃ足らない筈だけど。
バイト先、もっとある?
僕の知らない稼ぎがあるとか?
「親子でも、住居不法侵入は成り立ちますが、
なにか仰りたいことはございますか。」
「……連帯保証人は私だが。」
「なら、お母様からお金をお借りして保証会社と契約するまでですけど。
そしたら、結婚式にお呼びしませんから。」
「ぐっ!」
うわ、凄い。
クリティカルヒットで胸筋が揺れた。
いや、だけど、
「あ、あの、紗耶香さん。」
うっ。
めっちゃ冷たい眼で睨まれた。
とばっちり?
「その、玄関で立ち話もなんだから、
入って頂いたほうがよくない?」
あ。
……
いつもの綺麗な眼になった。
かと、思ったら。
なにか、含み笑いをして、
「どうです、お父様。
これこそが気配りの行き届いた男性の姿ですよ。
仕事に感けてお母様に逃げられた貴方とは違うんです。」
う、あ。
とんでもなくえらいものブチ入れてる。
あ。
膝から、崩れ落ちたような気が。
オーバーキル?
*
はぁ。
(……君とは、近いうちにいずれまた話をすることになりそうだな。
覚悟していたまえ。)
いいの、かな。
実は、彼氏役だなんて、絶対に言えないんだけど。
どうしよう。
紗耶香さん、想い人、いるんじゃなかったっけ。
って。
「あの、紗耶香さん?」
「!」
あ、まだ荒ぶってる。
かと思ったら。
「……
ぷっ。
はは。
あははははは。」
ど、どうしたの?
「あはははは。
私、生まれてはじめて、お父様に逆らっちゃった。
どうしよう、ほんと。あははは。」
え゛
「だって、
ななみくんにあんな風に酷いこと言うんだもん。
キライになりそうになっちゃった。」
あぁ、
いや、お父様のお気持ちは重々分かるんだけど。
手塩にかけた娘を獲られたくはないんだろうな。
まして、こんな眉目秀麗に発育よく育った娘を。
「でもまぁ、当分は大丈夫じゃないかな。
一番言われたくないだろうことコンボでグサグサって言ったから。」
あぁ、
やっぱり分かって言ってる。
怖いな、もう。
「知ってた? ななみくん。
性格、すっごい悪いんだよ、私。」
「うん。」
「え。」
「だって、『たこわさ』さんの中の人でしょ。
コメント欄見てるし。」
紗耶香さんは口を小さく開けたかと思ったら、
顔を真っ赤にしはじめて、手を壁についた。
「……
はぁ。
うっわ。
だよね。うん。
あれは、でも、その、キャラってやつだからさぁっ。」
それはそうだけど、
キャラの前提となる性格があるってことだろうし。
まぁでも、だからこそ人の闇に刺さる作品が書けるんだろうけど。
「……
あは、は。
ほんと、ななみくんには、私のこと、知られ過ぎちゃってるなぁ。
まぁでも、同棲するんだから、いいよね?」
同棲、か。
改めてはっきり言われると、言葉が輪郭と質感を持ってくる。
「あ。
そうだ。」
え。
「大事なこと、
言い忘れてたよ、ななみくん。」
な、なに。
いきなり腕を廻して抱き着いてきて。
うわ。胸、やわらくてめっちゃあったか
「メリークリスマス、四條
磐見紗耶香の部屋に、ようこそ。」
読み専で感想を入れた先が、派手めの金髪女子大生だった
第2章
了
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