第14話
う、うーん。
(大学生の彼氏彼女って、
ふつう、一緒に住むんだよ。)
同棲という言葉は聞いたことはあった。
でもそれは、自分には縁のない世界であって。
っていうか。
いや、だって。
あの身体だぞ?
夢に出てくるだけでアレなんだから、
一緒に住んだりしたら、海綿体が破裂し続ける。
そうなったら、こないだの一見爽やかな人みたいになる。
男性の生物学的生理として、狼にならずに済ませられるわけがない。
一日ならまだ耐えきれる自信くらいはあるけど、毎日っていうのは。
あぁ。
(ななみくん)
……紗耶香さんは、ひょっとしたら、
僕を、♂だと思ってないのかもしれない。
「四條
それに、彼氏役の僕は、
そういうことをしないと思ってるんじゃないのかな。
つまり、紗耶香さんにとって、彼氏役とは、
生活のお世話をする執事みたいなスタンスだと。
それなら、性的な生活が想定されないのも分かる。
……ただ。
それ、耐えられるか?
僕、が。
(ななみくんが入ってくれると助かるんだよね)
……カサブランカを辞めるのを躊躇した理由も、
家賃分を支払う必要があるからかもしれない。
差額が生まれるなら、紗耶香さんのメリットは大きいだろう。
だとすると、
紗耶香さんの想い人が現れるまで、僕が、耐えきればいい。
……ただ。
えっと、これ、何か月耐久レースなのかな。
年単位はどう考えてもまずい……。
*
「とりあえず、一か月、試してみることにしたから。」
「……紗耶香、
あんたって、大胆なのか
おつむのゆるゆるネジが抜けきった大バカなのか全然分からないわ。」
なんだよその言いぐさ。
「だって、それって、
四條君と毎日ヤルってことでしょ。」
ん
ん?
ん??
……
ばこぅいんっ!?!?
「……ねぇ、真奈美。
紗耶香、マジで気づいてなかったって顔してない?」
「……信じられないクソバカ娘ね。」
「こんなのが経営学部で
いっちゃん難しいゼミに首席で入ったんでしょ。
ほんと、どうなってるの?」
*
ど、ど、どうしよう。
どうしようどうしよう。
いまさらなしなしてへへへ、みたいな話に出来る雰囲気じゃない。
それでなんかななみくん、決意したみたいな顔だったんだ。
え。
じゃぁななみくん、そうだとわかっててOKしたってことは、
私、脈ありじゃね?
……
か、なぁ。
ななみくんのことだから、
私の家賃負担軽減とかを真面目に考えただけかもしれない。
っていうか、
(ううん、いま来たところ。)
(うん。
まぁ、そうだね。)
(通用口まで、送るから。)
……
やば、い。
私、絶対、襲っちゃう。
ななみくん、優しいだけ、
私の我儘につきあってくれてるだけなのかもしれないのに。
やってること、剛史とかと同じになっちゃう。
……
でも。
離したく、ない。
絶対に。
あ。
あ、あぁ……
いまのいまさら、やっと、わかった。
いろいろ、早かったんだって。
少なくとも、仮を取ってからじゃないといけなかったって。
……
でも。
私が、時間をかけて進めたら、
私の性格からして、五年は掛かる。
その間に、
(四條君、これからお昼でしょ?
良かっ
……
最適解。
少なくとも、近似解ではあったかもしれない。
いや。
もう、どうでもいい。
どういう成り行きだろうか行きずりだろうが、
この縁、このチャンス、絶対に離さない。
離してたまるかっ。
……
ひとりで誰に向かって拳を握ってるんだ、私は。
ぐっ、じゃねぇよ。
……
そうだ。
「たこわさ」やろう。
あぁもう、
完全に逃避行動だなぁっ。
っていうか、書けるもんが、ない。
こんなの、ここ四年間ではじめてかも。
ホント、一回、燃え尽きてるわ。
ラクロニアの外伝投下したってアンチが沸くだけだしなぁ。
とりあえず、最終話のコメント欄で味方の相手でもしとこう。
こいつら、ホントに味方かどうかわからんけど。
あぁ。
でもほんと、つぎ、マジでどうしよ。
こういう話こそななみくんと
……
そ、っか。
一緒に住むなら、こういう話を、
ずっと、気兼ねなく続けられるんだ。
なんだ、
めっちゃくちゃ楽しそうじゃん。
ふふ、あははは。
……
なんか、ひとりでアップダウンし続けただけで凄い疲れた。
ほんと、これから大丈夫かな、私……。
*
中途解約は思ったよりスムーズに進んだ。
というよりも、ラッキーなことに
「いやぁ、ちょうど良かったですよ。
二月までに解約頂かなければいけませんでしたから。」
家主が代替わりし、
新家主は、あのアパートを改築して、
高い家賃で貸したくなったらしい。
確かに、最寄り駅から七分だし、日当たりもいい。
立地的にはそれほど悪くない。
リノベーションしたほうが収益は上がるだろう。
「ここだけの話、
もう一月住んで頂くと立ち退き料二か月出ますが。」
「いえ、結構です。」
不動産屋が一瞬、舌打ちをしそうな表情をした。
新家主との間でなにかあるのかもしれない。
僕はなにも知らない上京直後の少年を装った。
「
不動産屋は、
なぜか、はっきり音を出して舌打ちした。
*
<ということで、
帰る家、なくなっちゃったみたい>
<あらららら
ま、立退料一か月取れるなら御の字だね
ななみくん、引っ越し荷物ってあんまりないでしょ>
ない。
服は押し入れの床に直置きしてたし。
買ってもらった服以外だと、ノートパソコンくらいしか貴重品がない。
<じゃ、レンタカー1回で十分かな?
アメニティの類はこっちと共有するから、
捨ててきていいよ>
あめにてぃ?
<歯ブラシとかシャンプーとかボディソープとか
そういうやつ>
なるほど。
牛乳印の石鹸君しかなかったけど。
<あ、部屋は別々だけどね
もともとルームシェアだから>
助かっ、た。
同じベットだったら流石に耐えきれなかった。
っていうか。
ほんとに、するんだな。
紗耶香さんと、同棲なんて。
……上京した頃は想像もしてなかった。
いや、つい三か月前だって。
あぁ。
一緒に住むのは「たこわさ」さん(50代♂酒カス)だって思えばいいんだ。
それもそれで光栄なことではあるけれども。
*
どくん
どくんっ
どくんどくんどくんっ!!
あぁもう、煩いなぁ私の心臓っ。
と、と、隣に人が入るだけじゃない。
風呂トイレ共同の借家にたまたま異性の同居人が来るだけ。
……それも面白いシチュエーションだな
とか思ってんじゃねぇよ、私の腐れ人工無能脳みそっ。
あぁもう。
早く来てほしいような来てほしくないような。
うん。
クイッ〇ルワ〇パー七往復、
いつ引っ越ししても大丈夫なくらい。
ヤバい薄い本とかはぜんぶシュレッダーしてある。
メル〇リに売れば結構な値になったやつとかもあるけどっ。
あぁもう。
……なんだろう。
なんか、
楽、しい。
ワクワク、する。
だって。
だって、
私が生まれてから一番好きなひ
ぴんぽぉん
来たぁぁぁぁっ!!!
がちゃっ
「いらっしゃい、ななみく
……
お、お、
お父、さま?」
な、え、は、ん、
な、なんで
「お、おお。
す、すまんな。
東京出張が入ったから、
折角だから、見に来たんだ。」
と、と、突然すぎるっ
だ、誰かに似て、驚かせようとする癖が
「連絡は、したんだがな。
その、RINEだったか。」
え゛
……ぁ。
確かに、来てる。
っていうか、なんで
!!!!!!!
「お、お父様、
あの、今日は、その
「ん、どうした?」
そ、そうだよ。
そうだよ、そういうシチュエーション、
リアルでは0.1%も想定してなかったけど、
こ、こんなの、こんなベタな展開、さんざ
ぴんぽぉん
っ!?!?
……
ぶちっ……
もう、覚悟、決まったぁっ!!
がちゃっ!
「!
ど、どうしたの紗耶香さ
ぐるうっ!
「!
な、なんだね紗耶香。
その青年は
「お父様、
ちょうど良いところにいらっしゃいました。
私、ただいま、
こちらの四條七海さんと、
結婚を前提としたお付き合いをさせて頂いてます。」
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