第4話
「すみません、たこわさひとつ。」
ぶっ!
あ、吹いてる。
って、
……え??
こっち、もの凄い睨んでるんだけど。
「え、たこわさって?」
あぁ、知らないのか真面目系女子。
飲み会とかあんまり来ないタイプ?
「おつまみ。
タコの煮物のわさび和え。」
「ふーん。」
……急に関心が無くなったな。
話を振っておいて繋ぐつもりがない。嫌だなこういう女子。
作業、頼みにくそう。文化祭の地獄を思い出す。
え、じゃぁ、このグループ、やばいんじゃないか?
ひょっとして、働く気があるの、僕だけ?
*
……いや。
まさか。
でも、
ぐう、ぜん??
いや、偶然にしては話題の繋がりが狙いすぎだ。
たまたま? 違う?
だいたい、そんなこと、ある???
……ななみちゃんは、♂かもしれない。
そのことに、そんなにショックを受けてない自分がいる。
もし、
そう、なら。
話して、みたい。
「experiment」の感想を、聞きたい。
どんな小説が好きなのか、どんな趣味を持ってるのか。
身体中から、狂おしいほどの関心が熱を持ってさざめいている。
ぶちまけてしまいたい。
なにも、かも。
……
聞けない。
聞けっこ、ない。
キャラが、崩れる。
生きていけない。
なんのために髪を染めたんだと。
隠し通すべきだと。
それが、正しいと。
でも。
胸が、騒いで。
息が、苦し
「紗耶香?
どった? また吞み過ぎたか?」
ぁ。
「あっちのテーブル、つまんねぇんじゃねぇの?
俺らそっち行こうと思ってたんだけど。」
外面、そとづら。
大丈夫。やれる。やれるから、私。
「あー、まぁね?
でもま、グループで一緒にやるんだから、
ちょっと仲良くしとかないとなんで。」
「そっか。
でもそっち、なんか、陰なやつらっぽくね?」
私が陰側なんだよ。
「サークルのイベントとかならしんどそうかも。
でも、呼び込みとかじゃないから、大丈夫っしょ。」
「ならいいけど。
じゃ、そっち行くから。」
え。
来るんかよ。
もうちょっと、なんか、察しろよ。
*
……まさか。
いや、
でも、
うーん。
決定打が、ない。
もうちょっと、聞こうと思ってたところで、
別のグループの陽キャ共に席を獲られちゃったしなぁ。
BBQがどうたらキャンプがなんたらで会話の流れが違いすぎて全然絡めないし。
っていうか、絡ませる気、なかったな。
「紗耶香」、さん、か。
やたら下の名前を強調してたから、
僕にしては珍しく女性の名前を憶えられたのは良かったけど。
っていうか、グループでこれから活動するっていうのに、
「紗耶香」さん以外は、学籍番号どころか、氏名すらちゃんと覚えてない。
体育会のあれは最初から計算外だったけど、
あの見た目だけ真面目そうな女子も活動してくれないとなると。
……はぁ。
自分でやるしかない、か。
先回りしとこう。
*
……うぁ。
やっべぇ、二日酔いだ。
なんだかんだで三次会まで付き合ったから。
抜けるタイミングを喪ったっていうか。
まぁ、なんだろ。
カラオケ、好きなんだよな、私。
歌っちゃうから。めっちゃストレスたまってたから。
まぁ、観察はできたけどね、いろいろ。
バレないと思ってヤってる奴らもいたし。
いろいろ書けそうな養分を補給して貰ったと思えば。
……
うぷっ。
深酒して一人で下着だけ着て部屋で吐いてる姿が、
ほんと、おっさんっぽい。
「たこわさ」のキャラづくりにはちょうどいいかも。
これならおっさんVだってできそうだ。
中身金髪パリピ女子大生のキャラなのに。
……
キャラ、か。
ほんと、なにしてんだろうな、私。
*
真面目そうな先輩にだいたいのスケジュールを教えて貰って、
2年次に必要な準備リストを作っておく。
どうせ三人とも働かないから、一人でやらなければならない。
一人分でできて、四人分弱に見えそうなことを幾つか考えて置く。
高校の文化祭の頃に身に着けた手法。
やらない人にやって貰おうと思ってうまくいった試しなんてない。
損な性分かもしれない。
でも、無理に頼んで無駄に傷つくよりはずっといい。
……はぁ。
新作完結を巡る気力、ないなぁ……。
たこわささんの奴だけ、ちらっと見て置こう。
……うん。
近況ノートの酒の話、めっちゃ濃い。
高級日本酒のブランド話の蘊蓄がいちいち煩いな。
絶対50代♂だな。
……でも。
いや、
ありえんだろ。
そんなこと、いろいろ。
なんせ金髪だぞ?
……あぁ。
でも、もしそうなら、
作業、頼めそうではあるんだよな。
この文章書ける人なら。
聞く?
どうやって?
金髪だし、めっちゃストリートだし、陽っぽい化粧してるし。
連れも陽系だし、サークルもテニサーとフットサルだし。
……考えれば考えるほど違うな。
「たこわさ」に吹いたのだって、ただの偶然かもしれないし。
今日は、と……。
2、3限、か。
……家いても、しょうがないしな。
元、取りに行くか。
*
うー。
「紗耶香、息してる?」
「はは……ちっとね。
2限、自主休講にしやした。」
ほんっと堕落してんな、私。
「バイトまで寝ててもよかったのに。
どうせ立ち仕事っしょ?」
「あー。
カサブランカか。」
だよ。
百貨店内のカフェ。
奥まったところにあるから客が来ないけど、
客単価が高いのと、本体が儲かってるから時給も悪くない。
テニサーの先輩経由で紹介して貰ったちょっとだけ美味しいバイト。
髪色大丈夫かと思ったけど、制服着てるとそれなり収まるからいいんだと。
次に繋ぐために粗相はできないトコ。
でも。
3限は、どうしても出たい。
日本文学史。
経営学部のわたしが唯一取ってる、
自分の密かな趣味をバリバリに反映した教養科目。
言わない。言えない。
言えるはずがない。
「コスパ考えたら寝ててもいいけど、
もう出て来ちゃったからさ。」
「紗耶香、そういうところ真面目。」
「ほんとほんと。
ヤリマンの癖にさー。」
じゃねぇよ、と言うほどの気力もない。
っていうか、なんだその噂。
「えー、だって昨日、
剛史君とヤったんじゃないの?」
オマエも見てたのかよ、あれ。
ちげぇよ、私じゃねぇよって説明するのもめんどくさい。
あぁ、はやく休み時間終わんないかな。
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