第3話


第一志望先のプレゼミは、真面目そうな子も多いけど、

思ったよりも陽寄りで、僕にはちょっときついかもしれない。


同じグループになったのは、男女二人ずつ。

男子の一人は体育会系で、部活命だから、戦力にはなりそうもない。

部活を理由にすれば、すべての作業をサボれると思ってるタイプ。


女子は、金髪の派手な凄く遊んでそうな子と、

黒髪の真面目そうな子が一人ずつ。

凄く遊んでそうな子は体育会と同じで役に立ちそうにないから、

サバイバルのためには真面目そうな子と仲良くしておきたい。


あの真面目そうな子、BLとか書いててもおかしくはないな。

って、ただの偏見だけど。


*


あ。


また、幼馴染ものにじゃすぴんさんがしっかり入れてる。

この人、ずっと巡回してるんじゃないのかな。

botなのかと思うくらいの頻度なんだけど、

たまに書く感想は短くも丁寧で、作者を喜ばせてくれるポイントを心得てる。

なんていうか、スコッパーっていうよりもdonatorだと思う。


で。


……うーん。

文章が、粗雑だ。

書きなれてない感しかない。

中学生かな?


でも、だからこそ書けてるものがあって。

っていうかこれ、この距離感、リアルなんじゃないかな。


背景描写もなくて、地の文も全然ないのに、人物描写が異様に細かい。

作者がこの幼馴染のこと、好きなんじゃないかっていう熱量を感じる。


うーん。ただ、これに、★を出せるほどのdonatorではないなぁ。

凄いなじゃすぴさん、ほんと、尊敬しかないわ。

こんな時はハートを3つくらい入れておこう。


で、お気に入りに入れてる

「たこわさ」さんの最新作を


……


んあ。

このID、知ってる。

人気のちょっとある作品に沸いてきて粘着な感想書く人だ。


悪気ないんだろうけ……

あるな、これ。

なんていうか、ほとんど中傷だな。


んでも、フォローしようと思って、この感想の記事に繋げて書いちゃうと

リカバリーだと分かってても、元記事と繋がるから、かえって目についちゃう。


過去回で、元記事と全然関係ない、キャラ造形とかを褒めておこう。

うまいこと神話に寄せてますよね的な。


あ。


……また、ネットに文章、載せちゃったよ。

一行だけだけど。


そういえば、こないだ書いたのも「たこわさ」さんのやつだっけ。

返信貰えてないけど。さすがに古すぎたか。


*


プレゼミでランダムのチーム分けがあった。

来年のゼミに向けた基礎的な共同作業をするらしい。


男子は、テンションの高い、いかにもやばい運動部って感じの男の子と、

地味目だけど、磨けばって子。


女子は一見真面目そう。

だけど、中身はめっちゃ淫乱なんだろう娘。

男子からは絶対分からない感じにしてるあたりがエグイ。


はぁ。

なんか、ハズレかもしんない。


コイツらと一緒に作業すると思うとちょっと凹む。

どうせ遊んじまうんだろ、お前ら。

こちとら生徒会の作業で地獄を見たんだよ。


……なんて考えてる時点で、精神がねじくれ捲ってるな、私。

まぁ、もの書きにはいいんだろうけど。


いや、おこがましい。

もの書きの覚悟なんか決まってないんだよ、私。

ただの隠すべき生理だから。


*


……

う、あ。

めっちゃ凹む……。

まぁ、慣れっこになっちゃってるけど。


ブロックしちゃったり、感想欄閉じちゃうのもありだけど、

それも砂を噛むような無味乾燥になっちゃう。


だからって。


記事削除、できるけど、

なんていうか、ぎりぎり荒らしじゃない感じが厭らしい。

こっちが消したら一部の粘着に心が狭いみたいに映るくらいには体裁が整ってる。

精神的ダメージを与えるためだけに書いてるんだろうな。


……こんなの見るたびに、ネット小説書くの、やめたくなる。

100のありがたい感想があっても、1つの悪意ある感想だけで、

床に落下した絹ごし豆腐みたく、原型を留めないくらい心が弾け飛ぶような感覚。


……わかって、る。

人前に何かを出すのに向いてない性格なんだということくらいは。


……

はぁ

くそ、吐き気が


んーと


……

え。


「ななみ」ちゃん、だ。




 『「たぶらかし」ですよね?』



……

ぁ。


ストゥルソン男爵家の滅亡を描いた部分。

「後にはなにも残らない草原」だけで。

古エッダのこと、どうしてわかったんだろう。


……

なんか。


やば、い。

身体の芯、熱くなっちゃった。


凄い。

凄いな、この娘。

たった一行で、こんなに心を掴めるなんて。


うわ。

やばい。めちゃくちゃ逢ってみたい。

牛乳瓶の眼鏡みたいなのしてるのかなぁ。


*


……


ひょっとして、

「たこわさ」さんって、♂じゃないのかな。


某ドーナツチェーンでヨーグルトクリームが無くなった哀しみを

こんなに微細に書ける50代♂、いるのかなぁ。


まぁ娘さんに聞いたのかもしれないけど、

娘さん20代とか? ありえなくもない。


文体はとても力強いし、

冷静で、心理描写も最小限で、ぐいぐいストーリが進んでいくから、

やっぱり♂なのかなぁ。まぁ巧いからどうでもいいんだけど。


で、と。


あ。

感想書いたやつ、戻って来てる。



 「ご明察、感謝!

  やるなおぬし」



あぁ、やっぱりそうだったか。

良かった。すんごいホッとした。

変なこと言ってたらどうしようかとビクビクしちゃってたから。


*


……

もしかして、「ななみ」ちゃんって、♀じゃないのかな?

栞のリストが、なんか、じゃすぴさんに似てるんだよなぁ。

♀ものの幼馴染好きなじゃすぴさんはどう考えても♂だろうし。

「ななみ」ちゃんが評価入れてるやつは性別感じないんだけど。


うーん。

気になる。

気になるけど、どうしようもない。

せめて囀ってくれてればまだいいんだけど。


連絡しようがないんだよなぁ。

あぁ、もどかしい。

っていうか、感想欄一往復だけなんだから、忘れ……


そ、っか。

感想、返せば、いいんだ。


スマホを持つ手が、震えてくる。


「experiment」


ななみちゃんが★を入れてくれたから、

少しだけアクセスがあるけど、

こんな実験的な内容で後続が続くわけがなかった。


がっかりしたけど、感想欄は新雪のままだ。

感想欄への返信で、ななみちゃん個人を呼び出すことができる。


っていうか。

うわ。


震え、る。

この小説に感想くれた子に、

適切に元ネタを把握してくれる鋭い子に、返信書くの。


どうしよう。

鼻で笑われたりしないだろうか。


いや、

ななみちゃんは、そんな娘じゃない。

「娘」かどうかも分からないけど。


……書け、ない。

緊張しちゃって、書けない。

書いては消してを繰り返してる。


あーもう、こんなのもうこうだよ。



 「ありがとう!」



……ほっ。


げ。

これじゃ、連絡取ってないじゃん。

消したいけど、また繰り返しちゃいそうだ。


あぁもう、ミジンコみたいなちっちゃい心の癖に、

自意識がクソデカすぎて死にたい。


*


プレゼミでの二度目の飲み会。

来年の本ゼミまで飲み会はないから、

先輩達と仲良くしておいたほうがいいと。


つってもなぁ。


あぁ。あの体育会、作業なんか全然しないのに、

先輩に変なアピールしてる。

上下関係に強いから結構気に入られたりしてるの見ると、気分落ちるわ。

こういう奴に就活で負けたら悔しいだろうなぁ。


目の前では、金髪の凄く遊んでそうな娘と、真面目そうな娘が、

大手ドーナツチェーンの好みをこまごまと話し合ってる。

早いとこ真面目そうな娘と話をしておきたいんだけど、割り込めそうにない。


っていうか、作業ちょっと一緒にやってたのに

まだ名前覚えてないっていう記憶力の無さ。

女子の名前、覚えにくいんだよな……。


……


ん?


「ヨーグルトクリーム?

 そんなのあったっけ?」


「昔あったの。

 一瞬だけ限定復刻してまたなくなっちゃったんだけど。

 私あれ、好きだったんだよね。」


 金髪の派手な子にしては趣味が渋……

 

 ヨーグルトクリーム??

 

 いや。

 こんな派手めの化粧してる子が、

 絶対、違うだろうけど。

 

「追加注文のほうございますかー?」


 まぁ、では。


「すみません、たこわさひとつ。」



  ぶっ!



 あ、吹いてる。

 って、

 ……え??

 

 こっち、もの凄い睨んでるんだけど。

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