第2話


金髪の派手な子達が、わいわい言いながら教場を去っていく。

絶対ネット小説なんて読んでなさそう。

雑誌見て、tiktek巡回してコスメの知識仕入れて、男漁りに忙しいって感じ。


偏見にもほどがある。

陰に走りすぎて歪みすぎだな。


ま、いまから、巡回するつもりなんだけど。

いきなり休講されちゃったもんなぁ……。

時間潰しにはちょうどいいんだよね。

活字出てるから、傍からはゲームしてるようには見えないし。


ええっと……トップ画面から、

さーっとランキングは見て置い……


……あれ。

これ、どこかで見たような……。


え゛


あ、あの、

貴方、「赤き藍」……だよね?


★17?!

ジャンル別日間ランキング、57位??


は?


……え。

ちょ、ちょっと確認……。


あ、

あぁ。


レビューだ。

レビューがついたんだ。


「小説の文体を借りた実録系のノンフィクションです。

 淡々とした無駄のない語り口は、慣れると頭にすっと入ってきます。

 実体験者しか分からない裏話がふんだんに盛り込まれています。

 隠れた宝石の一つだと思います。ハタチ以上におすすめです。」


……これが出たのが三日前で……

……作者じゃないからアクセス解析はできないけれど、

確実に、このレビューが、誘導したんだろう。


しかし、たかだかレビュー一個で★11もつくかな?

影響力がある人なのかもしれないけれども、

うーん、めちゃくちゃ庭を荒らされた気がする。


……まぁでも、作者さんからすれば嬉しいんじゃないかな?

たぶん一瞬なんだろうけれども。


……このレビュアーさん、見る眼あるな。

レビューが短く、あっさりとした内容説明。自意識を出さないようにしてる感じが。

chirping囀りとかやってるタイプなのか、無駄がない。


……ま、いいや。

学食いってから適当に完結済新作を巡回しよう。


*


……これは、どうして。

どうして、ってこともないのか。


全17話。

PV46。ハート1、栞2。

★はゼロ。


やっぱりタイトルじゃないかな。

「真珠の星」ってマジ意味がわからん。

いや、小説の中身としては分かるんだけど、

ネット小説のタイトルとしてはまったくダメじゃないかな。


中身は、1970年代初頭のアイドル黎明期に、

一流アイドルへの階段を駆け上がっていった少女と、

そのマネージャーである主人公の恋愛ものだ。

2010年代くらいを舞台にして、主人公の性格とかをいま風に変えれば、

流れに乗れば★100はついたろうに。需要とだいっぶん違う世界だなぁ。


あとマネージャーが大人すぎて、落ち着きすぎてる。

これ絶対オトナが書いたやつだわ。それも50代くらいの。

ただまぁそういうのは★1000クラスでもウヨウヨしてるけど、

んー、やっぱり出し方だろうな。流行と離れすぎてる。


ただ★ゼロっていうのは、

どう考えても違うわ。


「★で称える」の青い「+」を押していく。

クリック一つで、暗闇の中に、命を灯したような感覚が指先に伝わる。

一銭にもならない、自己満足を自己満足で支えている不可思議な感触。


……恥ずかしいことこの上ない。

さっさとログアウトして図書館いこ。


*


……うん?


「ななみ」って人、また新しく★3つけてる。

「真珠の星」かぁ……。

うわぁタイトルがもうイケてない。向いてないなー。


アイドルものなんて普通読まないんだけど、

なんだろ、あの「BRIOSO」に★3をつけた人への信頼感がスゴイなわたし。


……これも、実録ものなのかな。

なんていうか、淡泊な描写だよねこの文章。

絶対に歳いった人が書いたやつだ。


……あー、でも、なんか、一皮むくとめちゃくちゃ熱い感じがする。

なんだろ、ものスゴい好きなんだろうな。


似たようなコンセプトで

海外で成功するアイドルのオタクマネージャーの話があったような気がするけど、

あの人も文章は上手だったよね。


……うわぁこの、イジメの書き方とか、エグイな……。

わかる。わかるけど、絶対にこの小説向きじゃない。

編集ならバッサリ切るだろうなぁ。


この人間に対する不信感と陰湿さ、

ひょっとしてこの作者さん、♂の振りしてるだけで、♀かな……?

私みたいな? なんせ「たこわさ」だもんね、私も。

ノリでおっさんっぽく喋ってるだけでそう見られてるもんなぁ。


……あ。

真珠って、そういう、そういう意味なんだ。

んー。んーー。人造が天然に勝っちゃうってことね……。


でも人造は忘れられて、

売れてなかった天然のほうしか今では覚えられてないって、

なんか切ない話になってるよ。誰も幸せになってない。

ハッピーエンドじゃないじゃん。

絶対ネットで受け入れられる内容じゃない。


これはさすがにレビューは書けないなぁ……。

どう勧めていいかわかんないもん。


でもまぁ、面白かった。揺さぶられた。

えたいの知れない迫力があった。

いらんところ細かいし、なんていうか、

この界隈が好きだったんだろうなという熱量は凄く伝わってくる。

「ななみ」って娘、そのへん、しっかり見てそう。


好みじゃないから、★3じゃないけど、★2くらい、かな。

ぽちっと……うん。


「紗耶香っ!」


あ。

リアルに呼び出されたか。


「ん、なに?」


「あのさぁ、

 プレゼミで希望者だけ集合かかってるんだけど、行く?」


プレゼミかぁ。

まぁ、将来考えると出ておくべきなんだろうな。

執筆時間削られるけど。


*



……ん

……ん? んん??


なんか、すごいデジャブを感じるんだが……。


「真珠の星」が、

★14で、PV1206で、ジャンル別日間で24位なんだけど……。


いやまぁ、ジャンルが細々としたところ現代ドラマだから、

ちょっと★がつけばランクインするんだけど、

PV46で★ゼロだったんだよね……。


まぁそんな、長くランクインするものじゃないけれど、

なんていうか、また、中庭を荒らされたような……。


レビューがついてるわけじゃないけど、

★つけてる人の履歴を……


あ。


この人、前の人だ。

「たこわさ」さん。


……絶対♂だな。酒の話しかしてないし。

まぁ♂じゃないと読まないよねこんなの。


好みが似てるのかな?

だったら面白いんだけど、コンタクト取り様がないしなぁ。


ページアクセスしてみると、

読み専さん……


じゃ、ないわ。


この人、★1000クラスの作品を書いてる。

それも、ひとつじゃなくて、コンスタントに幾つか。

商用ベースの一~二歩手前くらいで、フォロワーさんがいっぱいいるんだ。

それでかぁ……。


「たこわさ」なのに、リア充なのかな。

「たこわさ」だからだろうけれど。


うーん、しっかり流行に乗って、バフが掛かるポイントを手堅く攫うタイプか。

それだけ自意識を抑える禁欲さと確かな文章力があるってことだな。僕と違って。

この構成力の確かさ、40~50代のおっさんだろうな、「たこわさ」だし。


……あれ。

幾つか、★が10以下の作品がある。


……ちょっと、読んでみるか。

どれどれ……


……え。

あ、れ?


*


赤ベルを押すと、いつものように、多くの人が支持してくれている。

売りに行ったもの、狙いに行った卑しいものだが、

しっかりと手応えを感じられる。


ありがたい。やっぱり★は震えるほどありがたい。

ほんと嫌になるくらい俗物だな、私。

一銭にもならないって分かってるのに、

褒められたい、認められたいだなんて、腐り切ってる。


ええっと……

あ、またベルか。

あ、感想、ついたんだ。


ん、いま書いてるやつじゃな


ぇ。



「experiment」



……なん、だろ。

身体が、震える。


手のがたつきを押さえながら、

ページにアクセスすると。



<★3>



……ぁ。


「ななみ」ちゃんだ。

……ちゃん、なのか、分からないけど。



 「こういうのも、好きです。」



……

なん、だろ。


なにか、♡が、ぼやけて。

視界が、滲んでしまって。


何度も、下書きに戻そうと、

何度も、消してしまおうと思った、

わたしの、ネット上での処女作で。


SFが流行ってないなんて、知らなくて。

子どもの頃の深夜に見た狂気の世界を書きたいだけで。


未練がましく、コッソリ編集を繰り返して。

全47話もあるのに、PVは、たった217しかない。


タイトルを変えて、

主人公をいま風にしたら伸びるかもだけど、

そういうことをしたくなくて。


拳銃を口にくわえて、自殺するシーンを、

ビニールの買い物袋が宙に舞う姿の、無残で、絶望的に耽美な希望を、

死が始まりなこともあるんだということを。


ありのままを無造作に、ありのまま出しても、

わかってくれる誰かを、

ずっと、ずっと求め続けていて。


 「も」


……たった一文字の副助詞に、無限の気遣いを感じる。

いい娘なんだろうな、優しい子なんだろうな、きっと。

だって、「BRIOSO」に★3を入れてた子だもの。


新作にもさりげなく★をいれてる。

そつがない、にくたらしい。


……あは、は。

泣きそう、だよ。


……

ありがとう。

ありがとう、「ななみ」ちゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る