デート

 さて、そろそろ帰ろうか、と二人が立ち上がった時だった。


「あれ?匠馬とブドウじゃん」


 同級生で、ブドウと仲の良い佐倉サクラアヤが、声をかけてきた。


「彩!彩も遊びに来てたの?」

「うん、親とあっちの公園に来てさ。……てか何?ブドウ、匠馬と二人で来てんの?」

 彩はニヤニヤと笑う。

 匠馬は、嫌な予感がした。これ、絶対からかわれるやつじゃん。

「何何、デートぉ?」

 ほらやっぱり、と匠馬は苦い顔をした。しかしすぐに彩はニヤニヤ顔をやめて、小さくため息をついた。

「……ってホントは言いたいけどさ、どうせ匠馬の事だから、クイズの修行みたいな感じでブドウ連れ出したんでしょ」

「えっ」

 なぜわかったのか、と匠馬は驚いた。彩は肩をすくめてみせた。

「だって匠馬くんクイズ馬鹿だもん。ブドウから大会の話は聞いてし。二人で出かける=デートとかそんな甘いこと考える頭なんてないでしょ」

「うう……図星すぎる……」

「匠馬、彩の言った『馬鹿』っていうのは冗談で、友達同士のじゃれ合いみたいなやつだよ。気にしないで。馬鹿は図星じゃないよ」

「いや、それくらいわかってるから。そこじゃねえんだよ」

 匠馬は、焦ったように言うブドウに、呆れながら突っ込んだ。



 彩は、親が待ってるから、とすぐに行ってしまった。


 全く考えていなかったが、デートという表現を聞いてしまったので、匠馬は急に居心地が悪くなって帰りたくなってしまった。


「じゃ、一通り見終えたし、帰るか」

 匠馬はそう言ってブドウに背を向ける。

「次もまた何かする?」

「え?」

「何をチャレンジするのがオススメ?また匠馬、チャレンジに付き合ってくれる?」

 期待に満ちた声で聞くブドウに、なんだかさっきまでの居心地の悪さが消えていくようだった。

 匠馬はすぐに考えてみた。

「そうだなぁ。あ、そうだ、料理とかもいいよ。野菜とか果物とか、結構クイズになるようなのがあるし、色んな世界の調味料とか試してみるのも、世界の国の事を知れるから……」

「ねえ、私、ケーキ作りたい」

 調子よく喋る匠馬の言葉を遮るように、急にブドウははしゃいだ声をあげた。

「は?ケーキ?」

「匠馬作ったことある?」

「いや、無いけど……」

「ケーキ作ろうよ!ほら、ケーキもいちごとか使うよ!果物の事だよ!」

「いや、いちごは分類上野菜にあたるって言われていて……」

「決まり!今度作ろうね!」

「ブドウ、食べ物食べないんだろ?ケーキ作ったって食べないじゃん」

「お母さんに持っていく!お母さん甘いの大好きなの。お母さんが甘いのを食べてるのを見てると、私も幸せ」

 ケーキ作りたいだけじゃないか、と匠馬は思ったが、ふと、前にスイーツ関連のクイズでブドウに負けた事を思い出した。なるほど、小百合さんが好きだから知ってたのか。

 甘いものに興味がない匠馬だったが、これはもしかして自分の知識にもなるな、と思い直した。

「よし、やろう!今度ケーキづくり!」

「わぁい」

「その代わり、それ以外のクイズの勉強もちゃんとしてくれよ」

「わかった」

 ニコニコと微笑むブドウに、匠馬も何だか楽しみになってきてしまった。



 後日、匠馬の家でケーキ作りは行われた。


 彩とは違って、匠馬のお母さんは、息子が女の子を連れてきた!とはしゃぎまくった。

 ウザいからあっちいけ、と匠馬はお母さんを台所から追い出したものの、素人の匠馬とブドウにケーキ作りは難しかったようで、結局お母さんの手を借りることになった。


「なるほど、覚えたよ。問題、ケーキ作りは簡単である。◯か×か」

「×、だったな」

 クリームまみれのブドウの作った問題に、匠馬は苦笑するしかなかった。


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