動物園

※※※※


「まあ、確かにノートとにらめっこの暗記は、覚えづらいし飽きる。それは認める」

 匠馬はそう言ってその日、ブドウを動物園に連れ出した。


 ブドウは、匠馬とのクイズ練習の時も、桃香の話をするようになった。桃香ちゃんはこう言ってたよ。桃香ちゃんが教えてくれたの。

 覚えも良くなっているものの、正直匠馬は面白くなかった。これじゃあ桃香の手柄みたいだ!


 というわけで、匠馬なりに考え、ブドウを連れ出したのだ。

 動物園、といっても、小さい動物園で大型動物がいるわけではない。匠馬なんかは保育園の頃から何度も行っている。でも、地元の小学生はタダで入場できるので重宝しているのだ。


「ほら、見ろよブドウ!カルガモだぜ!」

「カルガモ!可愛い」

 ブドウは棒読みっぽいがそれなりに笑顔である。


「はじゃいでるだけじゃなくて、看板に立てかけてある説明書きも読めよ。『カモ目カモ科。雑食で植物の種からゲンゴロウなどの虫、タニシなどの貝、ワカサギなどの魚も食べる』」

「食いしん坊!」

「あと知ってるか?カルガモはオスもメスも同じ色をしてるんだ。マガモなんかはオスのほうが派手なんだけどさ」

「男女平等!」

「そう言う事じゃないけど」

 匠馬は苦笑した。


「ほら、ウサギ!説明書きも読む!」

「『兎形目うさぎ科。大きい耳は音を聞く他、体温調節の役割も果たす』便利!」

「触る?触れるみたいだけど」

「噛まれたら危ないからやめておく」

「大丈夫だろ、怖がりだなあ」

「いや、ウサギちゃんが噛む時に精密部品飲み込んだらいけないから……」

「お、おう……」

 匠馬はまた苦笑した。


 そんなこんなで、小さな動物園を、説明書きの看板を丁寧に読みながら、そして匠馬は動物豆知識を披露しながらゆっくりと回っていく。


 一通り回ってから、ベンチで水を飲んで休憩することにした。


「動物園楽しい。ところで何で動物園?」

 ブドウがたずねると、匠馬は、フ、フ、フ、と笑って言った。

「突然ですが問題です」

「ほへ」

 ブドウは変な声がでた。

「カルガモは、オスのほうが派手な羽をしている。◯か×か」

「えっと、えっと……さっき匠馬くん言ってた……同じ……男女平等だから×!」

「正解!ってか男女平等関係ないけど。

 次。ウサギの耳は、音を聴く他に何の役に立つでしょう。①敵を攻撃する、②体温調節、③飛ぶ」

「えっと、たしか便利だなって思ったから、②!」

「正解!」

 匠馬は、正解したブドウにドヤ顔してみせた。

「ブドウ、答えられたろ?」

「だって、さっき言ってたやつだし」

「そう!」

 匠馬はキラキラした顔をした。

「ノートの、勉強だけじゃなくてこうして楽しく覚えていけば覚えられると思わない?」

「思った!」

「ブドウは、なんでもチャレンジしてみなさいってプログラムされてるんだろ?だから色々してみて。その時に少しだけ、『これはどんなクイズになるかなー』とか、『これがクイズの答えになるならどんな問題かな』とか、ちょっとだけ考えてみてよ。あと、なんか疑問が浮かんだら調べてみたりしてさ」

 匠馬の言葉に、ブドウはじっと黙っている。匠馬は不安になった。

「……あ、あれ?もしかして意味わかんない?」

「いや、匠馬って、いつもクイズの事考えてるんだなぁって」

「何だよ、どうせクイズ馬鹿とか言いたいんだろ」

「ううん、すごいなって」

 素直なブドウの言葉に、匠馬は赤くなった。

 そんな匠馬を気にすることなく、ブドウは続けた。

「そういえば、前に匠馬言ってたもんね。クイズは人生の伏線だ、みたいなやつ。こうやっていつも考えてたら、それは伏線みたいになるよね」

 ブドウは納得したようで、一人ウンウン頷いていた。



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