ズルい
匠馬が、会場の外にある自販機へ向かうと、案の定ブドウが、別のチームの女子二人と仲良くおしゃべりしていた。
「皆早押しクイズ早いよねー。私全然押せないー」
三つ編みの子が不貞腐れながら言う。
「ホントだよ。わかってるはずのに全然回答権来ないー」
ショートカットの子も、悔しそうに言う。
「ね、ブドウちゃんの相方くん、結構ガチのクイズ好きじゃない?あれ見ててわかるよ。結構当てられてすごいよね」
「うん、どうやら結構なクイズ馬鹿みたい」
「どうやらって、他人事だなあ。ブドウちゃん面白いね」
「てか、ブドウちゃんパズル超早くなかった!?バババッて、マジ神」
「へへ、毎日お母さんに教えてもらってたんだ。パズルは好きなの」
「へえー、すごーい」
仲良くキャッキャ話しているので、そんな女子の会話に入りづらくて、匠馬は少し尻込みしていた。
その時だった。
近くの野球場から、ホームランらしき硬球がブドウ達の方へ飛んできた。
そして……
「危ない!!」
ブドウの声。そして女子二人の息を呑む声が聞こえた。
「ブドウ!!」
匠馬は慌ててブドウに駆け寄った。
ブドウは、友達になったばかりの二人を硬球から守ろうと身を乗り出した。
そして、硬球はブドウの頭にクリーンヒットし、あの時、匠馬がブドウの秘密を知ったあの時と同じように、頭がポロリと落ちてしまったのだ。
匠馬は急いで自分の上着を脱いで、首の取れたブドウに被せ、頭もその中に隠した。
「ち、ちょっと、今……首、取れた、よね?」
三つ編みの子が、恐る恐る匠馬にたずねる。
「ねえ、一瞬配線みたいなの見えたんだけど……もしかしてブドウちゃんって……ロボットなの?」
察しの早い二人に、匠馬は諦めて頷いた。
「うん。実はそうなんだ……でも」
「ずるくない?それはさすがに」
ショートカットの子が険しい顔をしていた。
「だって、ロボットなら、パズルとか簡単に解けて当たり前じゃん……。クイズとかも学習させればすぐに覚えちゃうんでしょ。ダメでしょ、それは」
「いや、でも」
でも、ブドウはそうじゃないんだ。頑張らないと、努力しないと覚えられないんだ。パズルだって、ずっと小百合さんと一緒にやってきたから。
匠馬はそう訴えたかった。
でも思い直した。
多分、逆の立場なら匠馬だってズルいって言うだろう。覚えが悪いとか、そんなの関係ないって言うだろう。
何より、もしこのまま大会に参加し続けて、彼女達がブドウの秘密のことを皆にバラして、そして非難の的になるのは辛い。自分は別に、納得してるから構わないけど、ブドウがロボットが故に非難されるのが辛い。
「ごめんな。俺たち、棄権するよ」
「え」
ブドウが上着の下から動揺した声をあげた。匠馬はそれを無視して続けた。
「棄権する。だから、ブドウの秘密は、誰にも言わないでほしい」
匠馬の言葉に、二人は顔を見合わせた。
「こんな事言っても納得してもらえないかもしれないけど。ブドウは覚えが悪いロボットなんだ。本当に一生懸命勉強して。一生懸命覚えて。でも全然覚えられなくて。それで喧嘩したくらい」
「喧嘩?ロボットと?」
ショートカットの子が、不思議そうに聞き返した。
匠馬は笑った。
「うん、ロボットと。その上覚えた事丸っと忘れて、そのまま参加してたんだ。……まあでも、ズルいっちゃあズルいんだよね」
「あ、あの」
三つ編みの子は、バツが悪そうに言った。
「その、やっぱりその、ズルいって気持は消えないけど……その……ブドウちゃん」
呼びかけられて、取れたブドウの頭が反応する。そんな頭に、三つ編みの子は真剣な表情で言った。
「硬球から、かばってくれてありがとう」
「わ、私も!ありがとう!」
ショートカットも慌てて言った。
良かった。きっとこの二人は、ブドウの秘密は守ってくれそうだ。
匠馬はそう安心してため息をつくと、上着を被せたままのブドウを立たせて二人に背を向けた。
「ごめん、ごめんね、匠馬」
ブドウの頭をどうにかしてもらうために小百合さんの所へ向かう途中、ブドウは何度もそう呟いていた。
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