大会
※※※※
大会当日がやってきた。
匠馬はギリギリまで対策ノートとにらめっこしていた。
「野中匠馬くん」
ブドウの声がして、匠馬は振り向く。
「あのさ、フルネーム+くん付けはやめようぜ。匠馬でいいよ」
「じゃあ匠馬」
ブドウは匠馬に、一冊のノートを見せた。それは、記憶を消される前のブドウの作ったクイズ勉強用ノートだった。
「一応これ昨日見ておいたけどさ。私記憶の定着が良くないからすぐ忘れちゃうんだ。どれが出る?それを優先して覚えるから」
「どれが出るかなんてわかんないよ。ノートに無いのが出る可能性のほうがでかいし」
「そんな。じゃあ私役にたたないよ」
悲しそうな顔をするブドウに、匠馬は言った。
「役に立つとか立たないとかじゃないから。わかる問題があったらいいな、くらいの気持ちで一緒に楽しもうよ。ブドウは楽しいって言ってたんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。それに、ブドウは、桃香さんと一緒にやった時、全然俺が教えてない問題だって解けたじゃないか」
「桃香?」
ブドウは首を傾げる。ああ、やっぱり全部忘れちゃったんだな、と少しだけ匠馬の胸は痛んだ。
「ま、大丈夫だよ。それに、俺は結構強いし。ブドウの分まで頑張れるしね」
そう言って、ブドウの手を握った。
ロボットとは思えない、柔らかい手だった。
「ヒューヒュー!何だ何だ?緊張してるかと思って応援に来てみれば、ラブラブしてんのかよー」
一切空気を読まない様子の桃香と、苦笑いしている岳が二人の前に現れて、匠馬は慌てて手を離した。
「何だよ!ただのエイエイオー的な奴だよ!!からかうだけならあっち行けよ!!」
「桃香さん!匠馬はウブなんだからそういうからかいはダメだよ」
「何だよ岳まで!!」
匠馬は憤りながらブドウを距離をとる。
桃香はそんな匠馬を無視して、ブドウに抱きついた。
「聞いたよー!ブドウちゃん大変だったんだって!?それなのに今日参加してるなんて、超頑張り屋さんじゃーん!応援してるからね!」
「えっと……」
桃香の事を完全に忘れているブドウは、少し戸惑った顔をしている。
それでも、桃香の優しさは伝わっているようで、笑顔を向けて言った。
「ありがとう。頑張るね」
「うんうん、失敗してもいいんだからね。失敗したら匠馬くんがちゃんと取り戻してくれるんだから!」
「俺にはプレッシャーかけるんだな」
「そりゃそうでしょ。男の子でしょ」
「『今どき、女子がとか男子がとかで区別するの?遅れてるー』とか言ってた奴は誰だよ」
「さあ、誰だろうね?そんなカッコいいこと言った奴は」
桃香は相変わらずムカつく。でも匠馬は、自分の緊張が解けてきているのがわかった。
「とにかく、気楽にな。俺たちは客席で応援してる。匠馬の親と、ブドウのお母さん、あと、クラスの奴らも何人か見に来てたぜ」
せっかく緊張が解けたのにまた緊張するような事を言いながら去っていく岳と、最後までうるさく頑張ってねーと言っていた桃香を、匠馬は苦笑いしながら見送った。
「さて、頑張ろうか、ブドウ」
「うん。頑張ろう」
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