メモリーの破壊

「江本は私の言葉で多分怒った。ブドウのメモリーを破壊しようとする。でも乱暴に破壊して、研究に使えるようなメモリーやシステムまで破壊したくない。だから、慎重に、江本にとって不要なメモリーだけを破壊しようとすると思うの」

 走りながら、小百合さんは説明する。

「そのためには、ブドウの電源を入れるはず。案の定、電源が入ったから、GPSでブドウの居場所がわかったの」

 小百合さんの説明を聞いて、匠馬は青くなる。

「でもじゃあ!今ブドウのメモリーは消される寸前ってことですか!?」

「かも」

「俺、先に行きます!」

 匠馬は、既に息切れしている小百合さんを置いて、ブドウのいるという廃校に全力疾走した。

 ブドウに会わなくては。会って謝らなくちゃ。だから覚えててほしい。本当はあんな酷いこと言われたなんて忘れた方がいいのかもしれないけど、覚えてて、そして謝らせてほしい。反省させてほしい。


 何年も前に廃校になっているそこは、立入禁止の看板が立ち、紐で入り口を塞がれていた。

 匠馬は、その紐を乗り越え、三階へ走っていく。

 埃っぽい教室を一つ一つ見ていき、理科室の前にきて足を止めた。


 物音が聞こえる。機械音、そして聞き慣れた声。


「ねえ、あなたは誰?」

「僕は、お母さんのお友達だよ」

「帰りたいんだけど」

「どこに帰るんだい」

「どこって……」


「ブドウ!!」

 匠馬は理科室のドアを思いっきり開けた。


 そこには、ブドウと、メガネをかけたおじさんが向かい合っていた。

 ブドウは別に縛られたりしていない。

「ブドウ、逃げろ!」

「え」

「早く!小百合さんも今来るから!逃げて!」

「……」

「早く!!」

 全く動く様子のないブドウに、匠馬はイライラしながら叫ぶ。

 しかし、ブドウは匠馬を見て、首を傾げたのだ。


「誰?あなた」


「は?」


「小百合さんって誰?」


「ブドウ……何言って……」

 匠馬が愕然とした時だった。


 匠馬の後ろから、小百合さんがすごい勢いで理科室に入っていき、勢いよくメガネのおじさん、おそらく江本に向かって持っていた大きなカバンで殴りつけた。

「な!?」

 一瞬のことで、江本は抵抗できずに思いっきり倒れ込んだ。


 そのすきに、その大きなカバンからロープを取り出して、江本をサクサクと縛り上げながら匠馬に叫んだ。

「匠馬くん!すぐ警察呼んで!」

「わ、わかりました」

 匠馬は急いでスマホで電話をかけた。



 数分後、パトカーがやってきて、江本は連れて行かれた。

 拍子抜けするほど江本は大人しかった。多分、小百合さんに殴られたのがショックだったんだろう。

「真中博士は、暴力に訴えるような人じゃなかったのに……変わってしまった……」とぶつくさ言っていた。


「勝手に解決しようとしないで、ちゃんと警察を頼って下さい」

 小百合さんは、警察の人に小言を言われていた。

「一応、話を聞きたいし、怪我がないか病院に行ったほうがいいと思うので、そちらの娘さん、一旦来て頂いても……?」

「すみません、この子、人間じゃないんです」

「は?」

「ロボットなんです」

 小百合さんは、申し訳無さそうに言った。

「なので、誘拐じゃなくて、窃盗に近いといいますか……。あ、あと、図書館のシステムおかしくしたのも江本なので、そちらも追求お願いします」

「はあ」

 警察は、ぽかんとしながら小百合さんとブドウを交互に見つめていた。





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