ブドウがいなくなったことは、学校でもすぐに噂になっていた。


「ブドウって、家出するような感じじゃないよね」

「事故かな。ブドウちゃんのお母さんすっごい心配してたよね」

 ブドウと仲良くしていた女子達が、休み時間に口々に話している。

「匠馬ぁ、匠馬ってさ、最近ブドウと仲良かったじゃん?どこ行ったか知らないの?」

 何度か色んな人に話しかけられて、匠馬はイライラと言う。

「知ってたらもう話してるよ」

「前にブドウ泣かせてたの見たよー。またいじめたりしてないよね」

「してねえよ!」

 匠馬は思わず怒鳴ってしまった。ビクッとする女子たち。

 教室の空気が悪くなったのに気づいて、慌てて岳がとりなすように周りに言った。

「まあ匠馬、そんなに強く言うなって。みんな、匠馬だって心配してるんだよ。今日も朝早くからブドウさんの家に行ったりして。な?」

「そうなんだ」

「ごめんね、変な事言っちゃって」

 素直に謝る女子達に、匠馬はムスッとしたまま「別に」とだけ言った。

 ブドウの友達の一人、彩が、ふと匠馬に言った。

「正直さ、あたし、ブドウに言ったことあるんだよね。あの、動物園で会った日の次の日あたりにさ。匠馬ってクイズ馬鹿だから、本気で匠馬の練習付き合ってたらキツイよって。無理すんなーって」

「クイズ馬鹿って」

ディスられて、匠馬は憮然とした。

「ごめんごめん。でもさ、ブドウは、『匠馬は私がクイズできるようになるのを無理だと思ってないから。だから応えたいんだ』って言ってたんだ」

「な、何だよそれ」

「何だろうね」

彩は少し笑ったので、匠馬は何だかくすぐったくなってそっぽを向いた。


「でもさ、何かあれだよね。ブドウ、前に変な事言ってたよね。不審者に気をつけて、みたいな事」

 女子の一人がボソリと言った。

「別に私は全然不審者とか見たことないけどさ。ブドウはいつも変な人見るって言ってた。あれって、ブドウを狙ってたんじゃない?」

「あー、ブドウ可愛いもんね。なんかツルッとして人間っぽくない可愛さっていうか」

「いつもど忘れしてアホっぽいのも可愛いしね。ポンコツロボット感あるよね」


 どうやら皆も、ブドウがちょっと人間っぽくない事を薄々思っていたらしい。

 まさか本当にロボットだとは思わないだろうけど。


「まあ本当にロボットだったら、なんかピンチにあっても、すごい計算とかバババってやってるピンチ乗り越えて帰ってこれそうだよね」

「いや、ロボなら電池切れの可能性もあるからなぁ」

「ちょっと、ブドウがロボットとか、今はそんな冗談とかやめなよ」

 彩が注意したので、皆話をやめた。ちょうど授業開始のチャイムが鳴った。


 匠馬は、席に座って、さっき女子たちが勝手に言っていた事を考えていた。


 ――電池切れ……。そういえば毎日夜に充電してるって言ってたな。大丈夫かな。


 匠馬は、その日一日授業が頭に入らず、ずっと考え込んでしまっていた。




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