不審者

「うん、不審者の事は聞いてた。だから、その件は前から警察にも言ってあるよ」


 匠馬と岳を出迎えた小百合さんは、申し訳なさそうに言った。

 そりゃそうか、と匠馬は項垂れた。

「ありがとう、教えてくれて。多分大丈夫だよ。帰り道ど忘れしてどこかで迷ってるだけだよ。うん、きっとそうだ」

 小百合さんは、匠馬と岳を励ますように、そして自分に言い聞かせるように言った。


 そんな小百合さんを見て、匠馬は意を決して言った。

「あの、俺昨日……ブドウと結構な喧嘩しちゃって……解散だとか言っちゃったんです……その、関係……あるかどうか、わかんないけど一応伝えておきます」

 そう言って、小百合さんに、昨日ブドウの落としていったノートを差し出した。

 小百合さんは、ノートを受け取ると、匠馬に優しく言った。

「そっか。教えてくれてありがとう」

 そして、受け取ったノートをゆっくりと開いた。

「これ、ブドウのノートだね」

「ブドウ、一生懸命やってくれてたのに、つい焦って酷い事言っちゃって……」

「そういうもんだよ。全然気にすることないよ。小学生が喧嘩するなんて当たり前の事だよ」

 小百合さんはそう言いながら、ノートをゆっくりとめくっていく。途中、ふと、手を止めた。


「……ねえ、これ、憶えてる?」


「え?」


 小百合さんの言葉に匠馬と岳は一緒にノートを覗き込んだ。


 そこには、『雷→エクレア』『ゼロ点→ラブ』と書いてあり、その横に、変な似顔絵みたいなものが書いてあった。

 メガネをかけた男の人。これは……。


「図書館の帰り道だ!!」

 思わず匠馬は叫んだ。


「図書館で、システム障害あった日!ブドウが、変な人がこっちを見てた、って言ってこの人描いたんだよ。覚えてる。このクイズしながら一緒に帰った日だし」

「じ、じゃあこの人が不審者じゃないか。でも、全然特徴ないよね。メガネかけたおじさんなんていっぱいいるし」

 岳が残念そうに言う。


 小百合さんは険しい顔で、その絵をじっと見つめていた。

「……この人……」

「知ってる人ですか?」

「いや、でも、まさか……」

 小百合さんは真っ青な顔をしている。

 しばらくずっと考え込んだあと、パッと顔を上げて、匠馬と岳にニッコリと言った。

「ごめんね、せっかく来てくれたけど、そろそろ帰っても大丈夫だよ。ほら、今日学校でしょ?遅刻の時間だよ。私から学校に、二人がブドウの捜索を手伝ってくれたって電話しといてあげるから」


 そうして、匠馬と岳は小百合さんに追い出されるように外に出た。


「よくわかんないけど、とりあえず学校行く?」

「ん……」

 なんだかよくわからないけれど、これ以上自分たちにできる事はないだろう。

 匠馬は頷いて、学校の準備の為に家に帰るしかなかった。



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