いつもと違う事

 ※※※

 次の日、小百合さんからの電話で目を覚ました。

 小百合さんは切羽詰まったような声だった。

「ごめんね朝早くに。昨日ブドウと会ったよね?帰りどこかに行くとか行ってなかったかな?」

「あー……昨日はその」

 喧嘩して別れたからわからない、とは言いづらい。

「何も言ってなかったです。まっすぐ家の方に歩いていったと思いますけど」

「そう。分かった。ごめんね、変な事聞いて」

「あの、ブドウもしかして帰ってないんですか」

 匠馬が恐る恐る聞くと、小百合さんは震え声になった。

「そうなの。もし心当たりあったらと思って、ブドウの友達に手当たり次第電話してるんだけと誰も知らないみたいで。黙って家に帰らないような子じゃないんだけど……。匠馬くんも、何でもいいからいつもと違うような事とかあったら教えてね」

 そう言うと、すぐに小百合さんは電話を切った。

 多分、次のブドウの知り合いに電話するのだろう。


 匠馬は小百合さんからきた電話をじっと見つめた。


 いつもと違う事?あったよ。喧嘩したよ。

 解散だって怒鳴った。

 でも、だからっていなくなったりしないだろ。

 匠馬は自分の血の気が引いていくのが分かった。


 もし、昨日の事が何か関係があったら?


 どうしよう。小百合さんに言わなきゃ。匠馬はすぐ小百合さんに電話をかけ直したが、通話中だった。多分、色んな所に電話をかけまくっているのだろう。


 匠馬は思わず家を飛び出した。


 後ろからお母さんが、「朝早くからどこ行くの!?」と叫んだような気がしたけどそれどころでは無かった。とにかく早く小百合さんに言わないと。


「匠馬!!」

 ブドウの家に向かう途中、呼び止められた。岳がこちらに向かって走ってきたのだ。

「今、桃香さんから連絡あったんだけど、ブドウさん行方不明なんだって?」

「うん、そうみたい。小百合さん……ブドウのお母さんが色んな人に電話しながら探してるみたいなんだ」

「ブドウさん、家出とかするタイプでも無さそうだよね。どうしたんだろ」

「多分、俺のせいだ」

 匠馬は絞り出すような声で言った。岳はぽかんとして匠馬を見つめた。

「匠馬のせい?」

「俺、今日ブドウに酷い事言った。もしかしたらそういうの、関係あるかもしれない」

 あそこまで言うつもりはなかった。でも、焦りと苛立ちで抑えられなかった。ブドウも酷い事を言ったと思うけど、それでも言わなくてもいい事まで言った気がする。『俺はブドウと違って人間なんだ!傷つくんだからな!』。これじゃあブドウは人間じゃないから傷つかないと言っているのと同じだ。匠馬は自己嫌悪でクラクラしてきた。

「おい、冷静になれよ。喧嘩したんだか何だかしらないけど、匠馬と喧嘩したからって家に帰らない事の理由にならないだろ。むしろ早く帰って匠馬の悪口誰かにぶちまけたいー、とか思うんじゃないの?」

 岳は匠馬を励ますように肩を揺する。

「ほら、最近毎日のようにブドウさんと一緒にいたじゃん。クイズ以外の話もしただろ。なんかもっと、いなくなるヒントみたいな事無かった?」

「クイズ以外の話?」

「おいおい、まさかしてなかったの?」

 岳が呆れたように言う。

 匠馬はそんな岳を無視して、今までブドウと話した事を思い出しそうとした。


「……あ、不審者……」


 ふと匠馬は思い出した。


「ブドウ、不審者がいる、みたいな事言ってた……」

「それだ!それ、ブドウさんのお母さんに言いに行こう」

 岳はまだ力が入らない匠馬を、引きずるようにつれて行った。







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