人生の伏線

 ココアが匠馬の前に置かれて、ブドウも匠馬の前に座った。

「ブドウ、マジで悪かったよ」

 再度、匠馬は言うと、ブドウはケロリとして頷いた。

「無理させないなら別にいい」

「一応さ、意地悪で無理させたわけじゃねえんだよ」

 匠馬は言い訳のように言う。

「正直、岳に断られて急いで数合わせで誰でもいいから誘わなきゃ、って理由でブドウを誘ったんだけどさ。 誘った時、ブドウ、『クイズって楽しい?』って聞いたじゃん。クイズってさ、やっぱり答えられたら嬉しいし、答えられなかったらつまらないしさ。ブドウにも、どうせなら楽しんでもらいたかったんだよ」

 匠馬の言葉をじっと聞いていたブドウは顔を伏せて言った。

「今のままじゃ、全然楽しくない。辛い」

「ごめんってば」

 匠馬は焦る。

「ちょっとやり方変えよう」


「匠馬くんは、何でそんなにクイズ好きなの?」

 小百合さんはふと口を挟んできた。

「やっぱり、自分の知識、ドヤ顔で披露できる場だから?」

 小百合さんはちょっと意地悪な言い方をしてくる。

「正直、それも無くは無いけども」

 匠馬は苦笑いしながら答えた。

「なんか、クイズって人生の伏線って感じしません?」

「お、小学生で人生語っちゃう?どういうこと?」

 小百合さんは、面白がってはいるけど、今度は意地悪そうではなかった。

「なんか、普通に生活してて、あ、これクイズで聞いたことある話だな、とか。逆に普通に学校で聞いたことある話がクイズで出たらメッチャテンション上がるし。全部が、俺の生活全部クイズに繋がってるみたいで楽しいんですよ。学校の勉強でもそれは体感できるけど、やっぱりそれをドヤ顔で披露できる場は、もうたまんないじゃん」

 匠馬は楽しそうに言う。

 それを聞いた小百合さんはウンウンと頷いた。

「なるほど、わかる気がするよ」

「そうですか」

「私はよくわかんなかった」

 ブドウは口をとがらせて言った。

 自分だけわからないのは嫌なのだろう。

 ――これも、相手をコントロールするための感情なのかな。

 匠馬は、不貞腐れた表情のブドウを、よくわからないまま見つめた。


 ともかく、ブドウの機嫌は直ったようなので、匠馬はホッとした。


 ココアを飲み干して、帰ろうと腰を上げると、ブドウが言った。

「不審者に気をつけて」

「不審者?」

「最近、たまに怪しい視線を感じる。小学生を狙う悪い人かもしれない」

「怪しい視線?」

 匠馬はそんな事を感じたことはない。

「俺は大丈夫だと思うよ。ブドウは可愛いから心配したほうがいいと思うけど」

「私可愛い?」

 ブドウは首を傾げる。

 ふと、何も考えずに出てしまった言葉に、匠馬は真っ赤になって焦った。

「いや、その、違。一般的な話で。別に俺が可愛いって思ってるわけじゃ……」

「匠馬は、私が可愛いとは思っていないのか」

「……いや、その……。てかもうどうでもいいだろ!!帰る!じゃあな!!」

 勢いよく匠馬は帰って行った。


「ふふ、小学生、可愛いもんだねぇ」

 小百合さんは一部始終を見て、ニヤニヤと笑った。

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