感情
ブドウが家に着くと、すぐに小百合さんが出迎えた。
ブドウを泣かせてしまった負い目で、匠馬は早くその場を立ち去りたかったが、小百合さんは匠馬を家の中に入るよう誘った。
「ごめんなさい。ブドウを泣かせて」
とりあえず、匠馬は小百合さんに謝った。小百合さんは意地悪そうな顔を浮かべた。
「私に謝ることじゃないよ。ブドウ、匠馬くんが謝ってるけどどうする?」
小百合さんの言葉で、ブドウが泣いたままの顔をのぞかせて匠馬にたずねた。
「これ以上、無理、させない?」
「させない」
匠馬はコクコクと頷いた。すると、ブドウは涙を拭くと、急にケロッとした顔になった。
「うん、じゃあもう大丈夫」
「……?」
さっきまでグズグズ泣いていたのに、急にケロッとされたので、匠馬は首をかしげた。
「……え?」
「無理させないって、言質とった」
「は?え?まさかさっきの、嘘泣き?」
「嘘泣きじゃないけど」
「だって、そんなすぐケロッとするか普通」
「だって、私ロボットだし」
「そう、それだ!ロボット、泣くの?感情あるの?」
匠馬は憤慨してたずねる
すると、ブドウの代わりに、小百合さんが答えた。
「感情、あるよ」
「え」
「感情っていうか。相手を自分の思い通りにコントロールするための機能なんだよね」
匠馬は、小百合さんの言ってる意味がわからず、首をかしげた。
「ほら、人に助かることをしてもらえた時、嬉しい顔をして見せて『ありがとう』って言えば、相手はまたそれをしてくれるかもしれないでしょ。逆に、されたくない事、嫌な事をされた時とかは、怒ったり泣いたりして見せれば、相手はそれをしないようにしよう、って思うでしょ。こうして、感情を作ることで相手を自分の思う通りにコントロールするようにしてるの」
「なんかそれ、ズルくないですか」
匠馬は口を尖らす。
「こっちはすげえ焦ったのに。泣いて相手をコントロールするなんて」
「あら、そう?匠馬くんだって、ブドウがロボットだから、無理させても大丈夫だとか思ってたでしょう?そして実際無理させたよね?それって、相手を自分の思い通りにコントロールしたかったんじゃない?そういうのを、実際今こうしてブドウは防げたじゃない」
「うっ……」
小百合さんの言うことが図星過ぎて、匠馬は顔を伏せた。
「すみません」
「謝らないで。ごめんね、意地悪言っちゃったね」
小百合さんは慌てて匠馬の顔を上げさせる。
「ほら、ココアでも入れてあげるから飲んでいきなよ」
匠馬はすぐに帰りたかったけど、なんとなく帰りづらくなってしまってそのままココアを待った。
ふとあたりを見渡すと、テーブルの上には筆記用具とノートと、匠馬がブドウに渡した対策ノートが置かれていた。
ブドウがちゃんとやった、と言うのは本当だったらしい。
それがわかった途端に、さらに匠馬はいたたまれなくなってしまった。
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