覚えてない

 それから3日後。


「全然、覚えてないじゃん!!」


 公民館の自由室で、ブドウと向き合っていた匠馬がため息をつきながら口をとがらせた。


「せめて都道府県系は覚えられなかった?日本一のものは最低でも全部覚えてほしかったけど。あと、ナゾナゾ系も簡単でしょ?動物雑学も量少ないし、いけると思ったけどなぁ」

「だって、宿題もあったし、学校の委員会も忙しかったし」

 ブドウも負けじと口をとがらす。

 匠馬は、はあ、とため息をついて言った。

「ブドウってさ、寝るの?」

「え?そりゃ、夜は充電するから」

「何時間充電するの?」

「六時間。十二時から六時まで」

「学校帰って十二時までは何してるの?ご飯は食べないよね?お風呂も入らないよね?」

「宿題と、予習復習。メンテナンスが三十分くらい。あとは、お母さんとお話したり、パズルしたり。あのね、お母さんパズル凄く得意でね。私よく教えてもらうんだ。あと、テレビ見たりぼーっとしたりしてる。でも、最近はお母さんとのお話の時間削って、クイズ覚えてたよ」

 ブドウがドヤ顔をしているので、匠馬は大きなため息をついた。

「まだ削れるとこあるだろ。テレビの時間とか。何だよパズルって。あと、ぼーっとしなくてもいいだろ」

「テレビの時間も削った。ぼーっとする時間も減らした。でも、あまりに自由時間が無いと、人間はストレスが溜まる」

「ブドウ、人間じゃないだろ」

 匠馬は冷たく言い放つ。ブドウの表情が変わったのには気づかなかった。

「とにかく!じゃあ細かく目標決めるよ。ここ!三日後までにはここまでは覚えてこいよ!」

「多いよ」

「大丈夫だって。ブドウならできるって」

 匠馬は無責任にそう言い放つと、ブドウにノートを渡して立ち去って行った。



「ちょっと強引だったかな」

 匠馬は、帰ってから少し不安になってきた。

 覚えるのを無理したら壊れたりするんじゃ?機械だし、メモリーの限界とかもあるんじゃ?

「でも、どうせならクイズの楽しいとこを覚えてもらいたいんだよな」

 匠馬は呟く。

 やっぱり、クイズの答えがわかった瞬間。閃けた瞬間。勘が当たった瞬間。ゾクゾクして興奮する。

 どうせならあの瞬間をブドウにもあの瞬間を味あわせたい。

「そのためには、やっぱり無理してでも覚えてもらわないとな」

 匠馬はそう呟いて、自分も対策ノートを作り出した。





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