特訓
※※※
そんなわけで、匠馬はブドウと特訓を開始する。
ブドウのAIは、何度も繰り返さないと覚えない上に、忘却機能もあって、ちゃんと定着させないとすぐに忘れる。
大変なのは、クイズというのは知識さえあればいいものではないのだ。
推理力・判断力・そしてテクニックも必要である。
早押しなんかだと、去年優勝したチームなんかは、問題文が最後まで読まれないのに正解している。
ある日の放課後、匠馬はブドウと一緒に公民館の自由室にいた。
ここでは、放課後暇な奴らが自由に宿題したりおしゃべりしたりしているのだ。
自由室の机に向かい合って座り、試しにブドウにいくつか簡単なクイズを出してみた。全くできないわけではないのだが、やはり少し普通より出来ない。これはかなり頑張らないとヤバい。
「うーん、とにかくまずは王道問題を覚えることからだよね」
匠馬は険しい顔で悩ましげに言った。
「小学生クイズ大会だからさ、そこまでえぐい問題は出ないんだ。学校の教科書レベル、最低限のニュースを知ってる事、あとよく出るのは豆知識的な雑学かな」
そう言って匠馬は、ブドウの前にドサッとノートの山を作った。
ブドウはキョトンとしている。
「これは?」
「こっちが、俺が作った王道クイズ問題。あと、こっちが、今年一年間分くらいの、子供用新聞に載ってた時事単語の切り抜き。こっちがよくテレビとかで聞く雑学をまとめたもの」
「へえ、すごいね。勉強家なんだね」
ブドウに褒められて、素直に匠馬は嬉しかった。
「まあな。これくらいは。じゃあブドウ、これを全部覚えてきて」
「全部?」
ブドウは無表情でオウム返しをした。
「全部覚えるの?これを?」
「大丈夫だろ」
「……学校の勉強もあるのに」
「大丈夫だって」
匠馬は気楽に言う。
「これはまず基本だから。これを覚えたら、次はテクニックだし」
「ねえ、無理だと思う」
ブドウはきっぱりと言ったが、匠馬もきっぱりと答えた。
「大丈夫だよ。とにかくできるだけやってみてよ」
匠馬に言われて、渋々ブドウはノートを開く。
「まあ……できるだけなら」
匠馬は、ブドウならできると確信しているのだ。
――だってブドウはロボットなんだ。多少無理しても、人間みたいに限界きたりしないんじゃないか?
確かにブドウは覚えが悪い。でも、繰り返せばちゃんと覚えるんだから、いくらでも繰り返してもらおう。
匠馬は、ブドウがロボットでよかった、なんて気楽に考えていたのだった。
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