ブドウの家

「あははは、ごめんなさいね。びっくりしたよね」


 結局、ケロリとした顔で頭をもとに戻したブドウに「帰り道でまたポロリするとだめだから手で抑えていかなきゃいけない。だから匠馬は私の荷物を持つのを手伝って欲しい」と言われ、匠馬は荷物を持ってブドウの家まで着いていくことになったのだ。


 古いけど結構大きいブドウの家に着くと、ブドウのお母さんが出迎えてくれた。


 ブドウのお母さんは、匠馬から事情を聞くと大声で笑った。


「本当にびっくりしたんですよ!」

 匠馬は恥ずかしさを隠すように、必死で訴えた。

「そうだよね。うん、ごめんね」

 ブドウのお母さんは、ブドウの首を丁寧に触りながら言った。

「ブドウはね、ロボットだから」

「ロボット……」


 まあ何となく察しはついていた。

 ブドウの取れた首からは何やら基盤や配線が見えていたし、何より首がもげて死んでないのは人じゃない証拠だ。


「えっと、ロボットっていうのは?」

「私が作ったの。学習型AI搭載してる」

「学習型AI?AIって、人工知能の?」

「お、よく知ってるね」

 ブドウのお母さんは嬉しそうに言って、匠馬に一枚の名刺を渡した。

「私、真中マナカ小百合サユリ。昔は企業でAI技術の研究してての。ブドウは、仕事辞めてから、自分の趣味で作ったロボット。可愛いでしょう」

 ブドウのお母さん、小百合さんは自慢げにブドウを叩いた。

 ブドウもニッコリと笑ってみせている。


「えーっと、でもブドウさんって、その、AIの割には覚えが……その、あんまり……」

 匠馬は言葉を必死で選ぶ。

 察した小百合さんは少し笑った。

「そうだね。ブドウは覚えが悪いよ。それはね、わざとなんだよ」

「わざと?」

「そ。だって、人間は物事を一発で覚えれたりしないでしょ?私はブドウを、人間の知能みたいにしたかったの。だから、何度も何度も繰り返し学習して、インプットとアウトプットを繰り返して覚えていく、そんな人工知能を搭載してるの」

 小百合さんの説明の最中、ブドウはちょっと自慢げだった。

「ブドウの花言葉の中にはは、『忘却』っていうのがあるんだよ」

「へえ」

 匠馬は感心した。


 せっかくのロボットなんだから、覚えが良くすればいいのに、と思う反面、やっぱりロボットだから、何度も勉強するのとか、苦じゃないんだろうな、とちょっと羨ましく思ったりもした。


「そうそう、なんかブドウをクイズ大会に誘ってくれたんだって?」

「あ、は、はい」

 小百合さんに云われて、匠馬は慌てて書類を取り出した。

「保護者の承諾が必要なんです。……でも……よく考えたら、ロボットってありなんですかね?反則じゃ……」

「んー、まあ普通のAI搭載のロボットなら絶対アウトだよね。でもどうだろう、ブドウは普通の小学生より覚えが悪いように設定してるし……何より」

 ちょっといたずらっ子のように小百合は言った。

「私、ブドウには何でもチャレンジしてもらいたいんだよね。勉強だけじゃなく、スポーツもイベントもね」

 小百合の言葉に、ブドウも頷いた。

「うん、そうプログラ厶されてるの」

「こらブドウ、プログラ厶とか言わないの」

 小百合はブドウを小突く。

「ま、私は承諾書をかくけど。でも、匠馬くんは知らないフリしていいよ。万が一ブドウかAIだってバレた時でも、普通の人間の同級生だと思ってましたーっていえば大丈夫じゃない?」

「そうですか?」

 なんだかそれは卑怯な気がしたが、今ブドウがだめになると締切に間に合わないので、小百合さんの意見に乗ることにした。

「じゃ、お願します。ブドウも、よろしくな」

「うん、よろしく」

 ブドウは少し笑顔を作ってみせた。

 ロボットだと聞いてからブドウを見ると、なんだかやっぱり笑顔が固いように見えた。




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