忘れん坊AIに、クイズはできるのか?

りりぃこ

学校にて

 くそっ!

 野沢ノザワ匠馬ショウマは人に聞こえるくらいの大声をだして、足元の石ころを思いっきり蹴った。


 明日は、全国小学生クイズ大会予選会の応募締め切り日だ。こんなギリギリになって、去年まで一緒に出ていた同じクラスの吉屋ヨシノガクに、出場を断られたのだ。

「今年俺、中学受験するから無理だよ。いや、ただ出るだけならいいけどさ、匠馬ってガチじゃん?対策とか練習とか。俺今年はそういう時間はないからさ」

 学年一位の成績の岳は、結構レベルの高い中学を受けるとは聞いていた。でもクイズ大会は一緒に出てくれるもんだと思っていたのだ。


「っても、断るとしても、こんなギリギリとか最悪じゃん。今更誰誘えばいいんだよっ!」


 匠馬は今六年生。大会に出るのは最後の年である。


 去年はギリギリ決勝の全国大会に行けなかった。

 今年こそは、と張り切っていたし、岳も同じ気持ちだと思っていたのに裏切られた気分だ。


 放課後まで友達を誘ってみたけど皆いい返事をもらえなかった。

 クイズ大会に出ようと言えば、皆乗り気になってくれるけど、練習とか予習しないといけないと言うと、「そこまでガチなのはちょっと……」と嫌な顔をされてしまうのだ。


「とりあえず、数合わせでもいいから誰かに出てもらわないと。二人一組じゃなきゃ出場できないんだから……」

 ブツブツ言いながら、匠馬は放課後の学校内をうろついた。

 部活の音が聞こえる。野球部か、吹奏楽部か……部活終わりのやつをだれでもいいから捕まえよう。そう思っていた時だった。


「匠馬くん。まだ帰ってないの」


 突然後ろから声をかけられた。

 匠馬が振り向くと、そこには、同じクラスの真中マナカブドウが立っていた。


「匠馬くん部活でもないのにブラブラしている。怪しい」

「怪しくねえよ」

 匠馬は慌てて口を尖らせる。

「てか、ブドウも部活やってないのにブラブラしてんじゃん。まだ帰らねえのかよ」

「算数わからない事があったから先生に聞いてた」

 ブドウはそう言って、教科書を匠馬に見せつけた。

「うわ、真面目」

 クイズは好きだが勉強は嫌いな匠馬は、少し小馬鹿にするようにブドウを見た。


 五年の時に転校してきた真中ブドウ。小柄でボブヘア、人間離れしたような妙に白くてツルンとした肌の女の子である。頭も良くないし運動神経もよくはない。でもとても真面目で一生懸命な子だった。とにかく出来るまで何度もやる子だった。


「で、わかったの?」

「だいたい分かった。後は知識の定着をさせるだけ」

「ふうん」

 匠馬は鼻を鳴らした。


 ふと、匠馬は思いついた。

「……なあブドウ。クイズ大会に出ようよ」

「クイズ大会?」

「うん。勝てば全国大会行けるんだ」

「ふうん。それ、楽しい?」

「絶対楽しい」

 匠馬は力強く言った。

 しかし、ブドウは首をかしげて聞いてきた。

「なんで私を誘ったの?匠馬、頭のいい友達いるでしょ」

「いや、クイズ大会、本気で勝とうと思ったら練習が必要なんだけどさ、ブドウって真面目でいつも真剣じゃん。クイズの練習もしっかりやってくれそうだし」

「ふうん」

 ブドウは少しだけ考え込むと、すぐに頷いた。

「いいよ」

「え!やった!」

「なんでもチャレンジしてみなさいってプログラムされてるから」

「プログラ厶?」

「こっちの話」

 ブドウはふいっと顔をそらした。


 よくわからないけど、とりあえず数合わせだけは出来たので、匠馬はホッと息を吐いた。

 ブドウに言ったことは嘘ではないが、とにかく数合わせができれば誰でも良かった、というのが正直なところだ。

「じゃあさ、保護者の同意のサインが必要なんだけど、この紙にお父さんかお母さんのはんこもらってきてよ。明日締め切りだから絶対な」

 そう言って、匠馬が応募書類をブドウに渡した時だった。


 危ない!という誰かの声と共に、野球のボールが開いている窓から飛んできた。

 ぼんやりと立っていたブドウの頭にジャストミート!……そして……。


「あ、ヤバ」


「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


 野球のボールに当てられたブドウの頭は、勢いよく首から外れてすっ飛んだ。

 そして、その頭が、匠馬の腕の中にすっぽりと収まったのだ。


「あ、あ、な、ななな何!!死ん……」


「死んでない。落ち着いて匠馬くん」


「ぎゃー!!しゃべった!!」


「そりゃしゃべるよ。とにかく落ち着いてよ」


 腕の中で冷静にしゃべる生首の同級生を抱えて、匠馬は大パニックになったのだった。

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