第55話 エルフィーナの思い出 2 (誰よりも……)
※
「……突然だったの……あの平和な村にも、魔物が出たの。どこから来たのか、どうやって出現したのか……。私達には関係なかったの。あの世界で、魔物が出現するのは、災害のようなものだったから」
エルは、あきらめたように言った。
「戦える……そう、勇者みたいな人は、いなかったのかい?」
僕は、ありったけの知識を振り絞って聞いてみた。
「大きな町には、きっといたかもしれないけど……私は知らない。私は、戦う魔法も知らいし、オルナートもエルフだけど武闘家じゃなかった」
エルは、結末を知っているから、尚の事、落ち込むんだ。それでも僕は、何とか打開策を見出したくて、しつこく尋ねた。
「村人の中で、戦える人はいなかったのかい?」
「……村人はね……みんな心優しい人間だったの。だから、私やオルナートを受け入れてくれたのよ。だから、戦いは無理……。みんな自分の身を守るだけで精一杯だったわ」
エルは、優しい笑みを浮かべていたけど、目だけはとっても悲しそうだった。そして、遠いあの村を思い出すように、遠くを見つめるんだ。
僕は、もうそれ以上、掛ける言葉もなく、ただエルを抱き締めたんだ。
「それでもね……。オルナートは、戦ったの……。魔物はドランゴンだったわ……。村人を逃がし、村を守り、ドラゴンを山に向かって追いやったの……。私も手伝ったわ。私が使える唯一の手段 “精霊との通心” で、ドラゴンの逃げ道を一本に絞り、山の上の崖に誘導したの。そして、オルナートが、前方から攻撃し、もう少しで崖から突き落とせるところまで来た時、ドラゴンが気づいてものすごい岩石弾を浴びせてきたのよ」
段々とエルも早口になっていった。
「オルナートは、私を安全な場所まで突き飛ばすと同時に、崖もろとも崩してドラゴンを火山口の中に落としたの。ドラゴンは、火口に落ちて死んだわ……。でもオルナートは、その時大怪我を負ってしまったの」
それでも最後は、かすれるような声で、思い出すのもやっとのようだった。
「エル……」
僕は、もうこれ以上思い出して、エルに悲しい思いを味わってほしくないと思っていたのに、言葉には何もできなかった。
「……それでもね、オルナートは、村には帰らないと言うの。このまま帰ったら、きっと村人は、悲しがるから、『自分はもっと強くなるために旅に出た』と、言ってくれと頼まれたわ。だから、その晩は、近くの森で看病したのよ。…………満月の夜だったわ…………。彼は、その時も言っていたの。『安心で安全なくらしをして、一緒の夢をみたいなあ』って……」
「それって、僕がギルドの報酬に書いたやつだ……」
僕は、驚いた。
エルが、僕を見つめて、目に涙を溜めて言うんだ。
「そうなの、本当のことを言うとね……。だからね、私、来たの……。あの時は、ひょっとしてと、思ったわ。でも……、直人………、ありがとう………」
「………エル……その後……オル…ナ…」
「私が、水を汲みに行っている間に、消えてしまったの……。一人では動けないはずなのに……」
その時、僕には、微かにエルの背中の5枚目の羽根が見えたんだ。そして、自然にその羽根に手を伸ばした瞬間に、5枚目の羽根は消えてしまった。
気が付けば、エルフィーナは、涙を浮かべたまま、安らかな寝顔で僕の腕の中に沈んでいたんだ。
(つづく)
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