第54話 エルフィーナの思い出 1 (愛しいひと)
※
その夜、エルは、眠れないようだった。
「気にしなくていいよ、今晩はずうっとこうしているから……」
僕は、ソファーの上でタオルケットに包まったエルの肩を抱いていた。
そして、片手は静かにエルの手に重ねていたのだった。
「うん……、私……思い出すのが、怖いのかな?……それとも」
エルは、僕に助けを求めるような目をしたんだ。
「大丈夫だよ、もう、君は絶対に怖い思いはしないんだ。……僕がついているよ……好きなように思い出してごらん」
僕の言葉を聞いたエルは、一度瞬きをしてから、ゆっくり話し始めた。
「私は、何もないところで育ったの……。自然はあったわ、深い森、高い山、緑の草原…………………………………でも、仲間も誰もいなかった」
エルは、少し寂しい表情をしていた。
「それから、1人でいろいろな町に行ったわ。誰かに会いたかったんだと思う。でも、エルフの私と仲良くしてくれる人はいなかったの。他の人は歳をとるのに、エルフの私は若いまま。いつしか、私も“魔物のようだ”と嫌われてしまったの」
「そんな……僕だって知ってるよ。世界にはいろんな種族がいて、寿命だっていろいろあるって」
「私の居た場所では、そんな考えをもつことはできなったの……」
「他のエルフには、会えなかったのかい?」
「その時はまだ、会えていなかったの。悲しくて、私は、いろいろな町を彷徨ったわ。そして、とうとうある田舎の町で出会うことができたの “オルナート” に!」
やっと、エルの表情が少し明るくなった。
「君の大切な人は、オルナートって言うのかい?」
「ええ、エルフのオルナートよ。彼もまた、独りぼっちだったわ。寂しそうにしていたの。でも、彼は村の人と話をしたり、畑を耕したり、村のために働いていたの」
「彼も、君を見て、喜んだじゃないのかい?」
「ええ、とっても喜んでくれたわ。……私も嬉しかったの……だから、一緒に村のために働いたわ。一緒にいることが楽しかった、一緒に働くことが楽しかった、そして、一緒に生活することが楽しかったのよ。……もう、離れられなかったわ」
「うーん、何だか、今の僕みたいだな……」
僕は、心の中でそう思ったのだが、小さな声はエルに伝わっていた。
「私もよ……」
「オルナートは、心優しいの。少し臆病だけど、だからこそ、弱い人間の気持ちがわかるの。寿命の短い人族が亡くなると、いつもメソメソ泣いていたわ。……誰かが困っていたら、自分も一緒に困っていたわ。……勇気はないけど、思いやりは人一倍あったの」
オルナートの話をするエルは、何となく自慢しているようにも見えた。
「そんな暮らしをしている時に、私の魔法の力もわかってきたのよ。……戦いには使えない“ダメ魔法”ってね」
投げやりな言い方で、夢の魔法について鑑定を受けたことを説明した。たまたま通りかかった魔力の強い魔導士に、鑑定を受けることができ、判明したそうだ。
「それでもね、彼は、素敵な魔法だって、いつも言ってたわ。一緒の夢がみたいって。いつか、2人で安全で平和な暮らしをしたいって。そんな夢をずうっと一緒にみれたらいいなあって、いつも言っていたの……」
ますます、僕と同じじゃないか?
「エル、素敵な彼だと思うし、彼が素敵な魔法だって言うのは、僕だってそう思ってるよ……」
握っている手にも力が入った。
「直人も、最初から同じ事言ってくれたわよね。本当に、あなた達、そっくりなのね」
と、エルの笑顔も次第に多くなって、僕も安心した。
しかし、その笑顔も、長くは続かなかった。
(つづく)
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