第53話 エル先生の日常 5 (エルにも見えたもの……)

※エルフィーナの視点




「エルせんせーい♬」

 後ろから急に抱き着かれて、芝生の上で座っていた私は、ふと我に返った。


「びっくりしたわ!美穂みほちゃん。どうしたの?」

 6年2組は、近くの公園に“写生”の学習に来ていた。

 今は、子ども達が公園の自然を自由に画用紙に描いているので、私はそれを眺めるだけにしていた。

 




 晴れ渡る青空、緑の芝生、きれいに枝が切りそろえられた木々達、少し離れたところにある池の噴水から聞こえる水音、どれも人工的で私にとっては目新しいものなのだが、眺めているうちに不思議な感覚に襲われた。



 懐かしい感じがする……。


 目を閉じるでもなく、どこを見るでもない、ただ漠然と眺めるだけの感覚が、私を《あの世界》にいた頃の感覚に呼び戻したのかもしれない。





「う~ん、エル先生ね~、ここにいると、やっぱり妖精さんなの。ここのエル先生ね~羽根が5枚に増えるの……どうして?」

 美穂ちゃんは、背中から正面にまわって、私の手を握って不思議そうな目をしていた。



 今度は、私が美穂ちゃんをゆっくり引き寄せ、軽く抱きしめ、

「美穂ちゃん、ありがとう。大事なものをまた思い出すことができたわ……」

と、言って頭を撫でてあげた。





 美穂ちゃんは、嬉しそうに微笑みながら、


「よかった、エル先生が笑った。……そうか、だから、その羽根が、暖かい色になったんだね。前に見た時は、寂しい冷たい色だったんだけど、今は違うもんね。よかったね、エル先生」

と、何度も背中を覗き込んでいた。




 私は、直人なおとに誓ったの。もう悲しい思い出は、背負わないと。

 だから、背中の羽根は、4枚しかないと。



 どうしたのだろう?……悲しい色ではなくなった?……どうしよう? 直人に相談しようか?それとも……。





 私は、優しいそよ風が吹く芝生の上で、無心に自然の絵を描く子ども達の様子を見ながら、無性に孤立感を感じてしまった。




(つづく)

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