第52話 エル先生の日常 4 (エルのお母さん?……)
※エルの視点
コン・コン・コン・
「はい……」
『……エルちゃん、入るわよ……』
部屋の前で、
「あ、お母さん……」
「いいから、そのまま寝ていなさいね」
私は、今日は自分のベッドに横になったままなの。顏も体も少し熱いの。学校はお休みしちゃった。風邪を引いちゃったみたい。
「運動会の疲れでも出たのかしらねえ~」
と、おでこに乗せている冷却材を避けて、自分の手で触って確かめてくれるお母さん、少し心配そうにしていた。
「大丈夫ですよ……少し休めば、良くなりますから」
自分の体がこのくらいのウィルスなら、ほんの数時間の睡眠で全快することはわかっていたけど、私は甘えることにしたの。
「おかゆ作って来たのよ、食べられる?」
お母さんは、小さな一人用の土鍋を持って部屋に来てくれたの。
「ええ、いただきます」
私は、ちいさく笑って答えた。
「じゃあね……ここで起き上がって、ちょっとだけ横にずれてもらえる?」
お母さんも、なぜか嬉しそうに、土鍋を抱えて私が横に避けたところに座ってきたわ。
そして、正座したまま、私の方を向き、「はい、あーーん……」と、言って、蓮華におかゆを少し入れて、口元に運んでくれた。
私は、迷わずに、その蓮華に向かって自分の口で迎えに行ったの。
「うん、モグ……むん、ごくん……おいしい!これ、甘い味がする」
私は、一口食べただけで、温かい気持ちで満たされたの。自然に笑顔になったわ。
「そうでしょ。これはね、“おじや”っていって、ご飯を柔らかく煮込んで、野菜の煮つけの甘いだし汁で味付けしたものなのよ。ちょっと、これも食べてごらんなさい………あーーん」
今度は、“おじや”の上に、ピンク色のキレイな毛玉のようなものを乗せて食べさせてくれたわ。
「わあー、ちょっとすっぱいけど、だんだんに甘みが出てくる。これが、ご飯の甘みとは違っていて、とってもいいわあ……ありがとう、お母さん」
「こんなに、喜んでもらえるなんて……嬉しいよ……エルちゃん、早く良くなっておくれよ」
おいしい“おじや”も、すべて食べ終わって、お母さんが部屋から出ようとした時、私は小さく呼んでみたの。
「お母さん……」
お母さんはこっちを振り向いたの。私は、ちょっと恥ずかしくなって布団を口もと迄かぶって、目だけでお母さんを見たの。
直人のお母さんは、土鍋を近くのテーブルに置き、もう一度ベッドに近づいてきたの。
お母さんは、そっとベッドに寝ている私の手を握ったの。
そして、お母さんは大きな欠伸をしてこんなことを言ったの。
「あーあ、私も眠くなってきちゃっわ……少し横になってもいいかしらね~」
私は、寝たまま黙って布団を捲り上げたの。
するとお母さんは、ニッコリ笑って、そこに潜り込んで、私を抱き抱えるように包んでくれたわ。
私は、嬉しかった。お母さんの手を握ったまま、目をつぶったの。私は、そのまま夢の中に落ちたような気がした。でもその時、なんとなくお母さんの声が聞こえたような気がしたの。夢かもしれないと思いつつ、とても嬉しい感覚だけが残ったような気がしたわ。
『…………なんて可愛いんだろう。……思い出すわ……あの子が生まれた時も……こんな感じだった気がする。……なぜだろう?直人が生まれたのは、もうずうっと前なのに、昨日のことのように感じるのは…………。エルちゃんを見ていると……幸せな気持ちになるんだけど……』
(つづく)
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