第45話 エル学級がめざした運動会 3(朝の花火)
※直人の視点
「………何だよ……お母ちゃん、こんなに朝早くから……」
まだ、暗いうちに、お母ちゃんは台所で、ごそごそと何やら忙しく準備をしていた。
「決まってんじゃない! 今日は、運動会だよ……天気も良さそうだし……張り切って美味しいお弁当持って行くから、楽しみにしてなさい!」
「え?……いいよ、弁当なんて……先生達は、職員室で食べるんだから!」
「何言ってんの!……母ちゃんは、知ってるよ!! 家族持ちの先生は、ちゃあんと子どもの席に行ってお昼だけでも一緒に食べるんだよ! 昔居た、田中先生は、家族サービスしてたわよ!」
「そんなこと言ったって、僕は、家族持ちじゃないし……」
「あんたには、エルちゃんがいるじゃないか……いいから……お昼は、待ってるよ! みんなも来るからね!!」
「みんなって誰だよ、も~」
~~~~~~~~~~~~~~
早朝、学校のグラウンドで
「エル、今日は、いつもより早いけど、いいのか?」
「もちろんよ!だって今日は、運動会よ……アレ、打ち上げるんでしょ……
エルは、朝からなんだかワクワクしているように見えるんだ。
「ん~……あなのなあエル、確かにこれからやることは仕事なんだけど……温泉で見たようなきれいなものじゃないんだぞ」
「え、そうなの?……でも、直人が上げる花火なんだもん、楽しみなんだ!」
運動会決行を知らせる打ち上げ花火は、教頭の仕事なのだ。
「よう、教頭先生、時間通りだね。エルちゃんも来たね」
「あ! 鎌田のおっちゃん。私、見に来ちゃった!」
「おう! しっかり見て行きな!」
「あの子達も待ってるかな……」
エルは、まだ薄暗い空を見上げて、クラスのみんなを思い浮かべみたいだ。
「大丈夫さ、この花火はな、気持ちの花火なんだ。このたった直径10センチの球がみんなの気持ちに届くんだよ」
鎌田さんは、独り言のように呟いた。グラウンドの真ん中には、支えの杭に縛り付けられた円柱がある。その周りにいる三人は、黙って日の出を待っていた。
「これを………」
花火の球を僕は、鎌田さんから受け取った。
光の出ない、音だけの花火なのに……どうして、そんなにみんなこれを待つのかなあ。
「直人、私にも見せてもらえる?」
「ああ」
エルは、大切に両手で花火の球を受け取り、顔の前に持って来た。目をつぶってしばらく祈りをささげるような姿勢にも見えた。
「……直人、お願い……」
僕は、エルから花火の球を受け取った。
僕は、花火の球を50センチメートルほどの長さがある円柱に、上から静かに入れ、導火線を円柱の外側に垂らした。
「直人……空が明るくなってきたよ!」
「教頭先生、いいぞ、今だ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その頃、エルの学級の子達の家では
「
「ああ、母さん……今日は、みんなで頑張るんだ……」
・・・・・・・・・・・・・・
「
「ぼく、外で見るから………」
・・・・・・・・・・・・・・
「
「うん!今年は、楽しみにしててよね!」
・・・・・・・・・・・・・・
「
「花火だー、花火だー、きっときれいよねー」
「んー、運動会の花火だからね…………」
・・・・・・・・・・・・・・・・
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
バン シューーーー
シュルウウウウ ドン
バガン ドガン ドガン
ズガン ドガン バガン ビガン
「おい!……七色だったな!?……見たか?」
鎌田さんは僕の背中を叩きながら、目を丸くしていた。
「……は、はい……僕にも見えました!」
僕は静かに、エルの方を見て確信したんだ。彼女は、黙って初めから空だけを見つめていたけど、信じていたんだな。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「「「「「 ……うん!……」」」」」
6年2組の子ども達にも届いたようだ。その花火は、音だけじゃなく、気持ちも届けたんだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(つづく)
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