第43話 エル学級がめざした運動会 1(リレー練習)
※エル先生の視点
子ども達も、いろいろ頑張って練習してるみたい。
「オレは、5年1組に行くぜ。もうすぐ運動会だろ、今日はリレーをやるって言うんだよ。リレーの見本を見せたいんだけど、一緒に行くやつはいないかなああー」
「いいよ、ぼくもちょうど走りたかったんだ」
「ぼくだって、バトンの受け渡しは、得意だぜ!」
運動が得意な
「なあ、あと1人、誰か行かないかなああ……………………」
まわりを見渡しているけど、なかなか見つからないみたいね。あれ?私と目が合った勝君がニコニコしてる。
「……じゃあさ、残りの1人は、エル先生お願いできないかなあ…………4人1チームで、リレーをやって見せたいんだよね、いいでしょ?」
私は、ちょっと声を掛けてくれて嬉しかったけど、ちょっとだけ考えるフリをしちゃった。
一応先生だから、勿体を付けてみたの。えへっ。
「まあ、リレーじゃ、チームを作らなきゃだから仕方ないわよね、いいわよ。じゃあ、今日は勝君達に付き合うわね」
やっぱり、最後は、嬉しさのあまりとびっきりの笑顔になっちゃった。
・・・・・・・・・・
はじめ、5年生はリレーの基本を学習していたので、勝君達はグラウンドの端でその様子を黙って観察していたわ。
「学校では、バトンの持ち手を決めることが多いけど、走る場所や受け渡しのタイミングで、できるだけ持ち替えないようにした方がいいんだ」
バトンの受け渡しが得意な佑介君は、自分でもオリンピックの映像などで解説者の話を受け売りしていたわ。なんか可愛いわね。
「あ!オレも知ってる、できるだけバトンの持ち替えを少なくして、落下を防ぐんだぜ」
勝君も得意になって話しているわ。
「リレーで一番バトンを落とすのは、どこだかわかるか?」
和希君が、一緒に行って3人に質問しているの。
「そりゃあ、バトンパスの時に決まってるだろ!」
2人とも同意見だったの。
「じゃあ、なぜだと思う?」
「なぜって?……そりゃあ、バトンが手から離れるからか?」
「んー、でも、それなら、みんなが落としてもよさそうだけど、そうでもないよな……」
「……………………」
「実はな、人が集まってしまって、バトンが見えなくなるからなんだよ。リレーで、競っていると、バトンパスゾーンだけ、人間が2倍になるだろ。だから、渡そうとする手がよく見えなくなるんだよ。それで焦ってしまって、ついバトンを落としてしまうんだ」
「なるほど…………」
「だからか………」
勝君達は、私を入れて4人で緊急リレー会議を開いたの。
そのうちに、5年生の方から、6年生も入れて模擬リレー対戦をやりたいと提案があったわ。その結果を受けて、作戦を考えたいんだって。
勝君達は、喜んで了承していたわ。
・・・・・・・・・・・
5年生は、選抜3チーム。6年生は勝君達1チーム。合計4チームの対決となったの。もちろん、私も勝君達のチームで一緒に走るのよ。
6年の第1走者は勝君、第2走者は佑介君、第3走者は和明君、アンカーは私なの。
そして、勝はみんなに、こんな提案をしたわ。
「今回のリレーは、早く走って5年に勝つことじゃないよ。さっき話したリレーの混雑を避けて、上手くバトンを渡す方法を見せることだからね。だから、バトンパスを5年に合わせるように走ってくれ、頼むな!」
「OK、任せてよ」
「エル先生、ゴールは……ね♡」
勝君は、両手を合わせて、お願いしてきたの。私も、両手のブイサインをくっつけてニッコリ笑ったの。
『位置について………よーい………バン』
スターターピストルが鳴ったわ。紙雷管の煙が漂い、独特の微かな匂いがしたの。
5年生は、赤、青、黄がそれぞれ全力で好スタートを切ったわ。勝君は白で、やや後方から追う形をとったの。これも作戦ね。
「よし、前方が見える……バトンパスまで、あと10メートル」
5年生は、基本通りバトンを受ける者が後方にさがり迎えに出る形。
勝君は、それを横目に一気に5年の3チームをパスし、抜かしたところでバトンパスしたの。
第2走者の佑介君は、前方に誰もいないので、一気に加速できたわ。
「よし、あっという間に先頭だ」
観客になっていた5年生は、見事なバトンパスに、拍手さえしていたわ。
佑介君は、すぐにスピードを緩めて、5年と同じ集団に紛れ込んだの。これも昨年ね。
「リレーゾーンまであと10メートルだ」
佑介君は、コースを一気にアウトコースにずらしたの。そこには、和希君が待っていたわ。通常は、インコースを走るものなの。その方がコースも短く、時間も稼げるからね。ただし、バトンパスの時は混む場合があるので、場所を見てすいているコースを選ぶのよね。
「よし、これで一気にまた、走れる!」
第3走者の和希君も真っすぐ前を見て走り出したわ。最後は、私にバトンを渡すんだけど、彼は5年生をまた全員抜かしてから、安定したバトンパスを私にすることになっているの。後方を走る5年生に見せるためよ。
「よし、これで、アンカーのエル先生までバトンが渡ったな……」
勝君は、これでひと段落したと思った。
でも、5年生は最後まで必死になって、どのチームも全力で走っていたわ。私は先頭だったけど、少しずつスピードは加減していたので、5年生が追いつてきたわ。
ゴールまで30メートルと迫ると、5年生も力が入り、私を追い抜こうと頑張ったの。
赤チームが抜かし、青チームも抜かしていったの。後5メートルというところで、黄チームが私に並んだ時、その子がバランスを崩し転びかけたの。
「あ!危ない……」
そう思った瞬間……私は、その子の上半身を柔らかく受け止めたの。そして、そのまま黄色のアンカーの子を抱きかかえたまま、空中を高く前方に一回転して、静かに自分の足で着地したの。
「大丈夫だった?」
私は、優しくその5年生の子に話し掛けた。
「は、はい。大丈夫です」
少し驚いた様子だったけど、その子はケガもなくてよかったの。
「あ、そうそう。着地したときね……足は、あなたの方が、前になってたから、3位はあなたね!」
私は、そう言ってその子の頭を撫でてあげたの。とっても楽しいリレーだったわ。
(つづく)
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