第25話 閑話 4 ~エルフィーナと町の地図~

 新しい町では、誰もが経験するんだ。どこに何があるかわからない。子どもの家は?どうやって行く?

 白日のラビリンス!

 僕もまた、経験者だった。だからこそ、やっぱり心配だったんだ…………。


「カーナビでもあれば、良かったのに……、いや、これさえ渡せれば……」

 僕の持っている地図には、たくさんの書き込みがあったんだけど。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「エル、今日は、町を案内しようか?……」

「どうやって……」

「ここに地図があるんだけど……明日からの家庭訪問で役に立つんじゃないかなあ……」

 エルは、笑顔でうなずき、夕方、僕と二人で薄暗い大里山おおさとやまの町へ出かけることにしたんだ。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 僕達は、大里山町の真ん中の公園に来た。


 そこで、僕は、地図を広げたんだ。



「この辺は、住宅街で……」

と、言いかけた時、エルが僕の唇に指を当てた。


「しっ!」


 エルは、僕の説明を止めたあと、目を閉じて、僕の地図を持ったまま、公園で一番背の高い木の頂まで跳んだ。

 頂に真っすぐ立ったエルは、地図を広げ、あたり一面を見渡し、そして、地図を抱きしめた。


僕は、その間じゅう、一秒たりともエルから目を離すことができなかった。


しばらくして、エルは、嬉しそうな笑顔で、頂から地面に戻ってきたんだ。




直人なおとの地図は、素晴らしいわ。

 楽しいことが、たくさんわかったわ。ここのお店で何がおいしいか。ここはどんなものが売られているか。ここにはだれが住んでいるか。うちのクラスの子もたくさん載っていたわ……すごいわ、直人の地図……」


「え?そんなことも分かったのかい……地図だけじゃなく、もう場所も見えたのかい?」


「ええ、今、木の上から全部見えたわ……いつでも行けるわよ……直人、ありがとう…あなたのお陰よ」




 僕は、エルに手を引かれて暗闇の迷宮から抜け出すことができたような気持になった。



「お礼を言うのは、僕の方かも……これで、僕達は、自由にこの町を歩けるんだね」

「そうよ……私達の夢のために……楽しみましょうね」

「ああ、そうしよう、エル」




(つづく)

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