第24話 閑話 3 ~エルフィーナと家庭訪問~

 4月の末から始まる家庭訪問。僕は、とっても心配なんだ。


「相手があるからなあ……一筋縄じゃあ、いかないぞ……」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「エル先生は、運転免許が無いのよね……私が帰る時、送っていきますか?」

 支援員しえんいん千恵実ちえみさんが声を掛けていたが、断ったようだった。


「大丈夫、帰る子どもと一緒に歩いて行くから、平気よ」

 エルは、いたって平常心でニコニコしていた。家庭訪問でも緊張感は、ゼロみたいだった。

 今日の家庭訪問は、静奈しずなの家か…………。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「最初は、静奈さんの家ね、楽しみだわ」

「へ~エル先生は、緊張しないんだね……」


「どうして緊張するの?……知ってる人の家に行くのに……」

「そっか……もう私とエル先生は、知り合いなんだもんね……だからお母さんとも知り合いなんだ」


「そうよ、何か変?」

「変じゃないわ…………緊張しているうちのお母さんが変なのよ!」


「まあっ!」

 エルと静奈は、顔を見合わせて笑っていた。それでも、僕は心配だなあ~……。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※ここは、エルフィーナの視点




「ここね、おじゃまします………」

「先生、いらっしゃい……どうぞ入ってくださいな…………」


「あれ、お父さん!……お父さんは仕事じゃなかったの?」

 家に入った静奈さんが、父親を見つけてびっくりしてしてるわ。何を驚いているのかしら?


「ん、ああ、やっぱり、静奈の先生に会っておかないとな……」


 すぐに、静奈さんがやってきて『お父さんの笑顔が、いつもより10倍増しだ!』と、少し怒って私に告げ口してきたの。



 私は、よく分からいけど、笑顔で

「エルフィーナと申します。よろしくお願いいたします」

と、挨拶したわ。



 そしたら、静奈さんのお母様が、ちょっとだけ肩を震わせて、下を向いてしまったの。なぜか、笑顔だったんだけど……。


 お母様は、すぐに深呼吸をすると、

「先生、ここだけの話だけど、学級で話題になってるのよ。今度の先生があんまり可愛いからって、家庭訪問にお父さん達が仕事をお休みしてるって……ねえ、どう?あなた」



 お母様は、また少し笑いながらお父様を見たの。


「いやあ、まあ、エ、エ、エルフィーナ先生でしたよね。うちの娘がね、学校が楽しいっていうんです。よろしくお願いいたします」


「私は、子ども達の願いをよく聞きたいと思っています。

 合わせて、おうちの方の願いも教えてください。いっぺんに叶えることは難しいと思いますが、子ども達が自分の夢に自分で近づける手伝いをしていきたいと思っています。

 だから、一緒に力を貸していただけないでしょうか?」

 


 お母様は、静奈さんを抱き寄せて、頭を撫でながら嬉しそうに、話してくれたの。

「よろしくお願いします。先生は、子ども達のことをよく見てくださると、聞きました。

 でも、いろんなことを任せてくれるから、嬉しいとも静奈は言っていましたよ。

 親はね、なかなかそこまではできませんよ。どうしても、余計なお世話をしていることが多いですよね。わかっているんです……それが親なんです。

 でも、先生が傍にいてくれるなら、親も安心して、親のわがままを言えるかもしれません、ねえ、あなた……」


「ああ……こんな美人の先生なら、俺も頑張るから、何でも相談してくださいね……」


「もう、あなたってば……あははは」


 

 なんだか、家庭訪問って、楽しいのね。


 今日は、どの家でもこんな調子で、私の気持ちをみんなは、聞いてくれたわ。

 まだ始まったばかりの家庭訪問だけど、私は嬉しかったな。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※直人の視点に戻る




 その夜、家庭訪問の様子をエルに聞いたんだ。

 そして、僕はエルの家庭訪問が上手くいったようなので、とても安心した。


 だけど、お父さん達にそんなに喜ばれたことを聞いて何だか複雑な気がした。できれば、自分も一緒に家庭訪問について行こうかとも思ったんだ。


 …………でも、僕はやっぱり家庭問は嫌だなあ。




(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る