第23話 閑話 2 ~エルフィーナと教科書~
教師一人に渡されるテキストは、教科書だけではない。山のようなテキストに、僕は今更ながら焦った。
「エルには、荷が重いよな……絶対僕だったら逃げ出すぞ」
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「えっと、これがエル先生の分です。無くさないように管理お願いします」
教務部教科書担当の先生から渡された30冊以上の本。
エルは、とりあえず表紙だけ見て、
「あのー、同じようなものが、ありますが……1冊じゃダメなんですか?」
山田先生は、チラッと見ただけで、「ああ」とうなずいていた。
「それはね、児童用の教科書と教師用の教科書とその解説書だよ。
どれも表紙が同じだから、同一の物かと思っちゃうんだけど、中身はちょっと違うんだよね。
児童用というのは、子どもと同じ教科書なんだ。教師用というのは、別名赤刷りと言ってね、算数だと答えが書いてあったり、1時間ごとの目標や評価規準や補充問題なんかも印刷してあったりするから、少し分厚くなっているね。
解説書というのは、指導書とも言うけど、学年の目標からその単元の評価規準までがすべて網羅されているものなんだ。
大体は、教師用の教科書で間に合うけど、解説書を見ると学習する中身や評価、他の単元や学年との結びつきなども書いてあって、研究授業の時なんかによく参考書として使われるよ。まあ、僕はあんまり使わないけどね」
エルは、説明を聞いてもよく分からなそうだった。それらをパラパラとめくりながら、ボソッと呟いた。
「学校の先生って、すごいんですね。
あと、何日かで新学期が始まるこの数日で、こんなにたくさんの本を読んで、内容を覚えてしまうなんて。私なんて…………3日もかかりそうですよ」
「う、ぐふっ、ごほっ……」
山田先生は、エルの感想と話を聞いて、思わず咳き込んでしまった。
「あれ?大丈夫ですか、山田先生……」
「い、いや…私は、大丈夫だけど…、エルフィーナ先生、あのー…この教科書の内容を覚えてしまうつもりなの?」
「だって、私は(この世界のこと)何もわからないんですもの、子ども達に授業をするためには、少し勉強する必要があるかなと……思って」
口ではそう言いつつ、何の不安も見せないで、笑顔のまま話すエルの様子を見て、山田先生は不思議そうな顔をしていた。
「あのー、教科書はね、勉強を進めながら見ればいいから、そんなにいっぺんに読まなくてもいいと思いますよ……無理はあんまりしない方が……」
「はい、ありがとうございます」
と、笑顔で答えながら、エルは、すべての教科書を片手で抱えて自分の教室へ運んで行った。
僕は、その様子をそっと見ていたが、彼女は、歩きながら教科書に向かって何か話しかけているのが分かった。
『なんて便利なのかしらね……指導書っていうものは、黒板に書く文字まで、あらかじめ書いてあるなんて。
……お願いね。板書っていうのも、よろしくね』
エルは、教室で黒板やチョークにも話しかけ、やさしくお願いの言葉をかけていた。
心配して追いかけていた僕は、安心して職員室へ戻ることにした。
「あれだけ、マイペースだと、すごい先生になってしまうかもしれないな……」
(つづく)
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