第16話 必勝!エルフ流 学力向上マル秘対策 4(自分の好きな事)

【管理職の朝の打合せ】




「お!素田すだ教頭先生、今日は元気そうですねー」


「あ、田中たなか校長先生、昨日はいろいろとご迷惑をおかけしました」


朝から、ニヤケタ校長の顔は見たくはないが、仕方がないなあ。それにしても、校長室で泣きながら寝ちゃったのは一生の不覚だったあ~。




「それにしても、昨日はいいものを見せてもらったよ……ところで、あの後はエルフィーナ先生とは仲良くできたかね……?」




「え?……何のことでしょうか?……さあ、打合せを始めますよ。田中校長先生」


「あ、はいはい……………」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【同じ頃、6学年の朝の打合せでは……】




「エル先生、そろそろ全国対象の学力テストの準備でもしましょうか」


「はい、お願いします。

 …(1組の担任は、平野凡太ひらの ぼんた先生で、いたって呑気な先生なの。ちょっと周りの先生からは、“のんびり屋さん”と言われているみたい。でも、私はとってもやりやすいのよね。無理を言わないし、何でも好きなようにさせてくれるし)………準備って、どんなことをするんですか?」




「僕は……あんまりテストって好きじゃないんだよね。

 ……だから子ども達にも“無理に勉強はするなって”言うんだ……

 おかげで、いっつも参観日には、お母さん達に怒られるよ……あははは」



「でも、平野先生、…(人間の教育じゃ)…質能力の向上を目指した学習の成果を評価するのに、テストって重要だって聞いたんですけど……」



「エル先生って、結構難しいこと知ってるんだね。…………でもさ、好きでもない勉強をしてテストされるのは気持ちいいかい?」


「え?……どういうことですか?」





「うーん、そうだな。

 例えばさ……好きな事だとね、テストなんかしなくても、自分がうまくできるようになったかどうかが気になるだろう?

 だから……ちゃんと、自分で評価の方法をいろいろ考えるものさ。

 そして、もっとうまくできるようになりたくて、また、一生懸命に頑張り続けるということさ。

 …………そしたらね、その資質能力なんかも自然に高まるんだよ、きっと」



「…(敵と戦うとき)…強くなろうと思ったら、他人が決めるんじゃなくて、自分で納得するまで頑張らないとだめだということなんですね」


「まあ、本当の強さは、自分にしかわからないとも言うらしいよ……」




「…(そういえば、あの人もそんなことを言っていたような気がするなあ~)…平野先生は、今度の全国テストに向けて、子ども達に何か言うんですか?」



「いつもと同じかな……“自分の好きな勉強をしなさい”って、それがきっといつか実を結ぶから。夢を叶えてくれるからって……」


「ところで、平野先生の夢は、何なのですか?」


「僕かい?僕なんか、名前の通り、何も無い平平凡凡のただの小学校の先生だよ。

 僕の夢なんか無いよ。

 ただ、僕は、子ども達の夢を一つでも多く叶えてあげられればそれでいいのさ……」




「わかりました。私も、好きな勉強をします。

 先生としての力は、自分で確かめることにします。

 見ていてください」



「ああ、エル先生……頑張ってみなさい」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【教室では……エルの視点】


 教室では、今朝の打合せのことも頭に置きながら、エル先生も子ども達と朝の会を進めた。最後の先生のお話も終えようとした時、1人の子からこんな質問が出たの。




「エル先生は、外国の人なのにどうしてそんなに日本語が上手なの?」



「私の言葉は、そんなに上手なの?

 …………んー、でもね、最初に校長先生に会った時は、何をしゃべっているか全然わからなかったのよ」



「え?エル先生でも、そんなことがあったの?その時、どうしたの?」



「んー、そうねー、近くにいた…(古い大きな本の妖精の)…おじいさんかな?……に、言葉を教えてもらったのよ。

 …………それでね、何とか田中校長先生や素田教頭先生とお話ができるようになったわ、由香ゆかさんいい?」



「やっぱり、エル先生はすごいんだなー」



「そんなことないのよ。初めに習った言葉が、…(古い本の妖精の)…おじいさんだったから、言葉が堅苦しいとか、変だとか、言われちゃったわ……おかしいでしょ」



「へー、苦労もしたんだね」



「うん、進太君。でもね、素田教頭先生が気にしなくていいよって言ってくれて、自分の話し方を真似すればいいって言ってくれたの……。

 それからだんだん今みたいに話せるようになったのよ」



「へー、教頭先生って、優しいんだねー」

「何言ってんだよー進太しんた、エル先生だからに決まってんだろ」

「え?そうなの?」

「決まってんだろう、エル先生は、こんなに美人なんだぞ!」

「そりゃ、そうだけどさーー」



「うーーんとね、まさる君。いいかな?」



「あ!………エル先生、ごめんなさい、話がズレちゃったね。

 …………でも、エル先生だって、自分の勉強じゃなくて、素田教頭先生や田中校長先生とお話がしたくて勉強したんでしょ。

 おれ達だって、誰かのために勉強するんだったら、きっともっと成績がよくなると思うんだよなあ」


「そうそう、私もそう思う。

 ……私だって、誰かに教えると思ったら、一生懸命勉強するけど、自分の勉強だと思ったらね。

 ……つい怠けちゃって……、それにさ、もうすぐあのテストがあるわよね」


「ああ静奈しずな、毎年6年生が受けるやつだろう」


「全国なんとかテストってやつでさー」


「そうそう、エル先生は知ってるよね」



「知ってるわよ……国語と算数と英語のテスト📝なのよね」



「おれ知ってるぞ、その他に変なアンケートもあるんだぞ。うちの兄ちゃんが言ってたもん」



「そうね、普段の生活の様子とか、学校の勉強の様子なんかを細かく聞くのね、

 ……みんな詳しいじゃない

 ……2週間後にやるわよ」



「でもなあーー自分のテスト勉強なんか、すぐに飽きちゃって、力が入んないよなーー」

「へえーー、他のみんなもそうなの?」


「「「「…うん、そうだよーー」」」」




「じゃあさー、他の学年に勉強を教えに行けばいいじゃない」




「え?いいの?」

「別にいいわよ……私が、頼んであげるわ」

「でも………おれ、難しい勉強なんか教えられないぜ……」

「だったら、まさるは、1年生にでも行けば、いいわよ」

「そっか、その手があったか、由香ゆかはいいこと言うな」

「それにさ、別に教えるのは、勉強だけじゃなくもいいですよね、エル先生!」



「そうね、生活に必要なことは、山ほどあるわ……みんなは勉強だけが得意なわけじゃないでしょ?」



「おれは、テストの点数はよくないけど、運動は得意だし、誰とだって仲良くできるぜ!」

「私だって、小さい子の面倒ならよく見れるわよ、何せうちには泣き虫の妹が3人もいるんだもの」



「だったら、みんな自分の得意な事をやればいいんじゃない?そうすれば、相手にも感謝されるし、ひょっとしたら自分の力を伸ばせるかもしれないわよね」



「よーし、おれやってみたいなー!」

「私も―」

「エル先生、お願い、何とか学校でできるようにお願いしてくださいーー」


「「「「「「おねがいしまーーーす」」」」」



「じゃあ、先生達に相談してみるから、任せてね……」




(つづく)

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