第17話 必勝!エルフ流 学力向上マル秘対策 5(道を太く)
放課後になり、エルは、何やら6年1組の
「そりゃあいい考えだね。君のクラスらしいや。
お願いだ、僕のクラスもやりたいので、一緒に教頭先生に頼んでみようか」
「ありがとうございます。実現すると子ども達もきっと喜ぶと思います」
「たぶん、子ども達にとって、そんなことを考えることが大切なんだと思うんだよ。
君も子ども達もすごい勉強をすることになるんだよ。
その”考える”っていう勉強をね。
ほんとすごいよ!」
どんなことでも褒めてしまうという
「じゃあ、6年団の先生達にも話してから、すぐに教頭先生の所に行こうか」
「はい!」
・・・・・・・・・・・・・・・・
何となく、ボクの所に、楽しそうなエルの声は、届いていたが、校長からの相談ごとが重くのしかかっていたんだ。
また、あのテストの時期だもんな……いつものように、調査は入るし、報告はしなければならないし、ましてや今年度の成績となると……エルの成績みたいになってしまう。
「素田教頭先生、また調査報告が来たよ……」
「田中校長先生、新しいものですか?」
「ああ、今回は、『事前に全国テストに向けての学校での取組を報告せよ!』と、いうものだなー。
この調査は、2週間先のテストに向けての調査だから、〆切も短いぞ。
明後日だ」
「えー?そんなーー、それじゃあ、いつもの取組ぐらいしか出せませんよ、校長先生!」
「仕方ないよ……そんな、調査のために、先生達に無理はさせられんぞ、絶対に!」
「この調査は、町の評議会へ行くんですか?」
「まあ、評議会も通るけど、県のメンツがあるから、文共局を通して県へ行くんだろう、きっと。
また、取組と成績を見比べて、ああでもない、こーでもないと、文句を言うにきまっているんだ」
「まあ、落ち着いて
校長先生と僕が、職員室で込み入った話をしている時、6年団の代表としてエルと平野先生が、何やら神妙な様子でやって来た。
口火を切ったのは、エルだった。
「……子ども達が、勉強を教えたいと言っています。他の学年や学級に教えに行かせてあげたいの……お願いします」
「ああ、うん、おや……急に、また、どうしたんだい?」
僕は、少し照れた表情になってエルの話を聞いた。
「ああー、理由は、私から………」
と、すかさずベテラン平野先生が、話し始めた。
それは、以下のようなことだった。
全国テストを控えて子ども達自らが、モチベーションを高めるために人の役に立ちたいと志願したこと。
エル先生の言葉習得のきっかけが人のためだったという話に触発されたこと。
自分だけの勉強だと気が緩むこと。
勉強以外でも役に立てることがあるのではないかと考えたことなどだった。
平野先生は、とても上手に説明してくれた。
そして、最後にこうも付け加えた。
「すべては、このエルフィーナ先生が、子ども達に手本を示していたことが、きっかけです。
子ども達は、エル先生にあこがれています。きっと、今なら一緒に頑張ってくれると思います。6年団でも、みんなでサポートしようと話し合いました。
お願いします」
「ううう……ありがとう。
みんな、そしてエルフィーナ先生……でも、大丈夫だろうか?」
僕は、もう半泣きになっていた。
それでも、やったことがない取組だったので、想像もつかず、また、心配ばかりが頭をよぎった。
その時、少し下がったところで、黙って様子を見ていた校長が、僕に静かに耳打ちをしたんだ。
「いいチャンスじゃないか!これ、新しい報告にできるよ!すぐに、はじめちゃいなよ、私も認めるから、頑張れ、教頭先生!」
それだけを言って、にっこり笑った校長は、校長室に戻って行ってしまった。
わ!また、丸投げだ!
話すだけ話したエルと平野先生は、その場に残された僕をじっと見つめてすがるような目だった。
「……わ、わかりました。…………ただ、受け入れの学級だけは事前に話をして了解をもらってくださいね。
後は、先生達に任せます。子ども達に自信を持たせることができるように頑張ってください」
僕は、ニッコリ笑ってそれだけを伝えると、エルも満面の笑顔で答えてくれた。
「ありがとう!直人……」
「エル、学校、学校」
「あ!ありがとうございます、素田教頭先生!」
学年団の席にいた山田先生も、嬉しそうに笑っていたが、何となく僕とエルの様子を見て笑っているように感じたんだ。
何か、変だったかな?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その後、他の学年の先生達にも話されると、1年生と3年生と5年生それぞれ1学級から了解をもらうことができたと、報告があった。
「よかったじゃないか、あまり多いと行き先を絞るのが大変だよ。しかも了解をくれた学級は、いつでもいいって言ってくれたんだ。感謝しようよ、ねー」
「そうよね、そう思えばいいのよね。何て山田先生って、ポジティブなのかしら」
「いやあ、そんな、そう思った方が楽かなと思って……教頭先生だって応援してくれてるし」
「んー、な……素田教頭先生は、少し心配症のところがあるから……」
具体的な子どもへの話は、明日の授業で行うことにしたようだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日の朝になった。
エルの動きは、いつもと変わらなかった。
「エル、今朝も校舎まわりのゴミ拾いに行くのかい?」
「ええ、もう日課みたいなものね……」
本当は、僕も一緒に行きたいんだけど、他の仕事があるから残念で仕方がいないんだ。
「じゃあ、気をつけてね……」
・・・・・・・・・・・・・・
【ここからは、エルフィーナの視点】
今日は、天気もいいから半分散歩気分みたいなものだわ。
私は、いつものように校舎の周りを見て回ったの。角を曲がったところは、道路もすぐ傍で信号機も近い交差点になっている。
「おはよう!エル先生ーー」
交差点で止まった車の窓を開けて、大きな声で挨拶をする人がいたの。
「あ、協議会議長ーー、おはようございまーーす」
「なあ、外では、おじさんでいいからさー」
「わかりました、その代わり、私もエルって呼んでくださいねー」
「ああ、わかったよ、エルー。……うらやましいなー、今日は助手も連れてるんだなーー、頑張れよー」
それだけを言うと、青信号になって、議長は、そのまま行ってしまったんだけど……。
「助手?」
私は、何のことだか分からくて、周りをキョロキョロと見まわしたの。
「……エル先生、おはようございます」
そしたら、突然、男の子が近づいて来たの。
「あ、
「エル先生!……えへへへ……エル先生と同じだよ」
「え?……早いのね」
「何言ってんの、エル先生だって、早いじゃないか。……それにおれは、まだ登校してないもん。今は、登校途中なの、ほら」
と、背中のランドセルを見せたの。
「勝君らしいわね」
私は、びっくりしたけど、自分がはめていた軍手を勝君の手に穿かせてあげたの。
「え?先生、いいよ」
「ダメよ、ちゃんと準備はするの。何でもやる時は、いい加減にしちゃダメなの、わかった!」
「うん……ありがとう、エル先生」
勝君は、嬉しそうに手の軍手を眺めながら、またゴミを探し始めたの。
なんだか私は、朝からとてもいい予感がしたわ。
(つづく)
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