第12話 誕生!エルフの学級 4(誰の夢?)

 あれから1週間ほどが過ぎた。

 6年2組は平穏無事な毎日が繰り返されていた。

 あの後、僕はやっぱり心配で時々教室の前をウロウロしてるんだ。

 でも、エルも子ども達もいつも笑顔で過ごしていて、安心した。



 僕もあの仲間に入りたいなあ~と思ってしまった。

 以前からじゃないんだ。

 今回、エルと出会ってからだ。


 また、昔みたいに、教室で、子ども達と……いや……ひょっとしてエルと毎日を過ごしたいと思っているのかもしれない…………。自分でもよくわからないんだ。




 ようやくここ北米県でも春らしい日が多くなってきた。雪も無くなったし、桜はまだだけど、今日は晴れていて気温も高く、気持ちのいい日が続いた。



「……素田すだ教頭先生、お客様ですよ」

 職員室の入り口に、花村はなむら先生が来ていた。


「先日は、大変お世話になりました。また、本当にご迷惑をおかけして……」


「何をおっしゃいます。よく、いらっしゃいました……本当に……」



 僕は、半泣きになり、駆け寄って抱き着きそうになった。

よく見ると、花村先生の腕の中には、かわいい赤ちゃんがスヤスヤと寝息を立てていた。



「おっと、こりゃ、お起こしちゃいかんな……なんてかわいいんだ」

「これも、みなさんのお陰です…………あのお……」

「わかってますよ……子ども達でしょ」

 

 とたんに花村先生の顔からは、笑みがこぼれた。



「もうすぐ、中休みだから、少し早めに教室へ案内しますよ」

「ありがとうございます…………それから……」

 その後、花村先生は、少しモジモジして、何か言いたそうだった。


「ひょっとして、エルフィーナ先生ですか?」

 花村先生の顔が、パアッと明るさが増した。そして、赤ん坊を抱いたまま、僕にすり寄って来た。





「私は、エルフィーナ先生に、どうしてもお礼が言いたいんです。

 この子のこともそうです。それに、学級の子達のこともです。

 そして、私は、あの子達に謝らなければならないのです。

 そのことも全部まとめて、エルフィーナ先生にお願いしなければ…………」

 

 だんだんと花村先生の目から涙が流れ始めたが、その意志はとても堅そうだった。




「大丈夫ですよ……さあ、6年2組の教室へ行きましょうか……」





・・・・・・・・・・・・・・・


「エル先生、お客さんをお連れしたよ、入っていいかな?」

 にっこり笑って、教室の戸を大きく開け、ゆっくりと花村先生の手を赤ちゃんごと教室の中へエルフィーナは引き入れた。




「わー、きゃあー、花村先生ー」

 途端に、教室の子ども達は、立ち上がって歓喜の渦に包まれた。


「みんなーーしーーーーーーーーー」


 いち早く赤ちゃんに気付いた東山君は、クラスのみんなを黙らせてくれた。みんなも、大声を出したいところだけど、ぐっとこらえて、表情だけで喜びを表現していた。


「せんせー、せんせー、せんせーい、……………」


「みんな……ごめんね……ありがとうね……みんな……まさる君ありがとうね」

 赤ん坊に気遣ってくれた東山勝ひがしやま まさるの頭をなでながら、花村先生は涙が止まらなかった。




「先生、どうして泣いてるの?先生が泣いちゃうと、私も涙が出るから……ね……」

 そう言うのは、あの美穂みほだった。


「美穂ちゃん、元気だった?」

「元気だよ、私は、いつだって花村先生と一緒だから、元気なの!」

「うん、そうだったわね……ねえ、みんな聞いてくれる?」


「何?花村先生ー」


「本当にごめんね!…………卒業まで一緒にいようと言ったのに……」

「何言っての?卒業式にも、来てくれるんでしょ……」

「うん、もちろんよ……」


「じゃあ、約束通りじゃん、問題ないじゃん、なあ、みんな!」


「「「「おおおーー」」」」


「ありがとう、みんな…………それからもう一つ…………」


「花村先生、何さ……遠慮なんかしなくていいから、言ってよ」




「うん……あのね……エルフィーナ先生には、私もだいぶお世話になってるの、だからみんなも……仲良くしてほしいの……」




「なーんだ、花村先生、そんなこと気にしてたのか?なら気にすんなよ!」

「そうそう、私達は、もうエル先生って呼んでるのよ」

「それにさ、最初に花村先生に会わせてくれたのが、エル先生なんだ」

「え?私に会わせた?」




 その時、エルフィーナが、花村先生に近づき、静かにまた片手を添えて、話し出した。



「ごめんなさい、わざとじゃないの。

 あの時、あなたの手はとても暖かったの。それはあなたが、学級の子ども達のことを伝えたくて私にメッセージを送ってくれたのね。私は、それを自然に感じてしまったのよ。

 そして、それを学級の子ども達に伝えることができたの」



「……わかるわ……だって、その時の子ども達の気持ちは、今、同じように、あなたの手を通して、私に伝わっているんですもの。

 …………みんな、ありがとう、わかるわ、みんなの気持ちがよっくわかるの……」

 


 花村先生も、エルフィーナも、お互いに目を閉じている。


 きっと、そこに広がる空間には、学級の子ども達と花村先生の子どもが、仲良く遊んでいるに違いないと感じた。まるで夢の世界を駆けまわるように。




 花村先生は、目を開けて、もう一度エルフィーナを見てから、

「本当にあなたに会えたことは、夢のようでうれしいわ」

と、つぶやいた。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その夜、僕は風呂上りに何気なくソファに座ってテレビを見ていたら、しばらくして、同じようにお風呂を済ませたエルが、横に立っていた。


 かわいいピンクのパジャマは着ていたが、いつもとは違い、まだ髪の毛が濡れていて、少し尖った耳が髪の毛の間から先の方だけ飛び出していた。




「髪が濡れたままじゃないか、風邪でも引いたら大変だよ」

と、僕が言うと、エルは黙って手に持っていたタオルを差し出した。



「おいで」

と、僕は言って横に座らせてから、静かに髪の毛を何度も拭いた。


 エルは、目を閉じて黙って頭を拭かせたまま、じっとしていた。ふと、横を見ると毛布が折りたたんでソファの上に置いてあった。


「エル、また、二人でまた野営でもするか?」


 エルは、チラッと毛布を見て、「うん」と笑顔で頷いた。

 僕は、テレビを消して、部屋の電気も暗くしてから、毛布を広げ、今日は頭からすっぽりと二人で被った。

 肩を寄せ合い、息苦しくないように顔の付近は広めに開けてた。




 相手の鼓動や息使いまでが聞こえてきた。



 すると、不意にエルが話し出した。

「今日のことも…………私の魔法かもしれないの………」


「魔法?」



「花村先生が、夢のようだって…………私の意図しない魔法……」





「でも、喜んでたじゃないか」

「この魔法は、私には関係のない所で、勝手に、誰かに夢を見せてしまうの……私は、ちっとも…………」



「そんなことはないよ、エル。

 この間、美穂ちゃんが、〈きっと解決してくれる〉って信じてた山田先生の夢だって、叶ったじゃないか。

 あのお陰で、学級がうまくいったんだろ」




「直人、私の5枚目の羽根のこと覚えてる?」


「ああ、君の大切な人の形見だったよね」


「ええ、あの羽根の持ち主も、夢を見てたの

 …………いつも私が幸せになるという夢をね…………」


「いいじゃないか……」





「でもね……彼は、争いの中で戦いに巻き込まれ、亡くなってしまったの

 ……彼の夢は、本当はもっと自分のために使うべきだと言ったのに

 ……いうことを聞かず、いつも私のことばかり言っていたの」



「そうだったのか……でも、わかったよ。

 だから、エル、君は僕と会えたんだね……その彼の夢のお陰なんだ」


「いいの?こんな魔法で…………こんな自由にならない魔法で」


「大丈夫だよ。君の周りには、たくさん夢を見る人が集まっているけど、みんな自分だけでなく、いろんな人のために夢を見てくれる人なんだ。だから、君だって、少しは楽しい思いをしているだろう?」


「ええ、確かに、うれしくなることはたくさんあるわ」





「僕だって…………僕だって…………いつかは、君と同じ夢が見れたら…………いいなあと…………思って…………いるんだけどなあ…………」


「なあに?」


「いや、何でもないよ!手を出して…………僕の夢を分けてあげるよ🙏」




(つづく)

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