第10話 誕生!エルフの学級 2 (大切な1枚)

「なあ、エル……平気か?」

 僕は、ソファー🛋️に座ってテレビを見ているエルフィーナに、後ろの食卓宅テーブルから話しかけた。


「何か気になるの直人なおとは?」

 エルフィーナは、振り返りもせず、そっけなく答えた。




 家で、唯一エルフィーナと二人っきりになれるのは、母ちゃんが風呂に入っている時ぐらいだ。長風呂の母ちゃんがいない間に、どうしても確かめておきたいことがあったんだ。



「だって、教室のあの様子じゃ、エルが寂しいんじゃないかと思ってさ……」

「教室の様子って?あ!直人は、教室を覗いてたのね……」

 ちょっと振り向いたエルフィーナは、笑顔だった。




 僕は、慌てて

「だって……心配だから……」

と、言い訳した。




「んーん、ありがとうね直人。

 でもね、寂しいのは、私じゃないのよ、きっと、子ども達の方が寂しいんだと思うの。

 だから、もう少し待っててね、もうすぐだから……」

 エルフィーナは、また、優しく微笑んだ。きっと何か解決策はあるのだろう。

僕は少し安心した。


「そっちに行っていいかい?」

「いいわよ」


 僕は、もう一つ確かめなければならないことがあったんだ。

 エルフィーナの横に座って、ちょっと考えたが、早くしないと母ちゃんが風呂から出てくる。

 

 僕は、思い切って聞いた。

「エル、君の羽根は、4枚じゃなかったのかい?」



「…………………」



 エルフィーナは、じっと前を見つめたまま動かなくなってしまった。




 しまった。聞かない方が良かったのか。エルが、いやな気持になってしまったんじゃないか?

 僕は、しばらく黙って見守ることにした。

 すると、エルフィーナは、ゆっくりとこちらを向き話し出した。




「直人には、やっぱり見えていたの?今も見えるの?」


 エルフィーナから笑顔は消えていた。




 そして、最初に会った時のような、どこか思いつめた真剣な表情をしている。

 僕も本当のことを言わなければならないような気がした。




「…………見えたのは……最初に君に会った時だけよ。

 今は見えないんだ。

 …………でも、僕には大きな羽根2枚、小さな羽根2枚の4枚しか見えなかったんだ……」


「そう、それでも、やっぱりうれしいわ。やっぱり、直人は、私を守ってくれる人だったんだもの」


「どういうことなの?」


 エルフィーナの思わぬ言葉に、僕はびっくりした。




「私達には信頼の羽根があるの。この羽根は、本当に自分を信頼してくれる人や守ってくれる人しか見ることができないんです」


「じゃ、教室で羽根が見えたと言っていた美穂ちゃんは、……」

「そう、あの子は、純粋に私を心から信用してくれたのね……とてもいい子よ」

「でも、あの子は、羽根が5枚だって…………」


「そうなの、とっても純真すぎる子なの…………4枚は私の羽根なの。だから直人も見ることができたの。でも、あとの1枚は…………」





 そこまで言うと、エルフィーナの目からは、大粒の涙が溢れ出した。

 僕は、その涙を見た時、この世界で最初の晩、なぜか心細そうにしていたエルフィーナを思い出したのだった。



 そして、僕は、静かに聞いてみた。


「1枚は…………ひょっとして大切な人の形見なのかい?」






「直人さん、どうしてそれを?」





「だって、前にエルが言っていたじゃないか。

 向こうの世界がいやになって、僕のギルドお仕事案内に手を伸ばしたって。

 たぶん、それは、とっても辛いことがあったからなんでしょ。

 エルのような頑張りやが、そんなに簡単に自分の世界がいやになるわけがないもの。

 だとしたら……ね……」



「直人ったら……」


 しばらくエルフィーナは、沈黙したが、ゆっくりと話を続けてくれた。


「…………100年も一緒にいたわ。いつも私を守ってくれたの。

 私だって助けてきたわ……でも、守りきれなかった。

 彼だけが、力尽きてしまったの……寂しかった。

 一緒にいた人がいなくなることの寂しさを直人はわかる?

 …………きっとあの子達の気持ちも同じような気がするの……私は直人に会えた……だから今度は私があの子達の直人になるの」



 エルフィーナの瞳は、うっすらと濡れていたが、しっかりと前を見つめていた。




(つづく)

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