第9話 誕生!エルフの学級 1 (妖精?の羽根)

「エル、大丈夫か?」



 僕は、心配でたまらなかった。朝の出勤は、一緒に出掛けるようにしているんだ。

 僕は、教頭だから他の職員よりも出勤するのが早いんだ。でも、エルフィーナもそれに付き合ってくれている。


 今日は、着任式・始業式・入学式と続き、最初に子ども達と会う日なんだ。

 一緒に歩きながら出勤しているところなんだけど、やっぱり心配でしょうがない。



「何が?」


「何がって、始めて子ども達に会うんだぞ。緊張しないのか?」

「緊張?なぜ?子どもでしょ?……別に魔物でも、ダンジョンから現れるモンスターでもないでしょうに」


「そりゃそうだが……」


 エルは、落ち着いたものだな。僕なんか、始めて担任をもった時は、不安で不安でたまらなかったのを覚えているよ。



「それより直人、今日はいろんな式とかあって、教室ではあんまり時間が無いようだけど、何をすればいいの?」


「まあ、主に教科書を配れば、終わりなんだが……

 大事なのは子ども達と、どれだけ仲良くなれるかだろうな……

 そこが、これからの1年間を左右するんだ」




「ふーーん、そーか」

 エルフィーナは、何かを考えているようだったが、それ以上は何も言わなかった。


 学校に着いても、周りの先生と話をしながら、教科書など今日配布するものの準備を熱心にするだけだった。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 着任式・始業式で、多少はエルフィーナの容姿に注目は集まったが、すぐに式も終わり、主役は1年生の入学式に移っていった。

 6年生にとっては、前年度のうちに練習済みであるので、エルフィーナが何もしなくても、予定通りの行動でうまく入学式を終えることができた。



・・・・・・・・・6年1組の学級開きだ。


 僕は、気づかれないように、6年2組の教室の近くまで行ってみた。心配で、居ても立ってもいられなかったんだ。



「エル先生、一緒に行きましょう」

「ありがとうございます、山田先生。支援員しえんいん千恵実ちえみ先生は、もう教室ですか?」


「ええ、彼女は子どもの支援が主な仕事なので、休み時間も一緒にいることが多いんだ」

「大変ですね」

「その分、授業中は、少し楽をさせてあげないとな」

「気をつけます……」



「さあ、ここが6年2組だ。

 教室では、君がメインの指導者だ。誰にも遠慮はいらない、思い切ってやってくれ。

 そのうえで、助けてほしいことは、遠慮なく僕や千恵実先生に言ってくれ、わかったね」


「はい」






☆ ☆ ☆ ・ ・

 あーあ、山田先生、あんなこと言って大丈夫かな~。もっと傍で見てあげたいけど、僕が教室の近くでウロチョロしてると、子ども達も落ち着かないからなあ~。

 この辺からだったら、大丈夫かな………。


☆ ☆ ☆ ・ ・



「みなさん、おはようございます。改めて、今年1年間、どうぞよろしくお願いします。エルフィーナです」




「………………………………」


 子ども達の反応はなかった。誰一人、口を開くものはいなかった。




「では、教科書など、新学期に必要なものを配っていきます……山田先生や千恵実先生もお願いいたします」

「わかりました……」



「山田先生!自分で持って行っていいですか?」

「あ、ああ、うん………………」


「……………………」



☆ ☆ ☆ ・ ・


 あー、山田先生が、困ってるなあ~。どうしたんだ?学級の子ども達がなんか変だなあ。

 助けに行った方がいいかな…………


☆ ☆ ☆ ・ ・



「いいわよ、どうぞ。自分達でお手伝いしてくれるのね、わかったわよ……」


「……ふん……」




☆ ☆ ☆ ・ ・


 わあー、何人かがエルの手から教科書を持っていったぞ…。後の子は、積んであるものを勝手に配り始めた……大丈夫かな……

 あーー、心配だなあ~

 

☆ ☆ ☆ ・ ・



「ありがとうね、思ったより早く終わったわ……さすが6年生だわ」


「……………………」





☆ ☆ ☆ ・ ・


 やっぱり、誰も答えない。雰囲気悪いな~

 ふぇーー心配だよーー

 助けに行った方がいいかなあ~あ~…………。



☆ ☆ ☆ ・ ・



 あれ?1人の女の子がエルフィーナに近寄って、話しかけてるぞ。





「先生?……先生は……妖精なの?」



 あの女の子は、周りの子とは違うぞ。なんの屈託もなく、まっすぐな目でエルフィーナと目を合わせてる。

 エルフィーナも当たり前のように、女の子の質問を真剣に考えてるみたいだ。





「妖精?……あなた達からみれば妖精なのかな。でもね、どうして、妖精ってわかったの?」



「だって、先生の背中には、5枚もの羽根🪽がついてるんだもの!」





「そっか、やっぱり美穂みほちゃんには、見えたんだね!」


「あれ?先生、私のこと知ってるの?」


「もちろん知ってるよ、橋本美穂はしもと みほちゃんでしょ。素直ないい子よ。何でも一生懸命に頑張る子、とっても優しい子なのよね」


「どうして知ってるの?」


「花村先生がね、大好きだって言ってたのよ、だから私も大好きになったの」





 あ、ここで、授業終了のチャイムが鳴った。




「それじゃ、今日は、これでおしまいにしましょう。

 明日からこの6年2組32名の学級で、一緒に勉強していきましょうね。

 よろしくお願いしますね。気を付けて帰るのよ……」












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「エル先生、びっくりしたでしょう?」

「え、山田先生、何がです」


「美穂ちゃんは、私が担当している子なんですが、時々不思議なことを言うんです。

勉強が苦手なんですが、友達とのコミュニケーションもあんまり上手じゃありません。

 でも、学級のみんなは、美穂ちゃんのことをとても大事に思っていて、いつも仲間に入れてくれたり、かばってくれたりします。

 不思議なことを言っても決して馬鹿にしたりしないんですよ」



「そうなんですか」




「前の担任の花村先生は、そういうところが厳しくて、人の気持ちを大切にしないと、自分も大切にしてもらえないと、いつも言っていましたよ……」



「私も見ててエル先生が、自然に美穂ちゃんの言葉に合わせてあげていて素敵だったなあ、なんか嘘じゃないような気になって、思わず背中を見ちゃったの……でも、私には見えなかったんだけどね」


「千恵実先生にだって、そのうちに見えると思うわ……私を信じていてもらえればね……」


「そっか……気長に待つことにするね、ちゃんと信じてね……」





「ありがとう」




(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る