第3話 学校だって、ハローワーク? 3(依頼状)
「……ただいま、母ちゃん……」
「お帰り、今日は、早いんだね……」
「うん、ちょっと、家でやらなきゃならないことがあってね。……今晩は遅くなるから……俺にかまわなくていいからね」
「あーあ、まったく早く帰ってきたと思ったら、家でも仕事かい。
これじゃ、お嫁さんを探す時間もありゃしないじゃないか……たまには、どっかに遊びにでも行って来なよ」
「いいから、もう。母ちゃん、早く晩飯を食わしてくれよ!」
「イケメンじゃないけど、ちょっとぷっくりした顔立ちは、母性本能をくすぐると思うんだけどな……“可愛い”とか言われないのかい?」
「いいから俺のことはかまわなくていいからさ……」
「まったく、これじゃあ、ただの下宿屋だね……そうだ、うちは、こんだけ広いし、部屋もいっぱい余ってるんだ。
父ちゃんが亡くなって、もうだいぶ経つしね。
うちには、私とお前しかいないから、本当に下宿屋でも始めようかしらね……」
「とにかく、何でもいいから、晩飯くれよ……」
僕は、
学校の近くに母親と2人で暮らしている。僕は、“母ちゃん”って呼んでるんだ。
父親が生きていた頃は、家を近くの会社の寮として使っていた。
両親は、ここで寮生の世話をして生計を立てていた。
僕の母ちゃんは世話好きで、寮のみんなからも慕われていた。
背が低くてボリュームのある体格だから、決して美人ではないが、いつも笑顔で愛嬌のある話し方は、寮のみんなも“母ちゃん”と呼んで親しくしていた。
僕が小学生だった頃、寮のみんなに可愛がってもらったのを今でも覚えている。
「ところで、今日はどんな仕事をやるんだい?何か手伝おうか?」
世話好きなのは、今でも変わらない。息子だって、他人だって、誰彼かまわず声を掛けて手伝おうとする。
本人は親切心から声をかけるが、知らない人からすると“お節介”としか映らないんじゃないかと、息子の僕はいつもハラハラしている。
「ダーメ!学校の事だから、秘密なの!」
「えー。いいじゃない。どうぜ、うちに持って帰って来てんだから、秘密もへったくれもないじゃない」
「はいはい……そのうちにね……困ったら頼むから……その時はよろしくね」
母ちゃんは、細かいことを気にしないので、すぐあきらめて別の事を始め出した。
僕は、晩ご飯を食べた後、自分の部屋に閉じこもった。
田中校長から借りた文庫本に目を通し、“異世界”やら“エルフ”やら“ギルド”やらを理解しようと、必死になったんだ…………。
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何だか、夢のようなお話だ……自分が知っている童話ともちょっと違うし……
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僕は、漫画もあんまり読んでこなかったので、今一つピンとこない。
読書は、図書室にある本📚ばっかり。
暇な時間は、勉強ばかりしてたなあ。
僕は、何のために……あんなに勉強してたんだろう………
気が付けば、真夜中を廻っていた。慌てて、文庫本の巻末付録を切り取り、“ギルドお仕事依頼状”と書かれた折込の用紙を広げ、内容を確認した。
えっと、『希望者は………
これは、仕事をお願いしたい人だよな……
とりあえず“エルフ”としておこう。
クエストは………
これは、仕事の事かな?
正直に書いておこう。
“学校の先生”これで通じるかな?
“子どもに勉強を教える仕事”と付け加えておこうかな。
レベル条件………
なんだ?校長が言ってたな。
“子どもに好かれる可愛い人”ぐらいにしておこう
報酬………
“給料”は当然かな。
あとは、“衣食住と安心で安全な生活”ぐらいは、保障できるかな。
依頼者………
とりあえず自分の名前を書いておこう“
まあ、これだけ書いて、明日校長に見せれば、後は何とかしてくれるだろう……
ああ、もう明け方じゃないか……眠い…………
・・・・・・・僕は、机の上で突っ伏してそのまま眠ってしまったんだ。ちょうど顔の下には今仕上げた“ギルドお仕事依頼状”が広げてあった。
僕は、イビキ、歯ぎしり、アクビを繰り返しながら、朝までぐっすり眠ってしまった。
「直人!直人!起きなさい。遅刻するよ!」
「……あ……う……うん……朝?……ああ」
「まったく、そんな顔して、鼻水やよだれたらして、ああ涙まで流して、机の上は水浸しじゃないの?」
「……え?……ん……ああ……大丈夫……みたい?」
机の上を手でなでてみても、なんともなく、濡れた跡もなかったので、僕は安心した。
「じゃあ、早く、朝ご飯食べて、顔洗って学校へ行きなさい!
……本当に、早く結婚すればいいのに……誰かいないの?」
「うるさいなあ……」
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…………そして、この日、学校の校長室でエルフが出現するんだよなあ。
(つづく)
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