第26話 妃になる条件
翌日のお昼にゾマーとメイヤーから聞いた話をヒルトたちに伝えた。
「オクタヴィア・ギーア嬢ですか」
「ギーア男爵家のご令嬢らしいんだよね。でも、ヘレーネ嬢の話によると、ギーア家っていうのは、女子を忌避しているお家なんだよね?」
「はい、お兄様にお願いして、ギーア家に関してまとめた情報を送っていただくことにしました」
ヘンカー家には、そういった情報がまとめられてるからねぇ。
「見た感じはどう?」
僕の問いかけにヒルトは口籠り、ヘッダはひたすら笑顔を浮かべ、そしてイヴは……、少し前のブルーメ嬢に対するような顔をしていた。つまるところ不愉快と言わんばかりの顔である。
「もしかして、その女神の宣託がどうたらって、教室で吹聴してる?」
「いえ、私どもは、彼女が『女神の宣託』と具体的な言葉を口にしたところは目撃していません」
「いませんけれど、あれでよく学園に入学出来ましたわね? と言ったご様子ですわ。編入試験どうやって通ったのかとても不思議ですのよ」
ヘッダが言うには、上学部から学園に通う場合は、途中入学という形になるので、いくつかの試験を受けることになるそうだ。
学力試験はもとより、基本的な魔力の制御ができているかの試験と、ついでにマナー試験もある。
合格点に到達しなければ容赦なく落とされ、それでもどうしても学園に通いたいならば、一年後に下学部の試験を受け直してもらうそうだ。
その辺はもうきっちり厳しく決められている。
「ヘッダがそこまで言うってことは、マナー面が問題なのかな?」
「正直にお答えすると、貴族の子女なのかと疑いたくなるありさまです」
ヒルトの苦笑いに、なんかざわざわするなぁ。
「ヘッダ、調べられる?」
「アルベルト様のお話を聞いていたら、暢気に構えている場合ではありませんわね。理事会と副学長にお話を通しましょう」
学長と言わなかったのは、それがオティーリエの次兄で、お飾りの地位であるからだろう。
「そんなにおかしなことしてるの?」
「おかしなというか……」
「アルベルト様とイグナーツ様のことを『殿下』とお付けしてないのよ」
「え?」
「アルベルト様とイグナーツ様のクラスでは、お名前に様付けしてると思うんだけど、それは、お二人がそう呼ぶようにと言ったからでしょう?」
イヴの言葉に、おもわずイジーと顔を見合わせて頷く。
「あと、一・二年の時に同じクラスだった生徒は、そんな感じだと思うけど?」
「本人の前ではお名前に『様』を付けてお呼びしてると思う。けどいない場所では『第一王子殿下、第二王子殿下』呼びよ? お二人とも名前呼びでいいし『殿下』はつけないでいいって言ってくれたけど、それでもやっぱり『王子殿下』を気軽にお呼びしてはいけないって、わかってるのよ。でも彼女『リューゲン様』『イグナーツ様』とお二人のことをお呼びしてるの」
まぁ……、僕はそこまで気にしないけれど、こういうのは僕ら王族以外の人間にとっては、無視できない何かがあるんだろうな。
「まぁ、それでも私やアン……お姉様も、アルベルト様、イグナーツ様、って呼ばせていただいてるから、うるさく言うつもりはないわ。でも……」
「でも?」
「彼女『いずれ自分は王太子の妃になるのよ』って言いふらしてるわけ」
やべー、何その電波。
いや、女神の操り人形なんだっけ。
「頭がいかれてるのかと思ったわ」
容赦ないな~。
「いろいろ突っ込みどころが多い発言なんだけど、決定的なことを言ってるわけじゃないし、罰するとまではいかないか」
「え? でも、自ら『妃』になるとか言ってるのよ?」
「んー、これがさぁ、はっきりと王太子妃になると言っちゃったらアウトなんだけど、王太子の妃だからねぇ?」
「微妙な言い回しってこと?」
「うん、王太子でも王太子妃に子が出来なかったら側妃はとるんだよ。だから、罰するにはちょっと弱すぎる発言なんだよね」
それでもイヴは納得できていないようだ。
「男爵令嬢でも側妃になれるの?」
「側妃になる条件はさ、数か国の語学が堪能で、諸外国の特産やら情勢に明るく、ちゃんと外交ができることなんだよね。その場合、親の爵位が男爵でも『それだけ優秀なら、うちが後見しますよ』という伯爵家が存在するんだ。そこで後見してくれる伯爵家と養子縁組して『側妃』として召し上げられるというわけだ。ただし、どんなに優秀でも、平民は『妃』にはなれない」
「どうして?」
「王族はね、貴き血を残さなきゃいけないから」
だから、王となる王族の婚姻相手は、貴族でなければいけないのだ。
先代国王陛下はこの辺のこだわりが強くって、貴族でも侯爵以上の血でなければ王家に入れないと言い切った。
きっと血統主義だったに違いない。
オティーリエが知る元のラノベの話や、ヘレーネ嬢の実家の話を整理すると、おそらく先代国王陛下は我が子の婚姻相手として、王家と血を混ぜないとしているマルコシアス家の人間である母上ではなく、ヘレーネ嬢の実母を国王陛下の婚約者で正妃にしたかったはずなのだ。
でも、大本命に逃げられてしまったから、絶対に子供を作らせない無理な条件付けをした母上を王妃にし、一年後にハント゠エアフォルクから側妃を引っ張ってこようとしたに違いない。
まぁそれもこれも、国王陛下がやらかしてしまったので、リトスから嫁とりすることになり、先代国王陛下の目論見は、全部ご破算になったわけなんだけど。
まさか自分の息子が他国から嫁をとるとは思わなかったんだろうなぁ。
そして相手がリトス王家に近い公爵家の令嬢でなかったなら、先代国王陛下は絶対に許可しなかったに違いない。
血を守るということにおいては、先代国王陛下は厳しく精査していたんだけど、でも子供を多く残せなかったところは失策なんだよなぁ。
そのせいでイジーにとばっちりが来ることになっちゃったわけだしねぇ。
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